「普通の男」 Dr. Bell's Vengeance, Part One: An Average Joe  by Nikki J. 出所
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オマール・ベル博士は怒れる男だ。人生のすべてを通して、彼は過去の陰の中で生きてきた。決して過去の過ちを真の意味で赦すことができなかったのである。自分の同胞たちは、生れた土地から拉致され、何世紀にもわたって奴隷状態になることを強いられてきた。なるほど、連中は自分たちの過ちを改め奴隷を解放したが、それは問題をすり替えたにすぎない。同胞たちは依然として二流市民としての生活を強いられている。そんな現状を思うたび、ベル博士は気分が悪くなるのだった。

ああ、だが、それは過去の話しで、今はすべて良い方向になってるではないか。連中はみんなそう言う。白人どもが罪悪感を感じたのだろう、それに促された公民権運動や差別撤廃措置やその他の法的制度は、確かに不平等と人種差別を過去のものに変えた。だが、ベル博士は知っていた。これは単に問題を隠したにすぎないと。臭いものにはフタというわけだ。白人の男どもは、犯した罪の償いをする必要がある。それは、いくつかの法案を正当に可決し、ほんのわずかのアフリカ系アメリカ人を助けることによってではない。そうではなく、その罪にふさわしい罰を受けることによってでなければならない。

ああ、確かに。ベル博士は怒れる男だ。

だが、ベル博士はめざましい才能の男でもあった。科学において、複数の分野を征服し、自分は世界で最先端を走る科学者であり、おそらく史上もっとも卓越した頭脳の持ち主であるだろうという自覚があった。怒りが彼を駆り立てたのである。怒りこそが彼を、ありふれた精神のレベルを突きぬけさせ、新しい未知の領域へと進ませたのである。彼は白人たちに罰を下すだろう。ひとり残らず。

この話はベル博士の成功談から始まる。

*

ビリーはカッと目を見開いて目を覚ました。汗をかいていたし、息も荒かった。目覚めた瞬間、自分がどんな状態なのか分からなかったしパニックになったけれど、すぐに落ち着きを取り戻した。

「あなた、大丈夫?」 優しい声が聞こえた。

ビリーは声の方を向き、妻の顔を見た。メアリの美しい茶色の瞳が眠たげに彼を見つめていた。ビルは優しく微笑み、答えた。

「ああ、ちょっと悪い夢を見ただけだよ」

そして手を伸ばし、メアリの滑らかな頬を優しく撫でた。そして何気なく、顔を寄せ、彼女にキスをした。

メアリはそれ以上の促しの行為を必要としなかった。素早くシーツの中へと潜り込んだ。ビリーは妻の湿った口に勃起が包まれるのを感じた。股間の辺り、シーツが上下に動いているのが見える。ビリーは目を閉じ、頭を後ろに倒し、妻の奉仕を堪能した。

それから程なくしてビリーは射精した。そしてメアリは一滴残らず飲み下した。この点でメアリは普通じゃないなとビリーは思っている。彼女は精液を飲み下すことを嫌がらないのだ。

ビリーは両手を頭の後ろで組んで、くつろぎながら、笑みを浮かべた。いい人生だと思った。

*

「あなた、起きて。仕事に遅れるわよ」

うたた寝をしていたビリーをメアリが起こした。フェラチオをしてもらった後、二度寝をしてしまったらしい。

時計を見やった。7時25分になっていた。ビリーは心の中で唸りながら、両脚を振るようにしてベッドから出て、立ち上がった。素早くシャワーを浴び、そして仕事に向かうための身支度を整えた。

身長180センチ、体重82キロ。その身体を青いスーツに包み、赤いネクタイをした。着替えた後、キッチンに行き、コーヒーを入れ、ニュースを見るためテレビをつけた。

何か事件が起きてることに気づくまで時間はかからなかった。彼はテレビの音量を上げた。美しいアナウンサーが言っている。

「ベル博士に何が起きたのか誰も知りません。ですが、彼が大気に何らかの化学物質を放出したことは明らかです」

ビリーはチャンネルを変えたが、どの局も同じ事件を報道していた。男性のニュースキャスタが言った。

「先ほどお伝えしました手紙については当局のウェブサイトに掲載しました。ベル博士の声明をお読みになりたいときは、そちらにアクセスしてください。あの著名な科学者が精神に異常をきたしたことだけは明らかだと言えます」

ビリーは興味を持ち、素早く部屋に行きノートパソコンを立ち上げた。そしてウェブサイトにアクセスし、声明文を読んだ。

親愛なる世界の皆さん:

あまりにも長い間、我々アフリカ系アメリカ人は忍耐をし続け、世界が我々を差別することを許し続けてきた。我々はずっと忍耐を続けてきた。だが、とうとう、もはや我慢できなくなった。そこで私は我々を差別してきた皆さんを降格させることを行うことにした。初めは、皆さんは私の言うことを信じないことだろう。それは確かだ。だが、時間が経つにつれ、これが作り話ではないことを理解するはずだ。

私は、私たち人類の間の階層関係に小さな変更を加えることにした。今週初め、私は大気にある生物的作用物質を放出した。検査の結果、この作用物質はすでに世界中の大気に広がっていることが分かっている。

パニックにならないように。私は誰も殺すつもりはない。もっとも、中には殺された方がましだと思う者もいるだろうが。

この作用物質はあるひとつのことだけを行うように設計されている。それは、黒人人種が優位であることを再認識させるということだ。この化学物質は白人男性にしか影響を与えない。

それにしても、この物質はそういう抑圧者どもにどんなことをするのかとお思いだろう。この物質はいくつかのことをもたらす。その変化が起きる時間は、人によって変わるが、恒久的な変化であり、元に戻ることはできない。また純粋に身体的な変化に留まる。

1.白人男性は身体が縮小する。白人女性の身長・体重とほぼ同じ程度になるだろう。この点に関しては個々人にどのような変化が起きるかを予測する方法はほとんどないが、私が発見したところによれば、一般的な傾向として、女性として生れていたらそうなったであろう身体のサイズの範囲に収まることになるだろう(その範囲内でも、小さい方に属することになる可能性が高いが)。

2.白人男性はもともとペニスも睾丸も小さいが、身体の縮小に応じて、それらもより小さくなるだろう。

3.白人男性のアヌスはより柔軟になり、また敏感にもなる。事実上、新しい性器に変わるだろ。

4.声質はより高くなるだろう。

5.腰が膨らみ、一般に、女性の腰と同じ形に変わっていく。

6.乳首がふくらみを持ち、敏感にもなる。

7.最後に、筋肉組織が大きく減少し、皮膚と基本的な顔の形が柔らかみを帯びるようになるだろう。

基本的に、白人男性は、いわゆる男性と女性の間に位置する存在に変わる(どちらかと言えば、かなり女性に近づいた存在ではあるが)。すでに言ったように、こういう変化は恒久的で、元に戻ることはできない。(現在も未来も含め)すべての白人男性は、以上のような性質を示すことになる。

これもすでに述べたことだが、大半の人は、私が言ったことを信じないだろう。少なくとも、実際に変化が始まるまではそうだろう。もっとも変化はかなり近い時期に始まるはずだ。ともあれ、1年後か2年後には、世界はすでに変わっていることだろうし、私に言わせれば、良い方向に変わっているはずである。

親愛を込めて、

オマール・ベル博士

ビリーはその文書を3回も読み返した。何か、できの悪いSF映画の話しのように思えた。こんなこと誰にもできっこないじゃないか。違うか?

「そのクレージーな科学者の主張を聞いた?」 メアリが声をかけ、ビリーは物思いから現実に戻された。

彼は顔をあげ、答えた。

「ああ。こいつのマニフェストをネットで読んだところだよ。そもそも、こんなバカ話を放送局が報道するなんて、ちょっと変だと思うけどね」

「そうよね。でも、この人、2年くらい前にノーベル賞を取ったのは本当よ。彼はある意味、スーパー天才だと、さっきテレビで言ってたわ。…だとしても、この人、常軌を逸してるわよね」

「プレッシャーのせいでああなってしまったんじゃないか?」 とビリーは肩をすくめた。「とにかく、もう仕事に行かなくちゃ」

ビリーはリビングへと行き、メアリの頬に軽くキスをした。

「6時ごろ帰るよ」

そう言って、彼は家を出た。

職場では何もかも比較的平常通りだった。ただ、誰もがベル博士のことと彼の異常な発言を話題にしていた。でも、すぐに、誰もがベル博士のことを忘れ去り、日常的な状態に戻った。

何事もなく何日か過ぎ去り、大半の人々は、このバカ話自体、すっかり忘れてしまった。気がふれたベル博士は、確かに一瞬、有名になったが、誰も彼を見つけることができなかった。

*

ベル博士の声明文が公表された2週間後。ビリーが職場で、この4半期の売上についてプレゼンをしているとき、不思議なことが起きた。急に声が変になったのである。彼は咳払いをし、プレゼンを続けた。

「そして本4半期の当社の売上高は…」

声がちょっと高くなった? 彼には分からなかった。

そんなことが2日ほど続いた後、メアリが何か言った。ビリーとメアリは夕食を食べていて、ビリーがその日の出来事を話していると、メアリが話しを遮ったのである。

「あなた、風邪か何かにかかったの?」

「いや、なんともないよ。…どうして?」

「ちょっと、あなたの声が高くなったかなって。まるで……」 とそこまで言いかけて、メアリはやめた。「いえ、ただの思いすごしよね。あなた、さっきの話し、何だったかしら?」

ビリーもその話題を話す気持ちはなかった。彼自身も、声が高くなったのではないかと思っていたのである。だが、その事実に直面したくなかったのである。だが、その数日後、電話に出た時、否応なく事実に直面することになる。電話の向こうから、「ご主人は御在宅ですか?」 と聞かれたのであった。

ビリーは確かめることにし、病院に行った。だが、医師はどこも悪いところはないと言った。ビリーはどうでもいいやと肩をすくめ、じきに直るだろうと、それまでどおりの日常の生活を続けた。

1ヶ月経っても、声は直らなかった。だが、その時までにはビリーは自分の声に慣れてしまっていた。もっと言えば、彼の友だちの大半も声が高くなったようなのである。というわけで、何も日常から逸脱しているようには思えなかったのだった。ビリーは、この甲高い声はベル博士の仕業かもしれないと思ったが、それ以上の変化があるとは考えられなかった。

ビリーは間違っていた。

*

2ヶ月後、ビリーはシャワーから出て、曇った鏡を手で拭いた。変だなと、鏡の中の自分の姿を見て思った。顔が前より滑らかで、ちょっと丸みを帯びたように見えた。手で頬を撫でた。そう言えば、しばらく前から髭を剃らなくてもよくなっていたなあ。少なくとも2週間くらい剃っていない。だけど、困ったことじゃない。そもそも、髭剃りは面倒で、嫌いだったから。

歯を磨き、バスルームを出て、着替えをするために寝室に入った。ズボンに脚を通して、彼はちょっと止まった。あれ? お尻が大きくなったか? 彼は鏡の前、後ろを向いて、自分のお尻を見た。ちょっと腰を動かすと、尻が少し左右に揺れた。ビリーは、ジム通いをもっとまじめにしなければと思った。

着替えを終え、ビリーはズボンが少し長くなってるし、腰回りも緩くなってるのに気づいた。仕事着を買いに行かないといけないなと彼は思った。

ビリーは再び、それ以上考えるのをやめ、さらに2週間ほどが過ぎた。腰にタオルを巻いて寝室を歩いていた時だった。メアリはベッドに座って本を読んでいたが、ちょっと顔をあげて彼を見たのである。

「あなた? 最近、鏡を見た?」

ビリーは立ち止りもせず、「いつも通り、ハンサムだろ?」 と答えた。

「真面目に聞いてるの」

ビリーは顔を向けた。メアリの目に心配そうな表情が浮かんでいる。

「どうかした?」

「いえ、別に。ただ、何と言うか……あなたの体つきを見てみて」

ビリーはタオルを床に落とし、鏡を見た。自分の身体をまじまじと見るのは久しぶりだった。そして、見てみて、唖然とした。

ウエストが細くなって、腰が少し膨らんでいる。横になって、横からの姿を見ると、お腹が、平らではあるものの、丸みを帯びてるのに気づいた。姿勢も変わっている。さらにお尻が前より突き出ているように見えた。上半身も同じように変化していた。肩幅は狭くなり、筋肉らしいものがなくなっていた。

「僕は……」 ビリーは、その気持ちを表現する言葉が見当たらなかった。

「あれが始まったんじゃない?」 とメアリが言った。「あの気の狂った博士が起きると言ったこと。やっぱり本当だったのよ」

ビリーは何も言えなかった。ただ、そのまま床に崩れ込み、女のような声で啜り泣きをした。メアリは彼のそばに寄り、腕を回して抱き寄せた。

「大丈夫、大丈夫。一時的なものだと思うわ。それに絶対に治療法が研究されているはずだから」

ふたりは床に座った。メアリは子供をあやすように、ビリーを両腕で包み込みながら、何時間も彼の耳元に安心させる言葉を囁き続けた。

*

翌日、ビリーは会社に病気で休むと電話を入れた。同僚たちに顔を合わせる気になれなかったのである。メアリも同じく会社を休んだ。

お昼頃、ビリーは24時間報道をしているニュース番組を見ていた。パニックの最初の兆候が現れたニュースである。キャスターは全員、女性だったが、それは必ずしも不思議なことではない。男性キャスターの多くは声が変わったのを受け、番組を休んでいたからである。ビリーが興味を持ったのは、そのことではない。報道の内容の方だった。

愛らしい顔の女性アナウンサーが言った。

「世界中で白人男性が変化を見せています。大半の男性は否認していますが、中には変化を受け入れた人もおられます。さらには暴力で反応した人もいます」

画面には女性的な顔をした暴動者たちの光景が映った。

「しかしながら、このような暴力の突発的発生は、懸命に働く私たちの警官のおかげで、簡単に鎮静化している模様です」

全員黒人の警察官たちが、はるかに人数では上回る白人男性の暴動者たちを取り抑える光景が映った。

「政府は感染したすべての男性に、落ち着くよう求めております。また、この事態の解決策もじきに現れると言っております。医師たちは、オマール・ベル博士がもたらしたことを元に戻す方法を探って、24時間体制で研究を進めているとのことです。…では、次のニュースを……」

ビリーは関心を持つことをやめた。うつ状態に沈んでいるわけにはいかないことは知っていた。そうしても、何の解決にもならない。また、怒りを抱いても、何にもならないのも確かだった。彼は、ごく普通に、それまでの生活を続けることに決めた。

「メアリ?」 と彼は妻を呼んだ。メアリは読んでいた雑誌から顔をあげた。「僕は大丈夫だと思う。つまり、何が起きても、起きるようにしかならないということ。僕には何もできないということだよ」

「本当に大丈夫?」

ビリーは頷いた。

少し間を置き、メアリはにっこりと笑顔になった。「何かあなたの気を紛らわすことができないかしら?」

ビリーも笑顔を返した。

「いくつか考えられるけど…」 と彼は立ち上がり、メアリの元に来て、顔を近づけ、キスをした。

ビリーはシャツの裾を持ち、頭から脱いだ。メアリはすぐに彼の乳首に口を寄せた。舌を出して、彼の乳首を小刻みに弾く。すぐにメアリはそこの愛撫に精を出し始め、ビリーはエクスタシーに身体を震わせた。

メアリは徐々に下方に動き、ビリーの滑らかで丸いお腹にキスをし、さらにはペニスへと降りて行った。彼女はビリーのペニスと睾丸を同時に口に含み、吸い始めた。

いったんメアリが空気を吸うために顔をあげると、ビリーはカウチに仰向けに座り、両脚を大きく広げた。メアリがもっと良い角度でできるようにである。彼女は再び彼の股間に顔を埋め、小さなペニスを舌でちろちろ愛撫し、ビリーに背筋を震えが走るような刺激を味わわせた。

こんなに興奮していない状態だったなら、ビリーは自分の性器について気にしていたかもしれない。かつては18センチはあったペニスも今は完全に勃起して5センチ足らず。かつてはゴルフボールほどの睾丸も、今はブドウの粒よりちょっと大きいだけになっていた。だが、この時は、メアリが脚の間に来ていたので、そんなことは気にせずにいられた。

メアリは口からいったん出し、息を吸った。

「中に来て」

ふたりは位置を変え、今度はメアリが脚を広げた。だがビリーは、それでは彼女の中に挿入できない。元々、創造力のあったビリーは、自分も脚を広げ、ふたりは女性同士が股間を擦り合わせるような形で脚の間をくっつけた。その姿勢なら彼は挿入できる。そしてメアリは喘ぎ声をあげた。ビリーは不自然な格好ながらも出し入れを続け、やがてふたりとも絶頂に達した。

ふたり、抱き合ってカウチに横になった。ふたりとも顔を火照らせていた。

*

さらに2ヶ月ほど経った。あまり目立った変化はなかった。ニュースでは、医師たちが24時間研究を続けていると言っていたが、目立った成果は上がっていなかった。

ビリーは新しい愛しあい方に慣れていた。時々、ビリーとメアリは互いに口だけを使って愛しあった。ビリーはクンニリングスが非常に上達し、得意になっていた。それに、確かに昔のように後背位や騎乗位でのセックスはできなくなっていて、その点は残念だったが、ビリーは妻とトリバディズム(レスビアンの女性が相手と股間を擦り合わせる行為)をするのを楽しむようになっていた。「トリバディズム」というのはレスビアンの行為を表すのはビリーも知っていたが、彼はそれ以外の表現方法が思いつかなかった。おおまかに言って、基本的に生活には問題がないと言えた。

だが、それも彼が縮小し始めるまでのことだった。他のすべても同じなのだが、変化は徐々に起こるのである。ある朝、ビリーが目覚めると、ズボンが10センチ近く長くなってるのに気づいた。いつか来るだろうとは知っていたが、彼はその時まで、そのことを一種、考えないようにしていたのだった。

ビリーは身長を測ることにした。170センチ……10センチは背が低くなってしまった。他には特に何もないが、これは進行するだろうなと彼は思った。

ビリーはズボンの裾を捲り、ピンで押さえて職場に行った。彼は気づいていなかったが、この変化が始まってから、職場の黒人男性の何人かが、少し、支配的に振舞い始めていた。どこと言ってあからさまな変化ではなかったが、ただ、黒人以外の男たちが経験している変化のことを考えれば、彼らが支配的になるのは、ある意味、当然と言えた。

ビリーの職場のビルディングの管理業務をしてる人のひとりが、特に傲慢な態度を取っているように彼には思えた。ビリーはその男の名前すら知らないが、顔は知っていた。それにその男の体つきも。さらにはその男の体臭すらも。

ある日の夕方、ビリーがエレベータに乗った時だった。その体臭がビリーを迎えたのだった。男は190センチはあり、ビリーを見おろし、ニヤリと笑っていた。その笑い方は、同僚とか友人に対して見せる種類の笑顔ではなかった。さらに、女性に対して見せる笑顔とも違う。その笑顔の意味は少なくともビリーにはきわめてはっきりしていた。それは、この男はビリーより優位にあるということを示す笑顔。ビリーも恥ずかしげに笑みを返したものの、すぐに、つつましく、うつむいた。

男がエレベータから出て行くとすぐに、ビリーはハアーっと息を吐いた。心臓がドキドキしていた。それに明らかに乳首が立っているのを感じた。

仕事からの帰り道、ビリーは、その時の出来事が頭から離れなかった。いったい何が起きたんだろう?

*

その夜、メアリはビリーにビックリ・プレゼントを用意していた。

夕食を食べながらメアリは言った。

「ちょっとあることをずっと考えてきたの。気づいてると思うけど、最近、私たちふたり……何と言うか……ベッドで女の子っぽくなっているでしょ?」

ビリーは頷いた。

「私、あなたが経験している変化について調べてきたの。そして、私…あるモノが頭に浮かんだのよ。……ちょっと、それ、持ってくるわね。その後であなたがどう思うか、教えて?」

メアリは立ち上がり、廊下を歩いて行った。2分くらいして、彼女は戻ってきた。素っ裸の姿で。

ビリーはひと目見てすべてを理解した。メアリはツンと尖ったBカップの乳房をしているし、とても女性的な身体をしている(もっとも、ビリーは、正直に言って、自分の方がメアリよりちょっとセクシーかなと思っていたが)。だが、彼の眼が引きつけられたのは彼女の裸体ではなかった。メアリの脚の間にあるモノ。ストラップオンのディルドにである。メアリが欲してることを理解するのに時間はかからなかった。

「どうかなあ……分からないよ」 とビリーは言った。

メアリは彼に近づき、言った。「ちょっと触ってみて。一度だけでいいから。私のためだと思って」

ビリーは手を伸ばし、そのゴムっぽい先端に触れた。

「手で握るのよ、バカね」

メアリはビリーの手を取った。今は彼の手より自分の手の方が大きいのに気づき、ちょっと気まずい感じがしたが、それに構わず、彼の手を引っぱってディルドを握らせた。

「今度は舐めなさい」

メアリは命令口調になった。ビリーは問いかけることなく、その通りにした。ゴムっぽい味がした。

「今度は口に入れなさい」

ビリーはこれにはためらった。

「ほら、ほら。私はあなたのために何百回もしてきたことなのよ」

その論理には反論することができなかったし、確かにちょっと好奇心もそそられたので、ビリーは言われた通りにした。そして、気づいた時には妻のゴム製のペニスに対して頭を前後に振っていた。それを吸いながら、ビリーはどうしても思わざるをえなかった。このゴム製のペニスを吸うより、本物の方を吸う方がずっと楽しいのだろうか、と。味はいいのは確かだろうけど。

「オーケー。今度は服を脱ぎなさい。あなたをこのテーブルの上で犯してやるから」 とメアリはかすれ声で言った。

ビリーは床にひざまずいたままで、シャツのボタンを外し始めた。乳首がすでに小石のように固くなっていた。1センチ近くになって立っている。メアリはそこに手を伸ばし、片方の乳首を指ではじいた。

「興奮している人がいるようね」

ビリーはちょっと恥ずかしそうに微笑み、そしてシャツを脱ぎ棄てた。

それからズボンに手をかけた。ベルトのバックルを外すと、ほぼ自動的にするりと落ちた。次にブリーフも。つるつるの滑らかな脚に沿って、脱ぎ降ろされた。

メアリはKYゼリーを取りだし、それをディルドに擦りつけた。ビリーは不安そうな顔でその様子を見た。

「心配しないで。優しくしてあげるから」

そう言ってビリーをなだめながら、メアリは彼を後ろ向きにさせた。彼の片脚を持ち上げ、テーブルの上に膝を乗せる姿勢にさせた。ビリーはもう片方の足をつま先立ちにして、その姿勢になった。そのままテーブルに覆いかぶさる。お尻を大きく広げ、突きだす姿勢になっていた。

メアリはふざけまじりにビリーの丸いお尻を平手打ちした。ビリーはお尻の頬がぶるっと揺れるのを感じた。

冷たいディルドがアヌスに触れるのを感じ、ビリーはビクッと身体を震わせた。メアリは片手を彼の背中において、安心させながら言った。

「大丈夫。傷つけたりしないから」

メアリは押してみた。先端がビリーのアヌスにのめり込む。

「力を抜いて」

ビリーは言われた通りにした。先端が入ってきたのを感じた。痛みにちょっとだけ声をあげた。

メアリはさらに強く押し込んだ。さらに中に入ってくる。メアリは決して急がなかった。だが、しばらくしてるうちに、ビリーはいつの間にかメアリの恥丘が自分のお尻に触れているのに気づいた。不思議な感じだったが、彼はこの時、達成感を感じていた。自分は全部入れられたんだ!

そして、メアリは引き抜き始めた。そしてまた押し入れてきた。入れては抜いて、入れては抜いて。メアリはリズミカルに動き続けた。

3回目の挿入の時、ビリーは最初の快感の声をあげた。甲高い女性的な悶え声。

5回目の挿入の時までには、ビリーは押し入ってくるメアリに合わせて、お尻を突き返していた。その一瞬、一瞬をビリーは堪能した。しかもビリーは声をあげるタイプだったのである。

「もっと強く! もっと、もっと!」

背後でハアハア息を切らすメアリに、ビリーは叫んだ。おおよそ10分に渡る激しい出し入れの後、ビリーは絶頂に達した。全身がぶるぶる震えていたし、小さなペニスがピンと立って、その先端から白濁を撃ち出していた。それでもメアリは出し入れを続けた。ビリーの大きなお尻を鷲づかみにし、ぐいぐいえぐり続ける。メアリが終えるまでに、ビリーはさらにもう2回、オーガズムに達したのだった。

疲れ切ったメアリはビリーの上に覆いかぶさった。ビリーはテーブルに覆いかぶさったままだった。ディルドはまだ彼のアヌスの中に入ったままである。ふたりとも荒い息づかいをしていた。ビリーは時々、お尻を軽く揺すった。まだ嵌まったままのディルドからちょっとでも刺激を得るために。

「どうだった?」

メアリは笑いながら訊いた。ビリーもつられて笑ってしまった。

「大丈夫だよ」

*

その夜からビリーは様子を変えた。メアリとハサミ合わせの格好で交わることは滅多になくなった。メアリも彼のペニスにほとんど触れなくなった。だからと言って、セックスがなくなったというわけではない。今はセックスと言えば、メアリがストラップオンをつけてビリーを犯すことになっていた。ふたりとも知っていた。ふたりの関係ではメアリが支配的な立場にいるということを。メアリが男なのである。

毎晩のように妻に犯され、かつ、態度を変えない男などあり得ない。ビリーは従属的になっていた。何か決定するにしても他の人に任せる方を好むようになっていたし、職場でも、他の人の判断(特に、影響を受けなかった黒人男性の判断)に従うようになっていた。ビリーは、黒人男性が同じ部屋にいると、なぜか強く気になるようになっていたし、ふと気がつくと、男に犯されたらどんな感じなんだろうと思っているのだった。

そして、その思いが次第に暇な時の彼の思考を支配し始める。そのことと、最近ますます従属的な正確になってきたことが相まって、またも大きな人生の転換に結び付くことになったのだった。

ビリーがデスクでコンピュータの表計算をぼんやりと見つめていたときだった。突然、電話が鳴った。

「ちょっと俺のオフィスに来てくれるか?」

電話の向こうの男が言った。その男は自分の名を言う必要はなかった。ビリーには誰だか分かるからである。ビリーの上司だった。彼の上司は非常に我の強い黒人であった(もっとも、最近はどんな男もビリーにとっては我の強い存在とはなっていたが)。名をクラレンス・スミスと言う。

「はい、かしこまりました」とビリーは答えた。

ビリーは早速クラレンスのオフィスに向かったが、歩きながらあることに気がついた。お尻をちょっと振りながら歩いていることに気づいたのである。ビリーは思わずにっこりした。これってメアリのディルドに毎晩やられてきたせいかも、と。

クラレンスのオフィスに着き、ビリーはドアをノックした。

「どうぞ」と中から声。

ビリーはドアを開け、中に入った。

「そこに座りなさい」

クラレンスは、いつも以上に威圧的な感じがした。背丈は180センチを軽く超え、元運動選手のような体格をしている。

ビリーは腰を降ろし、両膝をぴったり合わせ、両手を膝に置いた。

「多分、ここに呼ばれたわけを知ってると思うが…」とスミス氏は話しを始めた。

「あ、いいえ…」と答えようとしたが、クラレンスはその言葉を遮った。

「君の仕事が低下してるのだよ。私が見たところでは、最近、君は仕事に集中してないのじゃないか。まあ、君たちがいろんな目にあってきているのは知っている。君たち全員がな。だが、これはビジネスなんだ」

「でも、スミスさん……」 とビリーは言おうとしたが、また遮られた。

「会社は君を解雇する予定だ、ビリー。もっと言えば、いま会社は会社全体をリストラしようとしている。仕事に集中していない社員を何人か解雇するということだが」

「私は…」と言いかけたが、ビリーはやめた。「分かりました」

「反論なしかね? よろしい。だが、君にも分かると思うが、悪い知らせばかりではないのだよ」 と言ってクラレンスは微笑んだ。

アレと同じ頬笑みだ。ビリーに餌の骨を投げるような笑い。

「君は解雇手当を得ることになる。それに、君が本当に仕事が必要だと思い、我々の方にもポジションの空きがあれば、別の仕事をあてがわれるだろう。もちろん、いまの仕事ではない。もっと君の能力に適した仕事だ。だから、その場合は遠慮せずに私に電話しなさい」

「かしこまりました」

「じゃ、いってよろしい」

ビリーはドアを開け、オフィスを出ようとしたが、ちょっと振り向いて声をかけた。

「スミスさん?」

「何だね、ビリー?」

「チャンスを与えてくださって、ありがとうございます」

スミス氏はただ笑っただけだった。

ビリーはドアを閉め、歩き始めた。その顔には笑みが浮かんでいた。スミス氏がずっと彼のお尻を見ていたことに気づいたから。

*

後で分かったことだが、会社のほとんどすべての白人男性が降格させられたか、解雇されたかのどちらかだった。中には抗議する者もいたが、彼らの仕事は低下していたのは事実で、会社側にも解雇する充分な根拠があった。大半の職位には、若い黒人男性が代わりについた。

ビリーについていえば、それほど生活は悪くなかった。メアリは実家のコンサルティング会社の跡継ぎになっていて、そこそこ上手く経営していたし、ビリーの解雇手当もあって、それほどお金に苦労はしていなかった。

ただ、この過程を通して、ビリーの生活にはさらに変化が生じていた。身体的な変化はすでに完了していた。ベル博士が起こると言ったことすべてが、すでに彼の身に生じていた。いまビリーは身長160センチ、体重50キロだ(彼はもっと痩せたいと思っていたが)。顔は丸くなり、ツンと尖った可愛い鼻。それに眼は前より大きくなった感じだった。さらに、頭から下には一切体毛がなくなっていた。すでに縮小したが未だに若干の機能を保っている陰部の周りにすら、体毛がなくなっていた。

腰は大きく膨らみ、お尻も丸くなっている。端的に言って、彼は女性になっていた。ただし、小さなペニスがあるが、乳房がない女性だ。彼は35歳だが、それより若々しく見え、20代前半のように見える。

そして、こういう変化をしたのはビリーだけではなかった。報道によると、合衆国とヨーロッパの白人男性の全員がこのような変化を見せていると言っていた。それにアジア人の半分も。だが、黒人では変化を示した例は1件もないと言う。

ベル博士が予測した通り、世界は変わりつつあった。

*

ビリーが解雇されて2週間後、メアリがバッグを抱えながら帰宅した。

ビリーはメアリがリビングに入ってきた時、テレビを見ながら、カウチでくつろいでいた。

「ただいま」 とメアリは身体を傾け、ビリーの頬にキスをした。「ちょっといいモノ、買って来たのよ」

ビリーは顔をあげ、笑顔を見せた。

「え、何?」 

「あのね、最近、私、ちょっと欲求不満気味だったの。私、中に入れられる方の快感に慣れていたから…」

「分かるけど、でも……」

メアリは遮った。「最後まで言わせて。つまり、私もみっちり、しっかりセックスされたいの。それはあなたたちも分かると思うけど?」 と微笑んだ。

ビリーは内心穏やかじゃなかった。心の中はパニックだった。メアリは僕と別れるつもりだ。こうなるとは分かっていたけど。

そのビリーの心配にメアリは気づき、すぐに答えた。

「あ、いや、違うのよ。心配しないで。私たちふたりでできて、しかもふたりとも欲しいものが得られる方法を見つけたのよ」 と言い、それ以上言わず、バッグの中から箱を出し、包装を破り、開けた。中には双頭ディルドが入っていた。

ビリーはにんまりとした。それを見ただけで、お尻の穴が濡れるのを感じた。ベル博士は、これを予測していたっけ? ビルのアヌスは、今は自然に潤滑の体液を分泌するようになっているのである。性的に興奮すると、ものスゴイ量を分泌するようになる。

ビリーは文字通り、来ている服を破るようにして脱ぎ捨てた。それほど興奮していた。

ふたりは、すぐに寝室に入っていた。ふたりとも全裸になっていた。ビリーは仰向けになっていて、メアリが覆いかぶさっていた。ビリーは両脚でメアリの胴体を包み込むようにして、抱きつき、ふたり情熱的にキスをしていた。メアリはいったんキスを解くと、熱いまなざしでビリーを見つめ、「とても綺麗!」と言った。

ビリーはそれを聞いて泣きそうになった。こんなにエッチな気分になっていなかったら、たぶん、本当に泣きだしていただろう。

その後、ふたりは位置を変え、メアリが仰向けになり、ビリーは彼女の股間に顔を埋めていた。美味しそうにメアリの股間を舐めている。ビリーが狂ったように舐めはじめてから何分か経った後、メアリはビリーの頭を押し上げた。

「OK! じゃあ、四つん這いになって」

ビリーにとってはすでにお馴染みの姿勢だった。すぐにメアリの指示通りの姿勢になった。そのすぐ後、ディルドがアヌスに入ってくるのを感じた。思わずうっとりとした声をあげてしまう。

メアリは、自分も同じ姿勢になる間、股間に手を伸ばして、ディルドを押さえてるよう指示した。

ビリーは軽く押されるのを感じた。メアリもディルドを入れたのだろう。彼女が快感の声をあげるのを聞いた。メアリにとっては挿入されるのはほぼ1ヵ月ぶりなのをビリーは知っていた。

ビリーはお尻をつき出し、メアリも同じことをした。やがてふたりのお尻が触れあうまでになる。それを受けて、ふたりは前後に動き始めた。ビリーは何度イッタか忘れてしまった。それはメアリも同じだった。

しばらく楽しんだ後、ふたりは別の体位を試した。メアリは仰向けになって、ディルドを入れたまま脚を広げた。一方、ビリーはメアリに背中を向けて、彼女の股間の上に座る形になった。ふたり、どれくらい我を忘れて愛の行為に没頭していたか。その時間すら分からない。

*

メアリが双頭ディルドを買ってきた2日後の夕方。メアリが帰宅した時、ビリーはデスクでネット・サーフィンをしていたところだった。

「ちょっと話したいことがあるの」 とメアリが声をかけた。

「何?」 とビリーは振り向いた。

「あなた、着るものをちょっと考えるべきだと思うわ」

「今の服で何かおかしい?」 ビリーは返事を知っていたが、そう訊いてみた。彼は新しいファッションが現れてきているのを知っていた。

「そうねえ、例えば、あなたが着てる服、サイズが合ってるのはひとつもないわ。あなたも知ってるはずよ」

ビリーは溜息をついた。「でも、僕はどこに出かけるというわけでもないし。服を変える理由が…」

「いいから立ちなさい。あなたが着るモノが何かないか、調べましょ!」

メアリの口調には、有無を言わせないところがあった。ビリーは抵抗することは求めなかった。なんだかんだ言っても、今は、メアリの方が彼より大きく、力も強かった。

というわけで、ビリーはメアリのクローゼットの前、裸になっていた。

「君の服も僕には合わないと思うよ」 とビリーは口を尖らした。

メアリは返事をしなかった。ただ、吊るされてる服をチェックし続け、やがて、あるジーンズを見つけた。彼女はそれをベッドに放り投げ、次にTシャツを見つけ、それもベッドに投げた。

最後にメアリは引き出しからコットンの下着を出し、それもベッドに投げた。ようやくメアリはビリーの方を向いた。どう? と言わんばかりに腰に両手を当て、「これを着なさい」と言った。

ビリーはおどおどとした様子でベッドに行き、パンティを手にした。白いビキニ型のパンティで、股間のところにピンク色のハートがあり、LOVEと丸っこい文字で書かれている。

彼は片脚を通し、そしてもう片方の脚も通した。スルスルと滑らかな太ももに沿って引っぱり上げ、最後に位置を整えた。お尻のところがちょっとキツイ感じがしたけど、他の点ではぴったりしている感じだった。彼の小さなペニスは、まさにハートがあるところに小さな盛り上がりを作っていた。ビリーは顔を赤らめたが、メアリは「あなた、とってもキュートよ!」と褒めた。

ビリーはにっこりと笑顔になった。

次に彼は薄青のTシャツを取った。このTシャツは丈が短く、袖がすぼまってるデザインで、口紅をつけてキスしたような絵が描かれていた。ビリーは急いでそれをかぶった。やっと、おへそが隠れる程度の丈だった。

最後に彼はジーンズを手に取った。ブーツ・カット(参考)で裾が広がっていて、太もも、お尻、腰にかけてとてもキツく、ぴっちりしている感じだった。これを履くとき、ジーンズと一緒にパンティも引きずられて、丸まってしまった。

「あなたにはソング・パンティを買ってあげなくちゃいけないみたいね」 とメアリはくすくす笑った。

ジーンズはウェストのところが少し緩くなっていて、しかも、すぐに気づいたことだが、腰がかなり低い位置にくるものだった。その結果、シャツの裾とジーンズのベルト部の間に10センチ弱の隙間ができた。

メアリは彼に細いベルトを渡した。ビリーがベルトを締めて整えると、「これでいいわ! とってもキュートよ」 とメアリが言った。

ビリーは鏡を見た。確かに可愛いと思った。メアリは白とピンクのテニスシューズを出した。

「この靴、ちょっと大きいとは思うけど、もっといい靴を買うまでは、これで間にあうと思うわ」

履いてみると、ちょっと大きかった。メアリの足は今やビリーの足より大きいのだ。だが、それほど履き心地が悪いわけでもなかった。

「さてと。今度はその髪の毛を何とかしないとね。そうしたら、外に出かけられるわ」

ビリーはほぼ1ヵ月、家を出たことがなかった。それに、それ以前は、髪を切る暇がなかった。だから、ちょっとボサボサの髪になっていた。耳が隠れるくらいになっている。

「ブラッシングすることにするよ。でも、どこに行きたいの?」

「マジで言ってるの? 髪の毛、手伝ってあげるわよ…?」

「いや、これでいい。その後、どこに行くの?」 とビリーは再び訊いた。

メアリは肩をすくめた。「モールかな? 多分、映画を観に行ったりとか?」

「分かった。だいたい5分で支度をするよ」

*

ビリーは自分が非常に可愛い存在であることを知った。本物の(黒人の)男たちみんなから視線を浴び、そのことをはっきりと自覚できた。実際、ほとんど化粧をしなくても、彼は大半の女の子よりも可愛いかったのである。

彼とメアリはモールの中を歩いた。ビリーは圧倒された。いたるところに、ほとんど裸同然の白人の男の子(boiと呼ばれていたが)の広告写真が飾られていたからである。広告の中のboiたちはすべて化粧をし、非常に女性的な服装をしていた。ビクトリアズ・シークレット(参考)ですら、新しく誕生した人々に商品を提供していた。boi用のランジェリや、小さなブラジャーすら売っていた。そのブラジャーは乳房が揺れるのを防ぐためではなく、薄地のシャツを通して乳首の突起が見えるのを防ぐためだろうとビリーは思った。

メアリはビリーに山ほどランジェリを買った。パンティ(ソング(参考)、フレンチカット(参考)、ボーイショーツ(参考)などなど)も、ストッキングも、ガーターベルトも、さらにはboi用のブラまで。

それから、ふたりは普通の服の店を何軒か訪れた。メアリはビリーにいろんなタイプのショートパンツ(非常に裾が短いのが普通)、ブルージーンズ、そして細いストラップの丈の短いタンクトップからカジュアル・シャツに至る広範囲のトップを試着させた。大半は身体に密着したピチピチのもので、どのトップでもビリーの乳首が見えてしまうものだった。

だが、ビリーにとって最もショックだったのは、スカートを履くboiの数の多さだった。ミニスカートであれロングであれ、少なくともboiの半分はスカートを履いていた。チアリーダの服装をした10代のboiすらいたのである。

ビリーは、意図的に、変化の効果をテレビやコンピュータで見るのを避け続けてきた。だが、家を出て、ショッピングモールに来たからには、どうしてもそれを目の当たりにせざるをえない。どうやら、白人男性という概念は過去のモノになってしまい、白人boiによって取って代わられたようだった。

(メアリはまだまだビリーに試着させたいものがあったのだが)ショッピングのお祭り状態が半分までさしかかったころ、ビリーは自然の要求のためトイレに行きたくなった。そしてトイレに行って、彼はまたも驚いたのだった。今はトイレが3ヶ所に分かれていたのである。ひとつは女性トイレ、もうひとつは男性トイレ、そして、3つ目がboi用のトイレだった。ビリーは自分がどれに入るべきか知っていた。

boiのトイレに入ると、boiがふたりほど化粧を直していた。小便用の便器はなく、ビリーは個室トイレに入った。ビリー自身、しばらく前から立って小便をすることが上手くできなくなっていた。彼はジーンズとパンティを降ろし、便器に腰かけた。

「あのね、あたし、リロイに誘われたのよ」

外でboiのひとりが言うのが聞こえた。とても甲高い声をしている。たいていの女性よりも高い声だった。

「それで…?」 ともう一人が訊いた。

「そうねえ、彼ってとってもエッチなの。絶対、ケダモノのようなセックスするわよ」 最初に話したboiがそう答えた。もう一人がクスクス笑うのが聞こえた。

「分かったでしょ? 私が言ったじゃない? そういう服になれば、簡単におちんちんをいただけるって…。男たちはboiか女の子かなんて気にしないの。基本的に私たちは女と同じよ。おっぱい好きの男は除外するけど」

「どうなんだろう。分からないなあ。何と言うか…。あなたも知ってる通り、あたし、昔は女のことばっかり考えていたでしょ? でも今は、男のことばっかり……。強い腕に抱かれるととても気持ちいいし、脚を広げられて…うぅぅぅん……」 

「最後まで言わなくていいわよ。それはどのboiも同じ気持ち。でもね、ちゃんとシグナルを送り続けるのよ。そうすればリロイが近づいてくるから。男たちはいつも……」

会話の声が遠くなった。ふたりの男狂いのboiたちがトイレから出て行ったのだろう。

ビリーは用を済まし、股間を拭いた(良いboiは終わったら、きちんと拭く!)。そしてパンティとジーンズを引き上げた。トイレから出て、キュートなドレスを見ていたメアリのところに戻った時も彼は少し茫然としていた。

ショッピングを終えた後も、ビリーは上の空の状態だった。その理由のひとつは、あのふたりのboiの会話だった。もうひとつの理由は、モールを歩きながら自分が他の男たちのことを気にしていることに気づいたことだった。かなり多くのboiたちが黒人男と手をつないで歩いていた。明らかにカップルだと分かる。だが、カップルのように見えるboiと女性のペアはまったく見かけなかった。

「じゃ、映画でも見に行く?」 メアリが声をかけ、ビリーは我に返った。

「ああもちろん」

「どれにする?」

「何でも。君が選んで」 とビリーは微笑んだ。

メアリはビリーとチケット売り場に行った。ビリーはもぎりのそばでメアリがチケットを買うのを待った。メアリはチケットを買って戻ってくると、「何か食べるもの欲しい? ポップコーン?」

ビリーは頭を振った。「いや、特に」

「オーケー」 とメアリは言い、ふたりは劇場に入った。

その映画をビリーはとても啓蒙的だと思った。新しく作られたのは明らかで、それは黒人男性と20代の若いboiとのロマンチック・コメディだった。ラブシーンまでもあった。そういうところもあり、ビリーはとてもその映画を楽しんだのであるが、深い意味を考えると、世界はずいぶん変わってしまったのだと思わざるをえなかった。

白人のboiと女の子は、今はほぼ同じ土俵に立っていることになったのだ。両者とも、同じもの、すなわち黒人男性を求めて競い合う間柄になっているのだ。

このことがビリーをかなり考え込ませたのは確かだった。

*

それから間もなく、メアリはビリーに化粧をして見るように説得し始めた。厚化粧ではない。それは自分に似合わないとビリーは知っていた。そもそも、ビリーは化粧の必要もなかった。ふたりとも、ビリーがすでに有している魅力を引き立てる程度の化粧をしてみようという点で一致していた。その結果はと言うと、驚愕に値するものだった。

「わーお! あなた……すごく綺麗!」 メアリは驚いて言った。

ビリーは顔を赤らめた。「口がうまいんだから…」

でも彼自身、メアリの言うとおりだと思った。いま彼はソング・パンティとお腹が露出したタンクトップだけの格好でいる。彼は彼の妻よりセクシーだった。そのことも、やはり驚きに値する。

ビリーはメアリに笑顔を向けた。エッチっぽい目をしている。

「何かワイルドなことを試してみたいの?」 とメアリが訊いた。

「僕の気持が分かるんだね。ちょっと興奮することをしてみたい感じなんだ」

メアリは嬉しそうに笑顔になった。「オーケー、ちょっと待っててね」

ビリーは興奮を隠しきれないまま、立っていた。乳首が立っているのがシャツの上からも見えてるのじゃないかと思った。それに、今は小さいペニスもカチコチに固くなっているのを感じた(もっとも、彼のパンティの中、勃起しているとはいえ、5センチにも満たない大きさなのだが)。

メアリがストラップオンを持って二階から降りてきた。ビリーはすぐにパンティを脱ぎ、早速、四つん這いになった。彼のアヌスはすでにねっとりと濡れていた。

「いいえ、それじゃないの。今日はちょっと別のことをするつもりよ」 とメアリが言った。

ビリーはがっかりした。そんな気持ちになってはメアリに悪いと思いつつも、がっかりし、嫌々そうに立ち上がった。するとメアリは彼の前にひざまずき、ビリーの股間にストラップオンを装着し始めた。ビリーはちょっと困惑したが、メアリがするに任せた。

ストラップオンが装着され、ビルは股間を見おろして、自分のペニスがあるにもかかわらず、ちゃんと装着できるのだと理解した。メアリはひざまずいた姿勢のまま、早速、ディルドを吸い始めた。ビリーは何だか、バカげた感じだなと思ったが、乗り気じゃないのをごまかすために、片手をメアリの頭に添え、腰を前後に動かし始めた。

「オーケー!」 とメアリは口からシリコンのペニスをポンと吐き出し、四つん這いになった。「ヤッテ!」

ビリーはディルドをメアリの陰部に挿入し、腰を動かし始めた。入れては抜いて、入れては抜いて。メアリは喜んでいるようだった。だが、ビリーは今にも眠ってしまいそうな気持ちだった。確かにペニスに弱い刺激は来ているが、それだけだった。むしろ、この時は、感じまくっているメアリが羨ましくてたまらなかった。

ようやく、メアリがオーガズムに達した。ビリーにとっては、もっと早くイッテくれればと思えた。

「どうだった?」 とメアリが訊いた。

「すごく良かったよ」 とビリーは演技をした。

メアリはビリーの言葉に嘘の匂いを感じたに違いなく、彼に問い返した。

「あなたもしてほしい?」

ビリーはパッと顔を明るくさせ、頷いた。

「うん、僕にもくれ!」

ビリーはそれから1時間、自分の妻に激しいセックスをされ、オーガズムも5回感じた。その後、疲れきってビリーは眠りに落ちた。

*

ベル博士が声明文を発表してからおおよそ1年半がすぎた。そしてビリーの人生は劇的に変化していた。

いま彼はパンティを履き、もっぱらboiの服だけを着ている。メアリと外に出ると、男たちの視線を浴び、彼はその視線を嬉しく感じるようになっていた。すでにハイヒールを履いて歩く練習もしている(ヒールに慣れるため、ヒールを履いてエアロビクスをするようになっている)。特に気に入っているのは、スカートを履いて出る時だ。スカートを履くと、まるで、誰でもいいから、いつでもいいから、お尻をヤッテいいと言ってるような気分になれるのだ。どこでもいいから、彼を前のめりにさせて、スカートをめくり上げ、後ろから突っ込みさえすればいいのだから、と。

ビリーは、自分で化粧することにもすっかり慣れていたし、髪の毛も自分でスタイルを決めるようになっている。もっとも、彼は(他の多くのboiたち同様)髪の毛を比較的ショートにするようにしている。ショートだと、自分がboiであって女の子ではないと男たちに分かってもらえるからだ。誰でも、いざ、その時になって、驚くのは、望んでいないものだから。

ある日、メアリとビリーはモールの中を歩いていた。ジュエリー・ショップの前に来た時、ビリーは立ち止り、数々のジュエリーを見始めた。

「耳にピアスをしたいなあ。おへそにも。どう思う?」

「セクシーに見えると思うわよ」とメアリは答えた。

というわけで、ふたりはタトゥ—とピアスのパーラーに入った。パーラーを出た時、ビリーは、左右の耳とおへそにピアス、そして背中の腰のところに小さなタトゥ—を誇らしげに見せていた。タトゥ—にはSexy Boiの文字が書かれていた。

ビリーは、自分がものすごくキュートになったような気持ちだった。ふたりはビクトリアズ・シークレットにも立ち寄り、ビスチェ、ソング、ガーター、そしてストッキングのセットを白黒、2組買った。

ビリーは空に舞い上がった気分だった。

*

「どこかに遊びに行かない?」 とメアリが言った。ふたりは1時間ほど前にショッピングから戻って、家でくつろいでいたところだった。まだ、時間が早かった。

「どこに?」

「ダンスよ! すごくセクシーな服装になって、メイクもセクシーにするの。楽しい時間をすごせると思うわ」

ビリーはためらわなかった。「よさそうだね」

メアリは丈の非常に短い赤いドレスを着た。ビリーはゆったりとしているが、やはり丈の短いピンクのドレスを着た。胸元が大きく開いているし、背中も露出していて、できたばかりのタトゥ—が露出している。ふたりはハイヒールの音をコツコツ鳴らしながら玄関を出た。

クラブに着き、ふたりは中に入る客たちの列に並んだが、クラブの見張りの男(でっぷりとした黒人)は、迷わず、ふたりを優先的に中に入れた。

「こんなこと、前にはなかったよ」とビリーは笑った。メアリも一緒に笑った。

その夜、始まりは、予定した通りだった。ビリーとメアリは、もっぱらふたりだけで踊り続けた。ビリーは、ダンスに関して天性の才能があった。生れてからずっとダンスし続けてきたかのような身体の動き。

しかし、すぐにふたりは他の客たちの関心を惹きつけることになった。だが、それも避けられないことだったと言える。ビリーもメアリも、その機会を逃すことはなかった。当初の予定とは異なり、ふたりは別々になり、それぞれに言い寄ってきた黒人男性とダンスを始めたのだった。

ビリーはプロのダンサーのように腰を動かし、パートナーの股間にお尻を擦りつけた。そして、その見返りとして、彼は、相手からみるみる固さを増す部分で擦り返してもらった。ビリーはスカートの裾をちょっと捲り上げ、お尻の頬肉を露わにし、その生肌でさらに擦りつけた。彼は音楽のビートに揺れながら、我を忘れた。パートナーの男はビリーの身体じゅうを触りまくっていた。そしてビリーもそれを喜んだ。彼のあそこは濡れていた。

ようやく音楽が終わった。ビリーは相手の男が耳元で囁くのを聞いた。

「一緒に、ここを出ようぜ」

ビリーは息を切らせながら答えた。「いいわ。でも、私の…私のルームメイトを探さなきゃ。私の家に来てもいいわよ」

ビリーは、メアリを見つけた。他の男と踊っている(ビリーの相手ほどはハンサムではなかったが)。ビリーはメアリを引っぱるようにして男から離した。

「何なの?」 とメアリは迷惑そうに言った。

ビリーはおどおどしながら答えた。「もう家に帰ろう」

「いま来たばかりじゃない?」

「一緒に家に帰りたい人がいるの…」

「向こうであなたと身体を擦り合わせていたオトコ?……いいわよ。でも、私も相手してもらうからね」

メアリはビリーがちょっと気落ちしたのを見て微笑んだ。「私、がっちりとセックスされたいもの」

そしてビリーも答えた。「僕も……」

*

その男の名はジョンという。後でわかったことだが、彼は何かの競技をするスポーツマンだった。だがビリーは彼の名前にも、彼がスポーツをしてることにも別に注意しなかった。彼はこれから起きることを思って頭がいっぱいだったのである。

ジョンとビリー、そしてメアリが家に着いた。メアリはジョンとビリーをリビングに残して、すぐに寝室に入った。

リビングの中、ジョンはソファに座った。ビリーは部屋の真ん中に立っていた。そして、何も言わず、ドレスのホックをはずし、床に滑り落ちるままにした。ビリーの乳首はいつになく勃起していた。そこにメアリがブラジャーとパンティだけの姿で入ってきた。

ジョンが立ち上がると、メアリもビリーもいそいそと彼の前に近づき、床にひざまずいた。ビリーが手を伸ばし、片手でジョンのズボンのチャックを降ろし、もう片手で中からペニスを引っぱりだした。確かに怪物並みの一物だった。まだ半立ちなのに、すでにビリーが見たことがないほど大きいと言えた。ビリーが細い手でそれを握ると、メアリが舐めた。

ジョンのズボンが床に落ちるを、ビリーは負けてはならじと、すぐにジョンの睾丸に口を寄せた。その球体を舐めると、男の汗の味がした。ビリーは熱を込めて睾丸を舐め続け、その後、肉茎の底面に沿って舐め上げ、最後に亀頭を口に含んだ。

これって、メアリのシリコン・ディルドよりずっと舐め心地がいい! ビリーはそう思った。

ビリーは咽ることなしに、できるだけ多くを口に飲み込み、そして引き抜きながら、できるだけ強く吸引した。それを何回か繰り返したが、息が苦しくなって、いったん口から出した。するとメアリが後を引き継いだ。彼女の方が熟練のプロであるのは明らかだった。メアリがジョンのペニスをもう数分舐めしゃぶった後、再びビリーが交替した。

メアリもビリーもジョンの顔を見上げながら、彼を喜ばそうと最善を尽くした。交互に交替しては、ジョンの黒い肉茎を吸い、睾丸を愛撫し、舐めしゃぶった。それをさらにもう何分か続けただろうか。突然、ジョンはふたりから離れた。それが何を意味するか、ビリーには分かっていた。

ビリーもメアリも直ちに四つん這いになった。ジョンの素晴らしい男根にヤッテもらうのを、その姿勢で待つ。だが、どっちが先になるんだろうか?

がっかりしなかった方はビリーの方だった。何の前触れもなく、ジョンのペニスがアヌスに入ってくるのを感じたからである。ジョンはゆっくりなどしなかった。優しく挿入などしなかった。あの怪物を一気にビリーのアヌスに突き入れた。

「あっ、ああぁぁぁん!」 

ビリーは女のような声でよがり泣いた。

突き入れるとすぐにジョンは出し入れの動きを始めた。まさに削岩機のごとくガンガン打ち込んだ。しかもビリーの髪の毛をぐいぐい引っ張りながら突きまくる。ジョンに身体を叩きつけられながら、ビリーはエクスタシーの叫び声をあげた。メアリのストラップオンなんかよりずっと本物の感じがした。ずっと身体の奥底に響く感じがした。

ちょうどその時、ビリーは彼の小さなペニスをメアリの唇が包み込むのを感じた。見えてるわけではないが、その姿勢だとメアリはジョンの睾丸に顔面を叩かれているだろうと思ったが、メアリは気にしているようでもなかった。それにビリー自身もそれを気に止めもしなかった。彼はジョンが出し入れするのに合わせて肛門の筋肉をすぼめたり緩ませたりを繰り返した。ジョンに気持ち良くなり続けてほしいと思ってのことである。

狂ったようなピストン運動が2分ほど続いた後(そしてビリーが2回オーガズムに達した後)、ジョンが引き抜いた。その直後、ビリーは何か温かいものがお尻のすぐ上に当たるのを感じた。

「ど真ん中に命中!」 ジョンの声が聞こえた。

そして、その後はメアリの番だった。ジョンはメアリには時間をかけた。素晴らしいペニスをゆっくりと優しくメアリの女陰に挿入していく。

ビリーもふたりの役に立とうと、抜き差しをされるメアリの股間に顔を寄せ、ふたりがつながっている部分を舐めはじめた。舐める間、何度もジョンの睾丸に顔を叩かれたが、それは、それだけの価値があることだった。叩かれるたびに自分が淫らで下品な存在のような感じがしたが、それがかえって彼に甘美な興奮をもたらした。

しばらくメアリを犯した後、ジョンが引き抜き、ビリーに言った。

「こっちに来い」

言われた通りにジョンの前に行き、ひざまずいた。目の前には彼のペニスがあった。

「フィニッシュだ」

ビリーは吸い、舐めた。そして、その褒美として、熱くねっとりした精液を撃ち込まれた。ビリーは、良いboiならそうするように、出されたものをすべて飲み込んだ。

*

その夜、3人はさらにセックスを繰り返した。だがビリーにとってはすべて夢の中のような感じがした。朝になり、ジョンはすでにいなくなっていた。

ビリーもメアリも、起きた後、服を着ることもせず、裸で家の中を動き回った。ビリーは自分の妻より自分の方がいい身体をしていると気づき、内心、自慢に思った。

キッチンでちょっと気まずい沈黙があった時、メアリが声をかけた。「で………楽しかったわよね?」

ビリーは頬を赤らめ、恥ずかしそうに微笑んだ。「ええ…」

ふたりともそれ以外は何も言わなかった。

*

それから2ヶ月ほどが経った。その間に、ふたりは同じようなデートを何度も行った。議会は、基本的に白人のboiと女性を同等扱いにする法律を可決した。例えば、boiと女性は、学校での体育の時間は同じクラスに属すること、共に男性と結婚することができること、そして共にわいせつ物陳列罪に関しては同じ扱いを受けること(乳首の露出禁止)などが含まれている。

そして、多くのboiにとって生活が落ち着きを見せ始めていた。彼らの性的欲望はかなり亢進していたのだが、このころになると少し衰え始め、いろいろなことが鎮まり始めていた。しかしながら、離婚訴訟が多発し、法廷が麻痺寸前になったことで、それに対処するため、白人boiと女性の婚姻はすべていったん無効とする措置が宣言された。

ビリーに関しては、新しい人生を極めてエンジョイしていた。基本的に、彼とメアリはレズビアンの恋人同士となっている。とは言え、毎週、3回か4回はふたりとも大きな黒ペニスを楽しんでいる。ふたりがひとりの男性を共有することは滅多になく、たいていは、同時に男性をふたり家に連れ帰って、互いに並んで横になり、セックスされるというのが普通だ。

ビリーとメアリが、今ほど親しい状態になったことはこれまでない。服のセンスから性交時に取る体位に至るまで、ほとんどすべてをあけすけに語り合う仲になっている。

ただ、ビリーの解雇手当が底をつき、おカネが乏しくなっていた。

そんなある日、メアリがビリーに訊いた。

「スミスさんが、仕事が欲しかったら、また来なさいと言ったと、言ってなかった? 別に、あそこで働きたくないのなら、それはそれでいいんだけど、でも仕事は必要だわ」

「いつでも裸になってもいいわよ」 とビリーは答えた。

「あなたたち、ほんとにエッチなんだから。自分たちのコントロールができないみたいね」 とメアリは明るく笑った。

「コントロールしたくなったら、いつでもコントロールできるわよ!」とビリーは毅然とした口調で言ったが、もちろんちょっと笑みを浮かべてではあった。

「そうよねぇ、あなたならできるわよねぇ…。うふふ」 と皮肉っぽい口調。

「んっ、もう! いいわよ、スミスさんに会うから」 とビリーは降参した。

*

そんなわけでビリーは、再びクラレンス・スミス氏の前に座っていた。今回は、タイトなミニ・スカート、ジャケット、そして胸元が開いたブラウスの姿だ。セクシーでゴージャスないでたちだし、ビリーもそれを自覚している。

「ああ、いま空きがあるか分からないんだよ、ビリー。今は仕事を探しているboiが多いんだ。いま空きがあるかもしれないのは秘書の仕事だけなんだがね」 とスミス氏は言った。

「それでパーフェクトです!」 とビリーは最高の無垢でセクシーな顔を作って、返事した。

「で、どんなことができて、君は自分が秘書の仕事に向いていると思うのかな?」

「あら、たくさんありますわ」 

そう言ってビリーは立ち上がり、スミス氏の元に近づき、彼の足元にひざまずいた。ゆっくりとズボンのチャックを降ろし、中からペニスを取りだした。大きくはなかったが、ビリーは、そもそもどんなペニスでも大好きなのである。

ビリーは美味しそうに先端を舐め、焦らした。彼はすでにエキスパートになっていたし、その効果は明らかだった。彼はスミス氏に、彼が味わったうちで最高のフェラをしてあげたのだった。

ビリーは口紅を塗り直しながら言った。「じゃあ、明日9時ですね?」

*

「まさか、本当に?」 とメアリが言った。

「いいえ、本当よ。そうしたらスミスさんは、口ごもりながら、『あ、ああ。もちろん』って言ってたわ。で、私はお尻をしっかり見せつけながらオフィスを出たわけ」

「じゃあ、あなた、秘書になるの? 給料はどれくらい?」

「分からない。まあ、スミスさんと一緒に何か捻りだすつもりでいるけど」 とビリーは悪戯そうな笑みを浮かべた。

*

ビリーは、あっという間に、その可愛い手でスミス氏を虜にしてしまった。今では会社で最も高額の給与を得る秘書になっているし、スミス氏は完全に彼にぞっこんになっている。

ビリーが秘書の仕事を初めて2ヶ月後、スミス氏は彼を公式的にデートに誘った。その3ヶ月後、クラレンスはビリーに結婚を申し込んだ。ビリーはイエスと答えた。

結婚式の日、ビリーは純白のランジェリを身につけ、その上に白の美しいウェディングドレスを着た。そして顔には手の込んだヴェール。メアリは花嫁の付き添いである。

「あなた、幸せ?」 とメアリが訊いた。

ビリーはためらわず答えた。「ええ、とても」

*

(後にこのように呼ばれるようになったのだが)グレート・チェンジの何年か後、オマール・ベルは政府のエージェントに殺害され、そのすぐ後に、治療法が発見された。しかしながら、すでに新しい生活に慣れ、元に戻ることを拒否するboiの数は多数に登った。さらに、治療を受けた者たちのかなりの人が、治療を受けたことを後悔した。新しく男性に戻っても、それに順応できなかったからである。

しかし、人生は続いて行く。人間には回復力があり、基本的にどんなことにも順応できるものだ。ジェンダーが3つに分かれた世界にすら順応できるのである。

ベル博士の怒りが、彼が想像すらできなかった世界をもたらす結果になったことは皮肉である。確かに、今だに憎しみは残っているし、偏狭な見方も残っている。だが、急激な社会変化は、人々に豊かな感情の増大を誘発し、すべての人種が相互に折り合いをつけるような社会に変わったのだった。

もっとも、偏狭というものが完全に消え去ったとは思わないでほしい。いや、そんなことは、いかなることを持ってしても、現実には不可能である。それを多くのboiたちが知った。boiたちは、仕事をする能力が縮小したわけでもないにも関わらず、以前のような仕事をする資格があるとはみなされなかったのである。それは、グレート・チェンジの直後、boiたちが当初、異常な性欲を感じた状態になったことがもたらしたステレオタイプ的な見方によるものだった。彼らの性欲はすぐに鎮静化し、他の人と少しも変わらぬ程度になったのであるが、人の見方は、そのような変化がなかったかのように、いつまでも残り続けたのである。そして、boiたちは、それまでの少数人種たちがそうであったように、そのような見方の犠牲者となったのであった。

だが、先に述べたように、人間というものは回復力があり、順応してきたのである。

ベル博士がどのように追跡され、殺害されるに至ったか……その話しは、また別の機会にしよう。


おわり
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