午前7時、目覚まし時計が1秒間だけ鳴って止まる。マディが素早く止めたからである。毎朝、彼女はこうして目が覚め、仕事に行く準備を始める。
彼女はいつも全裸になって寝ている。だから、起きる時の寒さは避けられない。寒いだろうなとぼんやり思いつつ、掛け布を引き剥がすようにめくり、両脚を振ってベッド脇に足をつき、体を起こし、二度三度、目をこすった。けれど、完全には目覚めていない。
そのまま、朦朧と、いつもの朝のルーティンを続けた。そして、朝の紅茶のためのお湯を途中まで沸かしたところで、ようやく彼女は気が付いた。「今日は仕事に行かなくていいんだった!」
「コロナのバカ……コビット19だか何だか知らないけど」と、マディは小さな声でつぶやいた。ロックダウンの期間、職場も閉鎖なので、これから2週間はレイオフ状態になっていた。収入がなくなり頭に来ていたけれど、突然、自由な時間をたんまり与えられたことには文句を言えなかった。
週60-70時間のハードな勤務時間に慣れされてしまった彼女にとって、「自由な時間」というのは、知らない概念と言えた。実際、自由に使える時間について考えれば考えるほど、これまで時間がなくて着手すらできなかった、仕事以外の個人的なプロジェクトが、To-Doリストにどんどん積み上がっていくのに気づくのだった。
「まあいいか」と彼女はため息をついた。……さっきまでなら、もうちょっと寝ていたいと思ってたけど、もう起きちゃったし、ティーの準備もしてることだし、このまま一日を始めちゃってもいいかもしれない……。
マディは、何をしようかと部屋の中を見回した。どのプロジェクトから始めようか? 何気なく、ガラスの引き戸ごしに中庭へ目をやった彼女は、むかし作った小さな庭をずっと放置していたことに気づいた。……お天気もいいし、あれから始めるのが一番かも……。
ふわふわ毛のついたスリッパをはき、マグカップの紅茶を啜りながら彼女はベランダに行き、引き戸を開け始めた。でも、途中まで開けたところで、朝の冷たい空気に触れ、彼女はある事実に気づいた。自分が、スリッパを除いて、一糸も身に着けていないということに。
マディは急いで引き戸を閉め、カーテンの陰に隠れ、こっそり誰か見てる人がいなかったかと覗いた。でも、改めて外を見て気づいたのは、外が不気味なほど静まり返っていること。
確かに、普段でも、この早い時間帯だとたいていの人は起きていない。加えて、この町は小さなカレッジタウンであり、コロナウイルス危機のために、住民の大半を占める学生たちの多くが故郷に戻ってしまい、ほとんど人がいなくなっていた。それに、ここに留まることにした人たちも、たぶんできるだけ寝ていることにしてるのだろう。加えて、マディの住居の周りにはフェンスがあるので、彼女の家を覗き込めるほどの高さのビルは3つほどしかない。
見られる心配がないと気を強くしたマディは、改めてカーテンも引き戸も開け、庭に出めた。朝の陽ざしが肌に当たる感覚の気持ちよいこと。信じられないほど心地よい。
ガーデンチェアの横にマグカップを置き、腰を下ろした。紅茶を啜りながら、ちょっと日光浴でもしよう。
チェアの背もたれに背中を預け、ゆったりとした姿勢になる。チェアのひんやりとした生地が裸の背中とお尻に感じる。その、ひんやりとした感じが、日差しに照らされた太ももやお腹や胸に感じる温かさと一緒になって気持ちいい。
「うーん……」
ブラを着けなくても構わない朝。そのことがすごく気持ちいい。ましてや何も着ないでいられるのだから、なお一層。
この時になって初めて、マディは日々の生活でいかにストレスを受けていたかに気づいた。何時間も何時間も、着心地の悪いブレザーやスラックスに身をまとい、あるいは窮屈なスカートにハイヒールの格好になってすごす。その間、自分の仕事でちゃんと物事がなされているかをチェックするのに全エネルギーと全神経を集中させる。そんな毎日だった。マディは、自分が忙しいと気づくことすらできないほど忙しい日々を過ごしてきたのである。
だが、今は、パティオの椅子に手足を伸ばしてゆったりと座りくつろいでいる。聞こえるのは、鳥のさえずる声だけ。紅茶の香り。そして体を優しくなでるそよ風。ようやく彼女は、長い間、抱えてきたストレスを心の中から洗い流すことができたのだった。「ああ……。やろうと思えば、毎朝、これができるのね」と彼女はため息をついた。
3、4分間だろうか、彼女は目を閉じて、ゆったりと座っていた。太陽光線に冷えた肌を射抜かれる感覚を味わっていた。
その時、突然、強い風が何秒間か吹いた。マディは素早く両手で胸を抱えるような姿勢になった。同時に冷たい空気に当たったせいか、左右の乳首が固くなっていた。
彼女は、鳥肌が立ったのを直そうと両手で乳房を優しくさすり始めた。でも、確かに鳥肌は消えたものの、すぐに、自らの手で乳首を一層固くしてしまっているのだった。もちろん、その硬直化は、寒気とは別の理由によるものである。
ともかく、マディは体がうずき始めるのを感じた。お馴染みの結果だった。急に、自分が裸で庭にいることを思い出し、マディは慌てて体を起こした。
彼女は、片腕で乳房を隠し、もう片手で股間を押さえながら、周囲を見回した。でも、依然として辺りには誰もいないことに気づく。一瞬、部屋に戻って、手短にソロ・セッションをして解消しようかと思った。でも、それはやめる。
この屋外の空気があまりにも気持ちいいこともあるし、加えて、こんなにリラックスしたことはしばらくぶりだし、さらに自分でも驚くけど、こんなに性的に興奮したことは久しぶりだったから。思い返せば、最近、自慰をする時間も気力もなかったのだ。今この瞬間、せっかくこんなに心が落ち着き、同時に興奮しているのに、それを無駄にしたくない。
誰にも見えないし、声を聞かれることもないだろう。彼女は元通り椅子にゆったりと座り、胸を押さえていた手にやりかけの仕事を再開させた。
その手は勝手に指先を立てて、乳首をカリカリと掻き始めた。もちろんマディはそんな手の勝手な動きを止めようとはしない。経験上、こうしてカリカリすると間違いなくあそこがじゅわっと湿ってくるのを知っていた。
太ももを少し開き、軽くトリムしてる陰毛の林の中に中指を這わせた。その指は脚の間を進み、外側の唇の間へと進む。指をその真ん中の部分に押し付けた。みるみる濡れてきているのが分かる。
「ああーん……」
喘ぎ声が出た。自分の声に自分で驚いた。周りが静かなだけに、その声はいつまでも響き渡るように聞こえた。誰かに聞こえたかも。一瞬、気になり、マディは口を閉じたが、指の方は探検を続けていた。
さらにちょっとだけ指を伸ばし、先端だけをアソコに入れ、濡らした後、クリトリスへと矛先を変えた。
その瞬間、体がブルッと震え、またも喘ぎ声が漏れた。もっとも、口を閉じてるのでくぐもった声にしかならなかったけれど。
指はクリトリスのところを優しく円を描くように動いていた。同時に、もう一方の手はもう一方の乳房へと移動し、乳房全体をぎゅうっと体に押し付ける動きをした。
アソコをもっと自由に触りたい。気持ちが高まってきたので、左脚を持ち上げ、椅子の上に乗せた。結果、脚を大きく広げてる。近くに人がいたら、隅々まで見えていたことだろう。
マディは、あまりに快感に溺れてしまい、もはや誰かに見られるかもしれないことなど全然気にしなくなっていた。今度は指を2本にし、バギナに滑り込ませた。ヌルリと簡単に入っていく。いったん入れたら、当然、後は動かし始める。最初はゆっくりと、でも次第に強さを増しながら。
声を漏らすまいとしていたものの、エクスタシーへと昇っていく過程で、どうしても声が漏れてしまう。ハッと息をのむ声。ああーと安堵する声。そして苦悶してるようにも聞こえる喘ぎ声。
空いている一方の手が腹部、太もも、そして胸を撫でまわるかたわら、もう一方の手は3本目の指も入れていた。頭の中はほとんど空っぽ。特に何も考えなくなっていた。意識は、ただひとえに、体が感じている刺激のひとつひとつに集中。
今や彼女の指は驚くほど速く動いている。椅子がギシギシ音を出し始め、彼女の体が激しくうねるのに合わせて、少しずつ位置をずらしていた。
「ああ、いいっ! すごいわ! 感じる。ああん。あっ、すごい!」
上品さを求める意識などすでに捨てていた。はしたないほど自由奔放に声を出し、喘ぎ、叫ぶ。
片方の手を左の乳房に戻し、強く揉み、同時に股間の指で、今度は容赦なく自分自身を犯した。
そして、それから間もなく快感は絶頂に達する。
全身が痙攣する。オーガズムが荒波となって体を飲み込んでいく。
自分では分からなかったが、呼吸を止めていたらしい。ようやく呼吸を再開し、ぐったりと椅子の背もたれに背中を預けた。両腕を椅子の左右にだらりと下げ、脚も大開きのまま。呼吸は短く、時折、ちょっと止めては苦しそうに大きく吸う。玉のような汗が顔や体に噴き出している。
オーガズムが終わった後も、興奮が醒めるまで、何分間か裸の体を日光とそよ風にさらしていた。
やがて日が高くなり、日光が熱く肌を刺す感じになってくる。マディは、ようやく目を開いた。いったん目を開けたものの、陽の光がまぶしく、すぐに細目になった。
その時、彼女は視界の隅に人の姿を見たように思った。
気のせいではない。確かに誰かがフェンスのところからさっと逃げるような姿が。さらに、その直後に、近くで引き戸を閉める音も聞こえた。
素早く両腕で体を隠し、起き上がった。アドレナリンが噴出し心臓が高鳴っている。
人の気配を探して辺りを注意深く見まわした。でも、結局は、誰もいない。
急いで椅子から立ち、戸を開け、部屋の中に飛び込み、戸を閉め、カーテンを引いた。そのすべてを、ほぼ一瞬の動作で行った。
あそこに誰かがいてあたしを見ていたのかしら?
急にそわそわしてきた。どこまで見られたのかしら? あたしの知ってる人? 動画に撮られていた?
次々に問いが浮かび上がった。不安な気持ちで興奮し、心臓がどきどきしてるのを感じたけれど、彼女自身、驚いたことに、そのことを考えているうちに、あそこがいっそう濡れてくるのも感じたのだった。
……まあいいわ、どうせ、今日は他に何もすることがなさそうだし。
マディはそう思いながら寝室に戻り、引き出しの中からお気に入りのディルドを取り出したのだった。