「中国の呪い」 The Chinese Curse by Piscator 

他の多くの人たちと同じく、俺もコロナウイルスのせいで独り家に閉じこもらなくてはいけなかった。新型コロナウイルスのことをトランプ大統領は中国ウイルスと呼びたがってるが、その言葉を聞いたとき、俺は「中国の呪い」と呼ばれる箴言のことを思い出した。「数奇な時代を生きられますように」(参考)という言葉である。このフレーズ、実際は英語起源であり、中国語での出典はひとつも見つかっていない。ともあれ、この箴言が表す「祝福の偽装した呪い」というアイデアは俺の心にこびりついた。

ある時、俺はエロサイトをサーフィンしていたが、ちょっと休もうと思い、椅子に深く座りくつろいだ。今もどこかで、自主的な隔離から強制隔離に至るまで、さまざまな形で、今の俺と同じように隔離状態にある人たちがいるんだろうなあ。多分、みんな多少なりともフラストレーションを感じてるだろう。俺は、とりわけエロいバイセクシュアルの3Pシーンを見て自分の手でストレス解消をしていたわけだが、今この時も、他のみんなも同じように手で何かやってるのじゃないか。そして、そろそろ、その行為にもフラストレーションを溜めている頃じゃないか。

そこで考えるのをやめても良かったのだが、コトを終えてヨゴレの始末をしてる時に、たまたまビデオのモニターに「レディ・プレーヤー1」(参考)の予告が映ったのだった。その瞬間は、俺にとってまさにユリイカの瞬間だった。バーチャルリアリティ(VR)とセックス玩具を融合する可能性を思いついたからだ。その後の話しは想像がつくだろう。

Covid 19の感染防止のためのロックダウンが実施された。それに伴って、ゼロ年代の若者やX世代(参考)、さらにはベビーブーマたちまでもが何万人も突然、職を失い、家に引きこもって、政府から支給される2千ドルを待つだけになってしまった。もし、手ごろな値段のVRと「個人用快楽装置」を組み合わせることができたら、隔離されてる人々にとって喜びとなるものを提供できるはずだ。それに、俺自身にもちょっとした儲けになるし、同時にソーシャルディスタンスを維持するのに役立てられるかもしれない。

VRの分野をざっと調べたら、現状では「レディ・プレーヤー1」でのスーツやデッキに近いものは何ひとつできていないのは明らかだった。新しいハイエンドのスーツで良い感じのはいくつかあったが、価格的には、俺がターゲットとする人には手が届かないだろう。だから、ハリー・ポッターの空飛ぶホウキのような体験を目指すのはやめだ。その代わり、視覚と聴覚の刺激を提供するために、現在市販されてるVRのヘッドセットと3Dポルノを利用することにしたい。そいつらとプログラム可能なリモコンのセックス玩具と連動させて、視覚と聴覚と、性器や性感帯に集中した身体的触覚の刺激をもたらし、それによって人々の溜まりに溜まった性的欲求不満を解消させるという次第である。

俺はコンピュータを操作できるし、スマホのたいていのアプリを操れるが、プログラミングはできない。だが、俺は、大学1年の時に堕落した時間を過ごしたおかげで、一緒につるんで遊んだ何人か天才的な学生と友だちになっていた。とりわけ思い出すのはフレッド・アピィだ。あいつはポーカーが下手で、いつも俺たちにカネを貢いでくれたものだが、彼は、地元のビジネス界にウェブサイトをデザインしたりアプリをプログラムしたりするバイトをしていたので、カネには困らなかった。俺とフレッドは時々一緒にストリップ・バーに入ったりしてたので、彼もエロサイトの愛好者であることを知っていた。

そんなわけで、さっそく俺はフレッドにメッセージを送ってみた。VRのヘッドセットからの入力と、リモコン式のセックス玩具への出力を同調させるアンドロイドのアプリをプログラムできるかと。フレッドは3ページにわたるメールをよこした。内容を要約すると、答えはイエスだが、ブルートゥース4.0以上でなくてはいけないと。さらに、何度かメールをやり取りし、ビデオ会議をした後、俺たちの新しい事業が発足した。

人間の最大の性感帯は左右の耳の間にある。つまり脳だ。脳が最大の性感帯だ。だから俺の提案するVRエロ装置にとっては、標準以上の画像と音響をもたらすヘッドセットが欠かせない。俺がターゲットとするお客は経済的に貧しいので、ハイエンドのVR装置のために必要な高性能コンピュータを持ってる人はほとんどいないだろう。確かに、ゲームをやる人は多いし、ゲームのコンソールを持ってる人も多い。だが、ゲームのプラットフォームはブランド固有なので、これも俺たちには使えない。

しかし、だ。ほぼ誰もがスマホを持っている。さらに、その大半がアンドロイドだ。オンラインのレビューをいくつか見たが、アンドロイドに連結可能な、とあるヘッドセットに驚くほど良い評価点数が出ていた。これを使おう。ノートパソコンにVRポルノをダウンロードし、メモリーにそれをコピーし、アンドロイドのスマホで起動する。そういうふうにできるかもしれない。

俺たちはヘッドセットを2台買い、現在でも手に入るVRポルノでテストしてみた。結果はというと、下半身には指一本触れてないのに、ショーの間ずっと勃起しっぱなしという結果になった。トム・ウェイツ(参考)の言葉を借りるなら、「自分自身を利用しないようにするので精いっぱい」だった。加えて、アンドロイドのスマホでコントロールできるセックス玩具が結構多いことも知った。ということは、プラットフォームと機器はすでにできているということだ。残る問題は、ユーザーの快感を維持し、高めるために、プラットフォームと機器との連動を確かにすること。だが、これはフレッドにとってはお茶の子さいさいである。

俺たちの当初の市場ターゲットは男性なので、ペニスへの刺激が重要だ。フレッドと一緒に使えるオプションを評価した結果、最も完全にカバーできるのはペニスサック(参考)だと意見が一致した。それはちょっと高価なのだが、俺たちのお客の関心のトップはペニスにあるわけだし、一番客を惹きつけるのは、何と言ってもソフトとハードであるべきだから仕方ない。加えて、少なくとも2つ、良さそうなモデルがあった。どちらもアンドロイドでコントロールできるし、同調の能力もある。フレッドは大喜びで、同じ会社が女性のための似たような製品を出してるので、それを使えば、俺たちの市場浸透は2倍にできるかもしれないと言っていた。

アナル玩具については売れる自信があまりなかったが、その道にはその道の人間がいるものだ。この分野でも、セックス玩具メーカーは一揃い製品を出していた。最終的に、アナルプラグ(参考)と前立腺刺激を組み合わせて、最も完全と言える全身快感の体験を与えることにした。乳首挟み(参考)も組み合わせるべきかについて議論したが、スタート段階では控えておくことにした。お客にはその性感帯はご自分の手でいじってもらうことにしようと。

2週間後、俺たちは、自分自身と知り合い何人かを被検者にしてベータ版のテストを終え、製造メーカーや販売ルートとの交渉を行い、相互に納得のいく契約にこぎつけていた。当初の試行として市場に出してみたら、結果は上々だった。そこで、いくつかのダウンロード・サイトを通して俺たちの製品であるアピィズ・ハンディ・アプリを売り出す手はずを整えた。初週はぼちぼちの売れ行きだったが、その後、いきなり売り上げが伸び始めた。そして、いまだ右肩上がりのカーブが衰える気配がない。

ちょうどその時、玩具メーカーから話しを聞いた。俺たちの客の多くが、フィットネス用のウェラブルの装置を持っていると言うのだ。その装置は、体の動き、心拍数、呼吸数を計測することができる。製品によってはそれ以上のものも計測できる物だ。玩具メーカーは、フレッドがこういった情報をフィードバックして取り込めるようにアプリを改良できないかと訊いてきた。フレッドは、これは素晴らしいアイデアだと感心し、あるAIプログラムを投入して、そのフィードバック情報を使い、その結果として、客が絶頂の淵に留まる時間が最大になるように改良した。そういう状態を「崖っぷち状態」とフレッドは呼んだ。

その2日後、フレッドはそのアプリのアルファ版をテストしている最中に心臓発作で死んでしまった。ウイルスのせいかもしれないが、死んだ後に検査を受けさせることはできなかった。悲劇的だったとはいえ、フレッドは笑顔で死んでいた。そして、すべてのバグが取り除かれるまでは、この強化版の製品はリリースしないよう、決定された。


おわり
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