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Tradition 「伝統」
「これ、本気なの、ミランダ? ちょっとバカになった感じだよ」
「バカなこと言わないの。あなた、最高よ」
「ボクが言ってるのは、そのことじゃないよ。ボクはキミのプロムに行くけど、万が一、ボクだけが……分かるよね?……ボクだけがドレス姿だったらイヤなんだよ」
「だって伝統なのよ。知ってるでしょ。男子は全員、ドレス姿になる伝統」
「ああ、でも……あのねえ……キミのお兄さんに相談したんだ。そしたら、お兄さんは、そんな伝統、聞いたことないって言ってたんだよ。女装のプロム? 何が言いたいかって言うと、これって……ちょっと……なんて言うか、ちょっと変だよ」
「あら、あたしにしてみれば、男子がタキシードを着てダンスする方がよっぽど変だわ。でも、それは、あたしがあなたの学校のダンスパーティに行った時に、あたし、指摘しなかったかしら?」
「いや、でも、それって……ちょっと違うよ。男子は、やっぱり、タキシードを……」
「ちょっといい? この伝統が存在している理由は、まさに、その点にあるのよ。男子であれ女子であれ、何か特定の服装をすべきだと決まってるわけじゃないのよ、チェイス。服装なんて恣意的な決まり事なのよ。だからこそ、こういうことをするわけ。あなたたち男子には、キレイに着飾る機会を、そしてあたしたち女子には、ちょっとラフになってズボンを履く機会を設けるわけ。完全に理にかなっているでしょ?」
「ま、まあね。でも……なんて言うか……それでも、ちょっと極端に走ってる気がするんだよ。気持ちは分かってる。本当に。男子はドレスとかを着て着飾ると。でも、これは着ける必要があるのかなあ。このおっぱいだよ? それに、このランジェリーも?」
「それも、全部、衣装の一部よ。加えて、プロムの後に起きる出来事に備えて、あなたも最高のルックスでいたいと思うんじゃないかしら? あたしが言ってる意味が分かればの話しだけど」
「プロムの後?」
「ちょっと、頼むわよ、あなた。聞いたことあるでしょ? プロムってのは、男子にとっては、まさに初体験をする夜のようなもの。あたしも、その時の仕事に備えて、完璧な道具を用意してあるわ。でも、それ以上のことは今は何も言いたくないわ。だって、サプライズの出来事にしてあげたいもの。さあ、分かったら、ぐずぐずしないで。出かける前に、山ほど写真を撮らなくちゃ」
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