「親友」 Dr. Bell's Vengeance: Best Friends  by Nikki J. 出所
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マークは、白いストッキングを巻きをほどきながらスルスルとその滑らかな脚に沿って引き、末端をサスペンダの留め具で留めた。そして、もう一方の脚にもストッキングを履く。それを終えた後、白いレースのソングパンティを履き、丸いお尻をそれで包んだ。鏡を覗く、前のところには不自然な盛り上がりがほとんど見えず、ペニスがあるとは思えない。

今回は、ボイ(参考)用のブラじゃはつけないことにした。

「マーク、すごく綺麗よ。知ってると思うけど」

マークの後ろから、妹のアマンダが声をかけた。マークは振り向いて、にっこり微笑んだ。

「そう思う?」

マークは聞き返した。もっと褒めてほしくてそう言っているのである。ボイは、いくら綺麗だと言われても、それで充分となることはないものなのだ。

「彼、あなたと一緒になれてとても嬉しいでしょうね。今のようになるなんて、思ってもいなかったわ……」

マークはアマンダの言葉を遮った。「分かってる。ほんと、気が狂うような5年間だったから」

「それでも言いたりないほどだけど……」とアマンダは壁の時計を見た。「さあ、急いで、お兄さん。スリップを着て、ドレスを着るのを手伝わなければいけないから」

2分後(いや、実際はもっとかかったが)、マークは鏡の中の自分の姿を見つめていた。その美しさにちょっと誇らしさを感じずにはいられなかった。

花嫁の付き添いのひとりであるジェニーが顔を出した。

「さあ、時間よ!」

マークは深呼吸をして、ベールをかぶり、そして部屋を出た。

教会の廊下を、ドキドキしながら進み、式の会場に向かった。会場へはすぐだった。気がついたら、父親と並んで教会の聖域への入り口に立っていた。父は地味な黒いドレスを着ていた。55歳になる父だけど、魅力的に見えた。

父がマークに向いて言った。「準備はいいかな?」 マークは頷いた。

そしてふたりはドアの前で開始を待った。もうすぐ、結婚式が始まる。

ようやくドアが左右に開いた。そして音楽が鳴り始める。マークは前へ進み始めた。純白のウェディング・ドレスに身を包み、美しい。

マークは前へ進みながら、どうしても、花嫁になるまでのことを思い出さずにはいられなかった。

*

マークはごく普通の生活をする、ごく普通の男だった。ごく普通の寝室がふたつのアパートで妻と暮らしていた。仕事は、地元の新聞社のカメラマン。彼の妻のジェニーは小学校の教師。家計のやりくりはできていたけれど、裕福とは言えない。

だが、マークが努めていた新聞社の経営が傾き始め、事態が複雑になってきた。インターネットと24時間ニュースが普通になり、この2年ほどで、いくつもの弱小新聞社が倒産していた。そして、マークの場合も、その時流の影響を受け、彼は失職したのだった。新聞社は彼にわずかな退職金は出したが、もちろん、それはすぐになくなってしまった。

ある晩、マークとジェニーは夕食を食べていた時だった。ふたりとも何も言わず食事していたが、急に、焦れたようになってジェニーが口を開いた。

「分かってると思うけど、私たちここに住み続ける余裕がないわ。もっと安いところに引っ越さなければいけないと思うの」

「新しい仕事につくから。だから、心配しないで」 とマークはジェニーを安心させようとした。

「だけど、新聞社で稼いでいたお金にあうだけのお金? ちょっと無理じゃない?」

気まずい沈黙が流れた後、ジェニーが言った。「あの余分の部屋を貸したらどうかしら。私たち使っていないし」

「それはそれでありえると思う。でも、他人をここに入れるのは、どうかなあ」

「あなたのお友達のテレンスはどうかしら? あなた、前に、テレンスは実家に住んでたけど、自活できるようになるまでの一時的に住む場所を探しているって言ってたわよね?」

確かに理屈は通る。テレンスに来てもらえるなら、アパートに赤の他人を入れる必要はないし、マークとテレンスは大学時代、ルームメイトだったので、一緒に住んだとしても、あの頃と大きな違いはない。マークは賛成した。

というわけで、翌日、マークは親友のテレンスに電話をした。

「やあ、テレンス。まだ、一時的に住む場所を探しているところ?」

「ああ、そうなんだ。どこかいいところ知らないか? あまり高くないところがいいんだけど」

「実はね、ジェニーと話しをして、ルームメイトを入れようと思っているんだよ。知ってると思うけど、うちには余分の寝室がひとつあるだろ。そこで、あの部屋、どうかと、君に最初に話しをしてみたらってジェニーが言うんだ。どこを探しても、うちよりいい値段のところはないんじゃないかなあ」

ふたりは家賃について交渉した。マークは家賃に関しては柔軟な対応をし、ふたりは交渉の一致を見た。テレンスは翌日、引っ越してくることになった。

*

翌日テレンスがやってきた。マークは旧友の姿を観察した。前と変わらないと思った。濃い茶色の肌で、レゲエ風の髪をしてて、身長は175センチくらい。ただ、昔よりはちょっと痩せたかな、と。

テレンスが引っ越してきて分かったことだが、彼はほとんど荷物を持っていなかった。実家の地元ではあまり運に恵まれず、新しい仕事を得ようと都会に出てこなければならなかった。まあまあの収入にはなるのだが、完全に自立するにはもうちょっと時間がかかるらしい。

マークは、必要なだけここにいていいよとテレンスに言った。

その一方で、マーク自身も新しい仕事を探していた。職を得るのは難しかった。カメラマンという職業にはそもそも、仕事の口が少ないのである。地元の雑誌社に2件ほど応募書類を送った後、彼はテレビでも見ようと腰を降ろした。

テレビをつけ、ニュースを見た。ある科学者が狂った主張をしていると知ってひどく驚いた。何でも、ある生物的エージェントを人類全体にばら撒いたというのだ。ニュース・キャスター(年取った白人男性)は、この主張には信頼性がほとんどないと言っていたが、マーク自身は興味をそそられた。そのキャスターが別のニュースに話題を変えた後、マークはネットで詳細を調べることにした。すぐに分かったことは、その問題の科学者とはオマール・ベル博士であるということ。ベル博士は、適切に早い時期に投与されれば、HIVウィルスを根絶できる薬品を開発したことに対してノーベル賞を受賞したことを知った。

どうしてその博士がこんなことを言うのかと混乱したマークは、さらに調べ、次の引用を発見した(これはノーベル賞受賞後のベル博士が行ったスピーチの一部である)。

「私は、歴史を通して抑圧されてきた私の兄弟・姉妹の代理として、この賞を受けたい。私は私の仲間に対する恐ろしい攻撃を和らげるための一歩を進めたのです。HIVウィルスは、政府が黒人の人口をコントロールするために製造したウィルスなのです。それを私は無効にしたのです……」

その記事によると、ベル博士はそこまで言ったところで中断させられたらしい。明らかに、この博士は、あらゆる悪事は特定人種を攻撃するために行われていると考える陰謀論者のひとりと言えた。

マークは検索を続け、ベル博士が主要なメディアに送った手紙を見つけた。これを発表したメディアは非常に少なかった。その手紙は次のとおりである。

親愛なる世界の皆さん:

あまりにも長い間、我々アフリカ系アメリカ人は忍耐をし続け、世界が我々を差別することを許し続けてきた。我々はずっと忍耐を続けてきた。だが、とうとう、もはや我慢できなくなった。そこで私は我々を差別してきた皆さんを降格させることを行うことにした。初めは、皆さんは私の言うことを信じないことだろう。それは確かだ。だが、時間が経つにつれ、これが作り話ではないことを理解するはずだ。

私は、私たち人類の間の階層関係に小さな変更を加えることにした。今週初め、私は大気にある生物的作用物質を放出した。検査の結果、この作用物質はすでに世界中の大気に広がっていることが分かっている。

パニックにならないように。私は誰も殺すつもりはない。もっとも、中には殺された方がましだと思う者もいるだろうが。

この作用物質はあるひとつのことだけを行うように設計されている。それは、黒人人種が優位であることを再認識させるということだ。この化学物質は白人男性にしか影響を与えない。

それにしても、この物質はそういう抑圧者どもにどんなことをするのかとお思いだろう。この物質はいくつかのことをもたらす。その変化が起きる時間は、人によって変わるが、恒久的な変化であり、元に戻ることはできない。また純粋に身体的な変化に留まる。

1.白人男性は身体が縮小する。白人女性の身長・体重とほぼ同じ程度になるだろう。この点に関しては個々人にどのような変化が起きるかを予測する方法はほとんどないが、私が発見したところによれば、一般的な傾向として、女性として生れていたらそうなったであろう身体のサイズの範囲に収まることになるだろう(その範囲内でも、小さい方に属することになる可能性が高いが)。

2.白人男性はもともとペニスも睾丸も小さいが、身体の縮小に応じて、それらもより小さくなるだろう。

3.白人男性のアヌスはより柔軟になり、また敏感にもなる。事実上、新しい性器に変わるだろ。

4.声質はより高くなるだろう。

5.腰が膨らみ、一般に、女性の腰と同じ形に変わっていく。

6.乳首がふくらみを持ち、敏感にもなる。

7.最後に、筋肉組織が大きく減少し、皮膚と基本的な顔の形が柔らかみを帯びるようになるだろう。

基本的に、白人男性は、いわゆる男性と女性の間に位置する存在に変わる(どちらかと言えば、かなり女性に近づいた存在ではあるが)。すでに言ったように、こういう変化は恒久的で、元に戻ることはできない。(現在も未来も含め)すべての白人男性は、以上のような性質を示すことになる。

これもすでに述べたことだが、大半の人は、私が言ったことを信じないだろう。少なくとも、実際に変化が始まるまではそうだろう。もっとも変化はかなり近い時期に始まるはずだ。ともあれ、1年後か2年後には、世界はすでに変わっていることだろうし、私に言わせれば、良い方向に変わっているはずである。

親愛を込めて、

オマール・ベル博士

マークは何度か読み返し、文面を心にとどめた。この男は明らかに正常ではない。どうしてニュース番組がこの事件をあまり重視しないか、その理由が分かった気がした。これはバカげすぎているからだ。

その夜、マーク、ジェニー、テレンスの3人は夕食の席で、必然的にこのニュースを話題にした。

テレンスが言った。「俺はこういうヤツらが大嫌いだなあ。こいつら、俺たちの抱える問題が、すべて、黒人であることが原因であるように振舞っている。いや、俺は人種差別にあったことがないとは言ってないよ。いや、実際、差別にあった経験はある。だけど、こういうヤツらが言ってるほど、広範囲に起きてるわけじゃないんだけどね」

「でも、この人の言ってることには一理あるんじゃない?」とジェニーが答えた。「あなたたち黒人は過去に辛い時代を経験してきたわけでしょ。単に奴隷制のことだけじゃなくって。人種隔離政策とかいろいろ……」

「でもさあ、この人によると、僕たちが一度も会ったことがない人たちがやったコトで、僕たち全員が罰を受けるべきだということにならないか?」 とマークが訊いた。

「白人は全員が悪魔だとかレイシストだとか、そういうのはないと思うんだよ。そういうステレオタイプ的な見方は、他の人種へのネガティブなステレオタイプと同じく、悪い影響しかもたない。白人も人種差別の標的にされることだってあるしね」 とテレンスが言った。

ジェニーが答えた。「いずれにせよ、この人、気が狂ってるわ。彼が書いた声明文を読んだ?」

テレンスとマークがくすくす笑った。そしてテレンスが言った。「なんだかなあって感じだよ。マーク、君は一夜にして、可愛い女の子になっちゃうのかい?」

3人ともいっせいに大笑いした。マークは腹をとんとんと叩きながら言った。「いやいや、俺は痩せられていいかも」

「笑わないで」とジェニーが口を挟んだ。「本当に、あなたはジムに通わなくちゃいけないわよ」

「分かってる、分かってるって。月曜から始めるよ」とマークは答えた。

マークはこの3年ほど、ちょっと気を緩めすぎており、かつてのスポーツマン的な体つきがいささか弛んできていた。身長180センチで体重100キロの今、ちょっとは(いや、たくさん)体重を落とさなければと思っていたところだ。

3人はその後、おしゃべりをしたりワインを飲んだりしながら楽しい夜を過ごした。ジェニーとテレンスは仲良くやれそうだなとマークは思った。このことが彼の気がかりだったからである。結局、その夜3人は明け方近くまで飲み、そして眠りについたのだった。

*

何日か経ち、3人はすぐに一定の生活リズムに落ち着いた。テレンスが引っ越してきてから1週間後、マークは地元のファッション雑誌の仕事を得た。本当は写真報道の仕事が良かったのだが、仕事にあぶれてる身としては選択などできないと諦めた。ファッション誌の仕事は(現在、それをしている年寄りのカメラマンが退職する)2ヶ月先までない。だが新聞社からの退職手当のおかげで、あと3ヶ月は生活ができるので、マークはさほど 心配していなかった。

マークは面接のあった日の夕食時、ジェニーに仕事のことを話した。この家での習慣として、テレンスも話しに加わった。

「ということは、毎日、半裸のモデルたちに囲まれる職場になるわけか? アシスタントが必要じゃない?」 とテレンスがニヤニヤしながら訊いた。

マークは肩をすくめた。「多分、必要かも」

「でも、新聞社の仕事よりペイが低いんでしょ?」 とジェニーはテレンスの言葉を無視して訊いた。

「ああ、でも、半年後には昇給があるんだ。さらに1年後にはもう一度昇給があるはず。そこまでいったら、新聞社での仕事とほぼ同じペイになるよ」

「そう。おめでとう、あなた!」 とジェニーは笑顔で言った。そしてマークに顔を近づけ、頬にキスをした。

そして小声で囁いた。「でも、そのモデルたちに目を向けたら、あなた、後悔することになるわよ。うふふ」 と笑って、腰を下ろした。

「うーむ。でも、写真を撮るわけだから、どうしても目を向けなくちゃ」

「私が言ってる意味、知ってるくせに」

「でも、もし…」 と何か言いかけた時、マークの声が変わった。彼は咳払いをして、「もし……」と続きを言いかけたが、再び咳払いをしなければいけなかった。

「おい、大丈夫かい?」 とテレンスが声を掛けた。

「ああ、ただ……」 マークは驚いて、居心地が悪そうな顔をした。「声がちょっと高くなった感じで」

「確かに」 とテレンスが言った。

それから5分ほど沈黙が続いた。彼らが何も言わない時間がこんなに続くのは珍しい。その後、テレンスは

「ひょっとして、お前、例の可愛い女の子になりかかってるのか、えぇ?」

と言い、笑いだした。

この一言で緊張がほぐれたようで、3人とも大笑いをした。この部屋で、テレンスの笑い声だけが、男性的な笑い声だった。

*

ジェニーは女性にしては背が高い。180センチはある。だから、マークは彼女を見上げるのに慣れていた(特にジェニーがハイヒールを履いた時はそう)。だが、2週間ほどした時、マークは、ジェニーが自分より確実に15センチ以上は背が高くなっているのに気づいて、驚き、ジェニーに身長を測ってもらった。160センチだった。体重も測り、減っているのを知った。ただ、減ったとはいえ、いまだに86キロなので、太ってるのには変わりない。マークは鏡で自分の姿を見てみた。

お尻がはっきりと大きくなっていた。腰もそれに応じて幅広になっていた。上半身からは、大半の筋肉がそげ落ちていた。だが、最悪なのは胸だった。少なくともBカップはあるに違いないし、(前はそうでなかったのだが)乳首が大きくなっていて、まるで女性の乳房のように見えていた。マークは自分のからだを見て、うんざりした。確かに、身長が縮んだのは悩みだが、これは自分でもどうしようもないこと。問題はからだの脂肪のほう。

そこでマークは体重を減らさなければと自覚した。ただ、実際にジムに行くのは、このからだだけに恥ずかしかった。そこで、彼はジェニーの持ち物を漁り、エクササイズ用の古いビデオテープを見つけた。早速、それをデッキに入れ、運動を始めた(画面では、ありえないほどカラダが引き締まったブロンドの女性がエクササイズを指導していた)。何とか、テープに合わせてからだを動かす。動きに合わせて、彼の乳房がぶるんぶるんと揺れた。終えた頃には汗びっしょりになっていた。

その晩は、夕食としてサラダだけを食べた。いつものワインも、この日は控えた。彼は、背が低くなったことについてテレンスやジェニーが何も言わなかったのを不思議に思ったが、むしろ、無視してくれたことをありがたく感じていた。

それから1ヶ月間、マークはエクササイズの日課をきっちりと守った(実際、もっと上級向けのエクササイズ用のビデオをオンラインで注文してさえいた)。さらにダイエットもきちんと守った。そのおかげか、非常に明確に、体重を落とすことができた。マークは結果を見て嬉しかったが、背がますます低くなっているのを知り、がっかりした。今は、155センチのチビになってしまっている。エクササイズを開始して1ヵ月で、体重は59キロに落ちていた。その減った体重の大半は、からだ全体が縮小したことによるのは知っていたが、それでも、脂肪分が減ったことは確実で、否定できない事実だった。

お尻も引き締まっていた(が、依然として、丸い)。胸の方も大きく見てもAカップまで小さくなっていた。ウェストはというと、73センチまで細くなっている(こんなに細くなったのは、何年もなかった)。だがマークは満足していなかった。まだまだ、たくさん脂肪が残っている。

ある日、特に激しくエクササイズに精を出した後、彼はシャワーを浴びた。そして、シャワーから出た時、全身の体毛がなくなっているのに気づいた(陰毛までも消えていた)。からだ全体でもいろいろ変化が起きていたので、体毛の喪失は、ほとんど心配にならなかった。彼は肩をすくめて、忘れることにした。

それから2日ほど経った夜。ジェニーとマークがベッドに入ろうとしていた時だった。ジェニーが言った。

「マーク? 私、あなたが最近エクササイズを頑張ってきたのを知ってるわ。その効果が出てきたことに、私が気づいていないなんて思わないでね。と言うわけで、あなたにご褒美としてプレゼントをあげるわ」

と、ジェニーは彼にバッグを出した。中には、ショートパンツが2着とTシャツが3着入っていた。

「あなたが着てる服、最近、からだに合わなくなっているでしょ? だから…」

もちろん、ジェニーの言うとおりだった。エクササイズでからだを動かすとき、しょっちゅう、中断して、ズボンを引っぱり上げなければいけなかったからである。マークは彼女にお礼のキスをし、ふたりは眠りについた。

翌日、マークは、プレゼントの服を着て、驚いた。ショートパンツは、それまで履きなれていたものより、ずっと短く、きつい。多分、もっと体重を落とすようにと励ましのつもりで、このサイズを買って来たんだな、とマークは思った。Tシャツも着てみた。サイズはぴったりだったけれど、袖はキャップ・スリーブ(参考)で、着慣れていないものだった。下着のブリーフは、今は大きすぎて、ショートパンツの中でずれ落ちてばっかりだったので、下着は履かないことにしていた。

マークは、ジェニーは服について変わった趣味をしてるんだなと肩をすくめ、早速、エクササイズを始めた(今日は、ジャズダンス風エアロビの日だ)。エクササイズを終え、シャワーを浴びようと、服を脱いだ。マークは、それについて考えるのは好きではなかったのだが、彼の分身も日増しに小さくなっていたのだった(今は、柔い時だと5センチにもならない)。

*

3週間が過ぎた。マークはさらに11キロ体重が減った。嬉しくもあり、恥ずかしくもありの結果だった。

お尻は、いまだ丸々としていたものの、前よりぶよぶよした感じはなくなり、引き締まっていた。腰も大きく膨らんだまま。だが、ウエストはずいぶん細くなって、60センチになっていた。お腹はちょっと丸く膨らんではいるものの、脂肪はほとんどなくなっていた。肩や腕は細く、やなぎを思わせる。胸の乳房っぽいものは消えていた。だが、乳首は大きいままだった(乳輪は大きく、女性のそれに近かったし、乳首も6ミリくらいにツンと立っている)。

この3週間に渡って、ジェニーは彼にさらに衣類を買ってきていた。ショートパンツをもう2着ほど、それにTシャツも(すべてキャップ・スリーブ)。さらに、ズボンを何本かと、ピチピチのタンクトップ(肩紐は細い紐になっている)も買っていた。ズボンはお尻や太腿の部分がキツキツで、そこからふくらはぎにかけては緩くなっていくデザイン。だから、お尻周辺のからだの線がはっきりと見えていた。マークが下着がぜんぜん合わなくなっていると不満を言うと、ジェニーは翌日、Yフロントの下着(参考)をいくつか買ってきた。これはマークのからだにぴったりとフィットしたものの、女性のビキニと非常に似たデザインのものだった。

*

マークの声が変わってから3ヶ月ほど経ったある晩のことだった。彼とジェニーがベッドに入ろうとしていた時のことである。マークはブリーフだけを着た状態で、ジェニーの方はキャミソールとパンティの姿であった。ジェニーはベッドのシーツを捲りながら、顔を上げ、マークに訊いた。

「マーク? ちょっと訊いてもいいかしら?」

「もちろん、いいよ。何?」

「あなた、私のことを、もう魅力的と思っていないの?」

この質問にマークは驚いたが、すぐに答えた。

「いや、もちろん、魅力的だと思っているよ。君はゴージャスだよ」

実際、マークの言うとおり、ジェニーはゴージャスと言えた。背が高い体つき。やせいてはいるが、引き締まったからだ。何より、胸は素晴らしいDカップなのである。

「ただ、それだけなんだけどね。こういうことが夫婦には何度も起きるというのは知ってるわ。でも、私たち、もう3ヶ月近くセックスしていないのよ。それ、私のせい?」

マークはそう訊かれて、ちょっと答えに窮した。そんなにしていなかったのか? 確かにしばらくしていなかったのは、マークは知っていたけれど、彼は自分の問題に囚われていて、気がつかなかったのである。

「そんなことはないよ。僕のせいだよ。考えなくちゃいけないことがいっぱいあったから」 とマークは自分のからだを指差した。「僕を見てみて」

ジェニーは彼を見た。マークはジェニーが彼をどのように見ているか知っていた。実際、マークは彼女より小さい。そして、今の彼のからだは、(乳房はないものの)セクシーな20歳くらいの若い女の子のからだになっていた。

ジェニーも言葉に詰まったが、ようやく口を開いた。

「あなたがちょっと……ちょっと前と変わったからと言って、私たちができないということにはならないでしょう? 言ってる意味、分かると思うけれど……」

「分かってるよ。それこそ、僕が言おうとしていたことなんだ。ただ、他のことを考えていたということ。それだけなんだよ」とマークは説明した。

そしてちょっと間を置いた後、彼は笑みを浮かべて、言った。

「今夜、君にその埋め合わせをさせてくれ」

彼自身は男らしい自信にあふれた笑顔をしたつもりだったが、柔和で丸みを帯びた顔になっているので、その効果は台無しで、キュートな笑顔にしか見えなかった。

マークがベッドに這い上がるのを見て、ジェニーは、「いったい何を考えているのかしら?」と言いながら、自分もベッドに入った。

ふたりはキスを始めた。やがて、ジェニーの手がマークのブリーフの中に忍び込んだ。彼女は、マークの小さなペニスを握ると、ちょっと顔を離してキスを解いた。

「ああ、それ。……まあ、それも、これまでしてこなかったもうひとつの理由なんだけど………」

ジェニーは彼の唇に人差し指を立てて、彼を黙らせた。

「しーッ!」 

そしてジェニーはベッドから降り、マークの腰を掴み、ぐいっと引っぱった。彼のからだは、両脚がベッドから垂れさがるところまで簡単に引きづられた。今のジェニーは、身体的に、マークよりずっと強くなっているのである。でも、不思議なことに、こうされることが自然なことのようにマークには感じられた。

ジェニーは彼のブリーフに手を掛け、引き降ろした。つるつるの無毛の脚をブリーフが降りて行き、彼の萎えたままの小さなペニスが露わになった。ジェニーは彼の脚を左右に押し開き、そのペニスを舐めはじめた。

マークは、確かに気持ち良いと感じたものの、分身は萎えたままだった。

どうしてジェニーはそんなことをしたのか、彼には分からなかったが、2分ほどしたら、彼女の指が彼のアヌスに触れるのを感じた。最初、何度か指の腹でそこを擦った後、彼女は言った。

「リラックスして」

言われた通りにすると、ジェニーの指が入ってくるのを感じた。

「すごく濡れてるわ……」

指を出し入れしながら、ジェニーはそう囁いた。それから何秒も経たないうちに、マークの小さなペニスは勃起したのだった。

「これ、気持ちいいのね? そうでしょ?」

その通りだった。彼は声を出さないように努めていた(なんだかんだ言っても、隣の部屋にテレンスがいるのだから)。だが、それでも、どうしても耐えきれず、何度か喘ぎ声を漏らしてしまうのだった。そして、ほんの2分しかたっていないのに、彼は絶頂に達し、精液をつるつるのお腹に撒き散らしたのである。

ジェニーはその液体を指ですくい、口に入れた。

「んんん……。これも前と違う味。ほとんど甘いと言ってもいいわ」 とジェニーは笑顔で言った。

マークがオーガズムから回復するのを受けて、ジェニーは、

「今度は私の番!」

と言い、マークのからだを抱え上げた。マークはキスをしながら、ほとんど本能的に、両脚で彼女の腰を包み込むように巻きつけた。なぜそうしたのか、彼には分からなかったけれど、それが自然なことのように感じられた。

すぐにジェニーはベッドの上、仰向けになり、マークは彼女にまたがり、キスを始めた。最初は首筋にキスをする。そうしてゆっくりと下方に移動し、鎖骨から、乳房へとキスをしていく。乳首には特に念入りにキスをした。さらに続けて彼女のお腹へと降りて行き、クリトリスにちょっとだけ、焦らすようなキスをした。その後、足首へと移動し、脚に沿ってじわじわと舐め上げ、太腿の内側にキスをする。

「そんな焦らしはヤメテ! あそこを舐めて!」

ジェニーはわざと怒った口調で言った。マークはにっこり笑い、早速、舌と指を使って作業を始めた。その2分後、ジェニーは腰を突き上げ、からだを震わせながら絶頂に達した。

そしてその2分後、マークは妻の両腕に抱かれて眠りについた。ジェニーは、何とはなしに、彼のお尻を撫でていた。

*

翌朝、テレンスとマークとジェニーがそろってテーブルで朝食を食べていた時だった。テレンスが言った。

「昨日の夜は、おふたりとも楽しんでいたようだね。悪いけど、どうしても聞こえてきてしまって」

マークは顔を赤らめ、ジェニーは「ノーコメント」とだけ言った。テレンスはアハハと笑って続けた。

「さてと、もう仕事に行かなくちゃ。今日は、早めに職場に行って、解雇されそうになってる男に活を入れてやらなければいけないんだ。確か、ビリーと言ったな、彼の名前は。とにかく、じゃあ、また後で」

テレンスが出て行った後、ジェニーがマークに言った。

「昨日の夜はちょっとしたものだったわね?」

「ああ、そうだね」

「ちょっとあなたに見せたいものがあるんだけど?」

「仕事に行く準備はいいの?」

「今日はいいの。今日は休むって電話入れたから」とジェニーは立ち上がり、部屋から出ていった。

マークは、ジェニーの後ろをついていくと、ジェニーは寝室に入った。ジェニーはノートパソコンを持って、ベッドの上に座った。

「こっちに来て」

マークもベッドに上がり、彼女の隣に座り、パソコンの画面を覗きこんだ。そこには、ある記事が出ていた。「どのボイも知っておくべきいくつかのこと」という題名で、イボンヌ・ハリスという女性が書いた記事だった。

「何、これ?」 とマーク。

「いいから、読んでみて」

その記事は次の内容だった。

何ヶ月か前、オマール・ベル博士は大気に生物エージェントを放出しました。そして、それにより、この2ヶ月ほどの間に、我々の世界から、白人男性という概念が、事実上、消失する結果になりました。いかにもアメリカ人的な逞しい白人男性が消え、その代わりに、(大半は165センチにも満たない)小柄で、少年と女性の中間のような存在が現れたのです。ですが、そのこと自体は別に言うまでもないことでしょう。あなたがこの記事を読んでるとすれば、あなた自身がその変化を体験しているはずだから。この記事の目的は、適切な情報を提供することにあります。世間には、いまだに、男性のように振舞おうと必死で足掻いている白人男性がいます。白人男性とは呼ばずに、以降、ボイと呼ぶことにしましょう。あなたが今だ男性のように振舞おうとしているなら、率直に言って、それは間違いです。あなたは、男性ではないのです。あなたはボイなのです。ちょっと脱線してしまいましたね。この記事では、2、3の主要な問題を扱います。態度、セックス(いやらしいけど!)、それに服装です。それでは早速、論じていきましょう!

今述べたとおり、私が触れる最初の問題は、態度についてです。どういうことだ? と思うかもしれません。まあ、態度という言葉は、どういうふうに振舞うかを、ちょっと堅苦しく言った言葉ではありますが、振舞いにはいろいろな側面があるのです。たたずむ時の姿勢から歩き方まで、すべてを含みます。あなたがたボイがこれまでと違ったふうに振舞うようにしなければならないというのは、奇妙に思われるかもしれません。ですが、率直に言って、あなた方は、男性のように振舞おうとすると、非常にマヌケに見えてしまうのです。例えば、10代の女の子が、その父親のように振舞うことを想像してみてください。どう見ても、変でしょう? それと同じです。ボイが男性のように大股で歩くのは、非常に奇妙にしか見えないのです。

別にあなた方を否定しているわけではありません。ボイは、まさに男性と異なるので、異なった振舞いをすべきだということなのです。この点は、いくら強調してもしすぎることはありません。あなた方ボイのために、いくつか提案をいたしましょう。まず第一に、背中を少し反らすようにすること。そうすると、皆さんのお尻がとても愛しく見えるようになります。第二に、ちょっと腰を左右に振るよう、心がけること。男性はそういう歩き方が好きなのです(この点については、後でもっと述べることにします)。第三に、怖気づくことなく、エアロビクスをすること。皆さんは、常にプロポーションに気を遣う必要があります。太ったボイは、孤独なボイになってしまいます。個人的には、ストリッパー風のエアロビを勧めますが、どんなエアロビでもよいでしょう。以上の3点を述べましたが、最も重要なコツは、女性を観察し、その真似をすること! これにつきます。皆さんは、思っているよりずっと、女性に近い存在になっています(つけ加えれば、性的に何を求めるかも、女性と似てきてるのでは? これも後述します)。そして、女性は皆さんより、ずっと前からこれをしているのです。ですから、ボイの皆さん! 私たち女性を観察し、そして学びとってください!

ふたつ目の話題は服装についてです。大半の皆さんはおそらく、もう気づいているはずです。持っている服がどれも、全然、身体に合わなくなっていることに(もともと、女性的な体つきだった人は別ですが)。そういうわけで、皆さんは、衣服類をすべて買い直す必要があります。たいていのデパートは、ボイの客層を直接狙ったセクションをオープンさせています。ですから、手始めに、そこに行って買い物をするのが良いでしょう。でも、もし経済的に苦しい場合は、恐がらずに、皆さんの身体のサイズに近い、ガールフレンドや奥様、それに姉妹から借りるのもよいでしょう。

でも、いくつか注意事項があります。下着から話しを始めましょう。ボイはパンティを履くこと。そうです。ブリーフはダメ。トランクスもダメ。パンティです。皆さんの体つきが、パンティを履くよう命じているようなものです。パンティを好むようになること。私自身、新しいセクシーなパンティを履くのが大好きです。そういうパンティを履くと、自分に自信がみなぎります! ボイの中には、ご自身の女性性を完全に受け入れ、ブラジャーをつけ始めた人もいます。そのようなボイの方々の順応性には拍手をしますが、個人的な意見を述べさせていただけれな、ボイはブラジャーはつけるべきではないと思います。なんだかんだ言っても、ボイには乳房がないのですから(今のところは! あの狂ったベル博士が何をしたか、誰にもわかりません)。皆さんは女ではないのです。皆さんはボイなのです。ボイには乳房はありません。ですからブラジャーも必要ないのです。

アウターに関しては、基本的に女性が着るような服なら何を着ても適切です。スカートでもジーンズでも、ブラウスでもドレスでも、何でも。良さそうだなと思った服なら、着てみるべきです。ただ、注意してください。紳士服を着ると、変に見えるということ(身体のサイズにあっているのを見つけたとしてもです)。皆さんは決して男性にはなれないのです。婦人服売り場かボイ服売り場(あるいは子供服売り場)、そのいずれかに限定してください。

最後に、セックスについてちょっとお話しします。もし、気分を害されると思ったら、すぐに読むのをやめてください。

よろしいですか? まだ読んでくれてますか? よろしい、では始めます。ボイの皆さんは、性器の部分の大きさが欠けてきたことにお気づきのことでしょう。その部分の大きさに、恥ずかしい思いをなさってる方がたくさんいるかもしれません。ですが、恥ずかしいと思わないこと! ボイが小さなペニスを持っていることは、完全に自然なことなのです。最近の研究によると、平均的な白人男性のペニスは、勃起していない時には、3センチ程度であると示されています。しかも、もっと小さいことも珍しくないということです(実際、私の夫は2センチほどで、これ以上ないほど、キュートなんですよ)。ですから、ボイの皆さん、心配なさらずに! ペニスの大きさなど、これからはさほど重要なことではないのです。その理由をお話ししましょう。

皆さんは、アヌスが前よりかなり敏感になっていることにお気づきかもしれません。皆さんの身体の設計によって、そうなっているのです。その部分を、新しい性器と考えてください。女性にはバギナがあり、男性にはペニスがあります。そしてボイにはアヌスがあるのです。その部分を試すのを恐れないように。ちょっと肝試しにトライしてみると思ってください。彼女のバイブレータを借りてみるのが良いでしょうし(頼みやすいと思うなら、姉妹のバイブでもよいでしょう)。そして街に出かけてみるのです。すぐに、「天国に登る」ような気持ちになれると分かるでしょう(これは夫の言葉です)。

さて、皆さんの人生で最大の変化となることに話しを向けます。多分、もうすでに察しがついているかもしれませんが、そうです、ボイは男性と一緒になるべき存在だということです。その背後にある科学はいたって単純なことです。ボイは女性とほぼ同一のフェロモンを分泌するということです。研究では、ボイは男性のフェロモンに晒されると、女性と同じ反応を示すことが明らかにされました。それが意味することは何か? ボイの皆さん、ごめんなさい。でも、皆さんは、今や男性に惹かれるようになっているのです。しかも、男性も皆さんに惹かれるようになっています。男性に惹かれてしまう衝動に抵抗したかったら、抵抗なさってもかまいませんが、その衝動は自然なことなのです。この事実と、男性が皆さんを喜ばせる道具を持っている事実とを兼ね合わせれば、どうして、ベル博士があの物質を世界中に放出して以来、男性とボイのカップルが400%も増えたか、その理由が分かるでしょう。

ホモではなくヘテロなのに、どうして男性と一緒になることになるのか、このことを受け入れようとしないボイがたくさんいます。そういうボイは、基本的に、自分の妻やガールフレンドとレズビアンの関係になっていることを意味します。あるいは少なくとも、現実面でレズビアンになろうとしていると。女性の大半は男性と結婚します(あるいは男性と付き合う)。それを念頭に置きつつ、皆さんには、近くのアダルトショップに行って、何か……何か、貫くタイプのモノを見てみるとよいでしょう。それを見ているうちに、衝動が湧いてくるはずです。ですから、ご自分を満足させられそうなモノを手に取るのが一番です。

これを読んでる皆さんの中には、まだ、否定的に思ってる方がたくさんいるとは思います。ちょっと厳しい療法をする時かもしれません。いいですか? 鏡を見てください。何が見えますか? その姿は男性と言えますか? 決して言えないでしょう。女性と言えますか? それも違うでしょう。鏡の中、あなたを見つめているのはボイなのです。ボイはボイらしい人生を進むべきなのですよ。

精神科のカウンセリングを受ける必要があると思うかもしれません。それもいいでしょう。政府は、そういう皆さんのために国中にカウンセリング・センターを設置しました。そこに行ってください。そうして、新しい自分を受け入れるのです。この記事がお役に立てればを思っています。ありがとう。来週は、どんなパンティを選ぶと、どういうボイなのかが分かる、そういうお話をいたします。では、また来週。

*

マークは2回読み直し、そして顔をあげ、ジェニーを見た。ふたりは黙ったまま、抱き合った。ジェニーは小さな身体のマークを両腕で包み込むようにして抱いた。

しばらく経ち、マークは顔をあげた。「これからどうしよう?」

「あなたが何をしたいかによるわ。あなたが望まないことは、一切しなくていいのよ」

マークはちょっと考えこみ、そして言った。

「この記事。これの日付は2週間前だ。君はいつ読んだの?」

「その記事が出た日に」

「そういうわけで、あの服を」

「あれは婦人用の服。あなたに買った新しい下着は、男性からボイへの移行が潤滑に行われるように作られたパンティみたいね」

マークはジェニーを見つめた。何か考えごとに囚われたまま、ぼんやりとジェニーの顔を見つめていた。

「分からないけど……何もかもとても……とても変なんだ。自分が変わったのは知っている。僕も盲目じゃないから。でも、このことがどんな結果につながるか、真剣には考えてこなかった」

と彼はそこで沈黙し、そして続けた。「いや、まだダメだ。ちょっと自分で考えてみる必要があると思う。明日までには、ちゃんと気持ちを整理するよ」

ジェニーはにっこり微笑み、彼を優しく抱いた。

「あなたがどんな決断をしようとも、これからどんなふうにしたいと思おうとも、私は大丈夫よ」とジェニーは言い、そして抱擁を解いた。

「でも、その前に……」とジェニーは悪戯そうな笑みを浮かべた。「ちょっとエッチなことしたくない?」

マークは、まだ涙が頬を伝っていたものの、笑顔になった。「いつも同じこと考えてるんだね?」

「だって、あなた、すごくセクシーなんだもの。それに、昨日の夜は、私がしたかったことを全部する前に、ふたりとも疲れ切ってしまったでしょ?」

「疲れ切ったのは君だけだよ。僕にはスタミナがある」とマークは笑った。

ジェニーは夫をぐいっと抱き寄せ、ディープ・キスをした。そして、彼のシャツを脱ぐのを手伝い、上半身を裸にすると、すぐに彼の乳首に貪りついた。左右の乳首を交互に舐めたり、甘く噛んだりする。マークは、アッ、ああーんと女性のような悶え声をあげた。

ひとしきり乳首を攻めた後、ジェニーはマークのからだを押して、ベッドに仰向けにさせ、ショートパンツを脱がし、さらにはパンティも剥ぎ取るようにして脱がせた。

「脚を広げるのよ!」

ジェニーは命令口調でそう言い、マークは従順にそれに従った。ジェニーは、広げた脚の間に顔を埋め、柔らかいままの小さなペニスを口に含みながら、優しく彼のアヌスを指でいじった。それからジェニーは立ち上がり、セクシーに服を脱ぎ始めた。マークは脚を大きく広げたまま、ベッドに仰向けに横たわりジェニーを見上げていた。小さなペニスがピンと立っている。

ジェニーは全裸になると、すぐにベッドに戻り、片脚をマークの脚の下に滑り込ませた。それから、もう片脚をその上に乗せ、女陰が彼の柔らかなペニスに触れるまで股間を寄せ、ゆっくり前後に動き始めた。うふん、うふんといやらしい声を上げながら。

ジェニーが何をしてるのか、マークは知っていた。前にポルノビデオで見たことがあった。「ハサミ合わせ」とか「貝合わせ」(参考)とか呼ばれる行為だ。ジェニーは自分をレズビアンの相手のようにして愛の行為をしているということだった。

そして、その瞬間、マークは決心を固めた。自分はボイなのだ。男ではないのだ。妻は自分を女性に近い存在として見ている。その理由だけで、自分はボイなのだと自覚するのに充分な理由となった。

ふたりはそれから1時間ほど愛しあった。様々な体位で股間を擦り合わせ続け、ふたりとも幾度となく絶頂に達することができた(マークの方はアヌスを刺激された時だけではあったが)。

行為が終わり、ふたりはベッドに横たわった。この時もマークはジェニーの腕に包まれながら余韻を楽しんだ。そして彼は言った。

「ジェニー? 僕はボイだよ。もう、ごまかしても始まらない。だから、僕はこれからボイらしい振舞いをすべきなんだ。言葉も含めて」

「オーケーよ。それがあなたの望みなら」とジェニーは優しい声で言った。

「……ええ、私は私でしかないのよ」とマークは女言葉で返事した。

*

1時間後、マークとジェニーはモールにいた。その日、ふたりはショッピングをして過ごし、マークは新しい服をたくさん買った(特に目立った服というわけではない。ジーンズ、ショートパンツ、それにTシャツが大半であった)。ジェニーはスカートも買ったらと勧めた。そのスカートはミニスカートで、プリーツ風の(参考)可愛いスカートだった。マークは試着した時、恐ろしいほどからだが露出してる感じがした。

それに新しいパンティもいくつか買った。大半がビキニ・パンティだったが、ジェニーは、いずれすぐにソング・パンティ(参考)を欲しくなるんじゃないのと、数点、買うよう説得した(話しの先読みになってしまうが、彼女の言ったことは本当になるのである)。

そしてその後は靴である。マークの足は今は見るからに小さくなっている。ジェニーは、マークの足がもうこれ以上縮小しなくなった時、安手のトレーニング・シューズを買い与えていた。だが、それはマーク自身も認めていることだが、とても格好悪いものだった。そこで彼は新しくピンクのナイキ・シューズを買った。それから、ジェニーとふたりでいろいろなスタイルやタイプの靴を試着して、1時間近く過ごした。いろいろなヒール高のパンプスとかサンダルとか、さらにはパーティ用に意図されたストラップ式の可愛いハイヒールも試着してみた。ふたりに付き添った可哀想な店員は、死ぬほど駆けずりまわされたが、最終的にはふたりはハイヒールを2足ほど購入したのである。

マークに新しい衣装を買いそろえる仕事を終えた後、ふたりは家路についた。だが、ジェニーは(もちろん、彼女が運転しているのであるが)、家に帰る前に、もう一か所だけ立ち寄るところがあると言って、アダルト・ショップの駐車場に車を止めた。そこに立ち寄ることになったと知っても、マークは驚かなかった。むしろ予想していたと言ってよかった。店内に入ったふたりは、おどおどとした様子ではあったが、早速、アダルトグッズを見てまわり始めた。

「これなんかはどう?」 とジェニーは(太さが直径10センチはある)怪物のようなディルドを掲げ、笑った。マークは恥ずかしそうにクスクス笑った。

ジェニーはその後も何度か同じような冗談を繰り返し、最後に、とても細いバイブを取り上げた。

「じゃあ、これは?」

これにもマークは恥ずかしそうに頭を左右に振った。どうしてマークがこれを拒否したか、彼もジェニーも知っていた。これは小さすぎるのである。

結局、ふたりは3つの商品に落着した。ひとつは、18センチのディルド。ふたつ目は、可愛いピンク色のディルドがついたストラップオン(ジェニーに言わせると、これはリップスティック・レズビアン(参考)には完璧にお似合いのデザインらしい)。そして3つ目は、黒い基本形の双頭ディルド。これらの商品をレジにもっていく時、マークは顔を真っ赤にしていた。

家に着くとすぐに、ふたりは買い物を開け始めた。マークは早速、着替えた。(どうしても我慢できなくて)ソング・パンティを選んで履いた。その上にジーンズ。腰のすごく低いところがベルトラインになるジーンズで、お尻をとても素敵に包んでる。上は黒いタンクトップ。彼が着替え終えたちょうどその時、テレンスが家に帰ってきた。

テレンスはマークの服装を見ても驚いた様子ではなかった。

「そういうことだったのか?」

マークは頷いた。

「だったら、いいけど」

マークが決心したことを説明すると、テレンスは、職場にもたくさんのボイがいることを明かした。

「ひとりいるんだが、彼のことを君に話したのを覚えているかどうか知らないけど、ビリーという名前のボイだ。まあ、ともあれ、彼はすっかり自信をなくしてしまったんだ。男性に対処することがまったくできない。僕たちが言うことに何でもはい、はいと、言うことを聞くだけ。前は重役だったんだけどね。会社でも最も野心に溢れた男だった。でも、彼は1ヵ月前に首になったよ。だから、いろんなことを考え合わせると、マーク、君は良くやってる方だよ」

「ありがとう」 とマークは皮肉まじりに言った。

「で、夕食は何?」 とテレンスが訊いた。

「知らないわ。あなた、何を作ってくれるの?」とジェニーが答えた。3人とも大笑いした。

3人とも料理をしたくなかった(もっと言えば、3人とも料理らしい料理ができるとは言えなかった)。そこで、彼らはテイクアウトを注文した。

食事をしながら、マークは、ジェニーとのベッドの下に隠したアダルトグッズが気になって、そればかり考えていた。

時間がだらだらと過ぎ、ようやく、就寝してもおかしくない時間が来た。

「ああ、疲れた。もう寝ることにするよ」 とマークは言い、ほのめかすような表情でジェニーを見た。

「ああ、私も」とジェニーも即答。

「オーケー、オーケー! 僕にも意味は分かるよ」 とテレンスは言い、残り物を冷蔵庫に入れた。彼が振り向いた時には、ボイも彼の妻も寝室へと姿を消していた。

*

マークは目の前でゆらゆら揺れるピンク色のディルドを見つめた。彼は素裸だったし、ジェニーも同じく素裸だった(付けているストラップオンを除いて)。

マークはためらいがちに舌を出し、その先端を舐めた。ゴムの味がした。さらに何度か舐めてみた後、彼は口の中に吸いこみ、そして頭を上下に振り始めた。偽物のペニスを吸って、バカらしいと感じたが、ジェニーは喜んでいる様子だった。

「オーケー、ベイビー! 俺は準備ができたぜ」

ジェニーはかすれた声で、わざと男言葉で言った。

「四つん這いになって、突っ込まれる姿勢になれよ」

マークは言われた通りにした。

「そのセクシーな可愛いお尻を突き上げるんだ」

これも命ぜられた通りにする。すぐにジェニーの指がアナルに入れられるのを感じた。

「どうやら誰かさんは、すでにヤラレル準備ができてるようだな」

マークはさらに尻を突き上げた。早く、あのピンク色のペニスを入れてほしいと思った。だが、すぐに、それはもうちょっと待たなければならないと分かる。

ジェニーは彼のアナルや会陰部にディルドの先端を擦りつけ、彼を焦らし始めた。マークは尻を突き上げ、自ら入れてもらおうとした。だが、ジェニーはそれを見て、彼の尻頬をふざけまじりにピシャリと叩いた。

「ちょっとは我慢するんだ、このオンナ男!」

その言葉はちょっと不快だったが、そう呼ばれても反論できないのは確かだった。

そして突然、ジェニーは押し込み、マークはハッと息を飲んだ。予想してなかった突然の挿入だった。ジェニーはじれったいほどゆっくりディルドを引き始めた。マークはその1ミリ、1ミリを感じることができた。そして、ほとんど抜け出そうになったところで、ジェニーは再び突き入れた。今度は強く。彼女はこれを何度か繰り返した。そのたびに、マークは、ああん、ああんと女の子のような泣き声を上げた。

「これ、感じてるんだな? エロい淫乱女だなあ」 とジェニーは抜き差しのスピードを上げながら煽った。

マークは息も絶え絶えになりながら答えた。「もっと、もっと強くやってぇ」

「お前は俺のエロ女だな?」

「い、いやあん」

「言うんだ。お前は俺の淫乱女だと」

「私はあなたの淫乱女です!」 マークは叫んだ。意図したよりちょっと大きな声が出ていた。

するとジェニーは引き抜き、マークのからだを押して、仰向けにさせ、彼の両脚を大きく広げた。そして再び挿入し、出し入れの動きを始めた。マークの小さなペニスがピンと立っていた。

射精による終結はないので、ふたりは延々とこのような行為を続けた。その間、マークは声をあげることを堪え切れず、しょっちゅう淫らな叫び声をあげ続けた。そして、約1時間後、ジェニーが疲れ切り、行為が終わった。

仰向けになったジェニーに、マークはうっとりと満足顔ですがりつき、彼女の大きな乳房に頬を寄せて横たわった。やがてジェニーの呼吸が落ちつき始めるのを聞き、彼女がストラップオンを着けたまま眠りに落ちたのを知った。

*

翌日の夜は、ふたりは双頭ディルドを使った。これを使う時はジェニーは女性に戻る。ふたり、いくつか異なった体位を試み、楽しんだ。ふたりともアナルに入れて動いたり、ハサミ合わせの格好を試したり(これはふたりの穴の位置が異なるため、ちょっとぎこちなかった)。

だがマークのお気に入りの体位は、ジェニーがディルドを入れた上で、仰向けになり、その上にマークが乗る体位だった。これだとジェニーに大きな黒いペニスが生えたように見えるのだった。その上にマークが腰を降ろし、カウガールのように乗馬するのである。

こんな調子で、さらに2週間ほどが過ぎた。マークとジェニーは、毎晩、何か少しずつちょっと新しいことを試した。性行為の場では、ジェニーは極めて支配的な立場を取るようになっていた。マークに比べて身体が大きく、筋力もあることを利用し、マークのからだを自由に操り、自分が求める体位を彼に取らせた。とは言え、ふたり、優しく抱きあいキスをする、純粋に愛に満ちた時も数多くあった。

時が過ぎ、すぐにマークが新しい仕事を始める時が来た。というわけで、彼が仕事を開始する予定の前日、彼とジェニーはショッピングに出かけた。ジェニーは、マークには、ちょっと遊び心がある(だが、趣味の良い)スカートとふんわりした感じのブラウスを着るのがベストだと思ったし、マークも特に反論しなかった。そして、翌日、彼は黒いスカートと白いブラウスで出勤したのである。スカートは膝上10センチほどの丈で、ふわふわした感じ。ブラウスの方は胸元がちょっと開いていて、趣味の良いものだった。それに黒いハイヒール。スカートの中には、赤いソング・パンティを履いた(ちょっとだけエッチな気分を味わいたかったので)。

彼が出勤しすると、職場の人々は非常に暖かく迎え入れ、彼をオフィスへと案内した。狭いオフィスだったけど、そもそも彼は大きなスペースは必要なかった。というのも、オフィスに留まってることは滅多にないことになっていたからである。彼はすぐに仕事を与えられた。次号に向けて新しいボイ・ファッションの撮影の仕事だった。

早速、マークは市街を移動し、とある小さなスタジオに向かった。そこにはボイが何人かいて、着替えをしている最中だった。マークは自己紹介をした。そこにいたボイたちは皆、とても良い人たちだった。その後、彼は、この撮影を指揮している女性に紹介された。その人の名前はミルドレッドと言った(この人の名を知っている!)

ミルドレッドはマークの姿を上から下までじろじろ見て、言った。

「あんたモデルをする気、ない?」 彼女はヨーロッパ人ぽい訛りで言った。

マークはビックリして訊いた。「私が?」

「ええ、あんたよ、バカなボイね! あんたすごく綺麗じゃない?」

当惑したマークは、ちょっと考え込んでしまったが、とりあえず、すぐに「分かりました」と返事した。

ミルドレッドはパンパンと手を叩き、「それでよろしい。服を脱ぎなさい」と命じた。それから(顔面蒼白になってる赤毛の)別のボイに向かって、「あんた。あんたはクビ。さっさと出て行って」 と言った。そして、またマークの方を向くと、「なんで、まだ服を着てるのよ?」 と言った。

マークは慌てて服を脱ぎ始めた。その間、ミルドレッドはアシスタントのひとりに命じた。

「あんた、カメラを使えるわよね? できる? よろしい。写真を取って、それから誰かに指示して、このボイに適切な服を用意させて」

その頃にはマークは裸になっていた。ただ、パンティは履いたままだった。

「パンティもよ、ボイ」 とミルドレッドは命じた。

マークはパンティも脱いだ。何ヶ月もエアロビを続けてきて良かったと思った。誰かが、とても丈の短いスカートを持ってきた。それを履く。お尻がかろうじて隠れる程度だった。その次に、ブラウスを与えられた。これも丈が短く、おへそがやっと隠れる程度で、前はすっかり開いてるも同然のデザインだった。次に白いストッキング。太腿の真中あたりまでの長さ。最後に、ハイヒールを履いた。どう見ても、ストリッパーが履くハイヒールとしか形容できない靴だった。

「うん、いいわね。さあ、あんたは中央に。他のボイはその後ろに立って…」とミルドレッドは言った。

と、そんな調子でマークの最初の撮影が始まった(少なくとも、彼にとっては被写体となる撮影は初めてだった)。モデルは、見かけよりもハードな仕事だった。あれこれ、ポーズを取り、まさに適切な表情をしなければならない。だが、マークは天性の才能があるようだった。

撮影後、ミルドレッドは彼を隣に引き寄せ、「また是非とも一緒に仕事をしなくちゃね」 と言い、名刺を渡した。「明日の朝、電話をよこして。あなたのモデルとしての仕事について話しあいましょう」

そう言って、彼女は出て行った。マークはプロのファッション・モデルになったのである。

*

マークがモデルになった話しをテレンスとジェニーにしたら、ふたりとも大喜びしていた。予想できたことだが、テレンスは写真撮影の現場に行きたいと言った(彼は、ボイを女の子とまったく同じように思っている)。ジェニーは、自分がモデルの妻になったと興奮していた。

みんなでワインを飲んで祝った後、いつも通りに、ジェニーとマークが早めに切り上げた。

寝室のドアを閉じてすぐ、ジェニーが言った。「マーク? あなたは、とてもオープンな人よね?」

「ええ、そう思うけど。どうして?」

「ちょっと考えていたの。何と言うか、3Pしてみたら楽しいんじゃないかって」

マークはちょっと思案した。「別の女の子を混ぜると言うこと? 分からないわ」

ジェニーは眉を吊り上げて彼を見つめた。「そんなこと言ってないって分かってるでしょ?」

「分かってる」とマークは微笑んだ。

「で、どう思う?」

「分からない。それって……正直、君を他の男と一緒にしたら、自分がどんな気持ちになるか分からないもの」

「他の男?」 とジェニーは聞き返した。「他の」のところを強調して。

「ああ、いいよ。君を他の人と一緒にしたら、と言いかえるよ」

「それであなたが気持ちよくなれるならだけど、私自身、自分がどんな気持ちになるか分かっていないの。死ぬほど嫉妬心を感じるかもしれない。何と言っても、あなたにするのは私なわけなのに、その領域に別の人が割り込んでくるわけだから」

マークは後ろを向いて、お尻を軽く叩いて見せた。「ここ? ここが君の領域? うふふ」

ジェニーはマークに襲いかかり、ベッドに押し倒した。そしてキスをした後、言った。

「そうよ、その通り! そこは私のモノ……だけど、あなたがその気なら、そこを他の人と共有してもいいと思ってるわ」

マークはちょっと黙りこんだ。ジェニーは彼の乳首を何気なくいじり続けた。そして、ようやくマークは口を開いた。

「楽しめるかもしれないわ。でも、誰を?」

「まさにこの家に、できるカラダをした男が一人いるのを知ってるけど?」 とジェニーが言った。

「テレンス? 本気で? いや、それは変だわ。私と彼は、親友なんだし」

「私を信じて。彼にとっては変でも何でもないはず。彼があなたのキュートで素敵なお尻をじっと見つめているのを何回も見てきたわ。それにあなたも知ってる通り、彼はボイだろうがなんだろうが気にしていないでしょ? 私、それができそうなストレートの男性は他に知らないし。加えて、あなたが知ってる人の方が、たぶん、良い結果になると思うの」

ちょっと間をおいてマークが言った。「彼はハンサムよね?」

「ええ」 とジェニーも同意した。

「いいわ」とマークは答えた。「でも、ジェニーから頼んで。私には頼めそうにないから」

「あら、ダメよ。あなたから頼まなくちゃ。それも仕事の一部よ」 とジェニーは柔らかな笑い声をあげた。

「でも……」と言いかけ、「ああ、もう、分かったわ」と答えた。

「じゃあ、こういうふうに運んで」とジェニーが言い、説明を始めた。マークは顔を真っ赤にして聞いた。

*

その時、テレンスは寝室の中、ベッドに横になりながら、テレビでスポーツ番組を見ていた。するとドアをノックする音がし、彼はすぐに「どうぞ」と言った。

ドアが開き、そこにはマークが立っていた。全裸だった。テレンスは、マークが変身を始めてから毎日、彼の姿を見てきていたが、この瞬間まで、あまり注意して見てきたわけではなかった。確かに、ふと気がつくとマークのキュートなお尻を見つめていたことはあったが、ドアの向こうに立つマークの姿と言ったら………テレンスは言葉を失っていた。

マークの裸は完璧だと思った。身長155センチ。57キロ。ほっそりと引き締まった体。だが、あるべき場所にはちゃんと柔らかそうな肉がついていた。メークの小さなペニスすら、テレンスには可愛いと思えた。

「あのね、テレンス……?」 マークはもじもじと女の子のような声で訊いた。「ちょっと寝室で手伝ってほしいことがあるんだけど、お願いできないかしら?」

「あ、ああ、いいよ。どんなこと?」

「あの……私たち… ああ、何て言ったらいいか…… んもう! おちんちんが必要なの。この家では男はあなただけだし……」 マークはためらいがちに言った。そんな恥ずかしそうに言う仕草もテレンスにはキュートに見えた。「だから…何と言うか…」

「オーケー」 とテレンスは先を言おうとするマークを遮った。

マークは興奮を隠しきれず、パッと明るい笑顔になった。テレンスはベッドから立ち上がり、マークは彼の大きな手を握って引いた。マークに導かれて別の寝室へと向かいながら、テレンスはマークの素晴らしいお尻から目を離すことができなかった。

寝室に入ると、そこには素裸のジェニーがいた。大きな乳房が自慢げに胸から盛り上がっている。

「私たちのオトコが来たようね」

ジェニーはそう言って微笑み、テレンスの元に近づいた。そうしてマークに目配せをし、マークはそれを見て頷いた。そして、ふたりは床にひざまずいた。

マークが手を伸ばし、細い指でテレンスのスウェットパンツを降ろした。トランクスが現れ、次に、すでに固くなった20センチのペニスが現れた。最初はジェニーからだった。ロリポップのように舐めはじめる。そのすぐ後に、マークも顔を寄せ、テレンスの睾丸にキスをし、舐めはじめた。

マークはゆっくりと肉茎を舐め上げていき、その間、ジェニーは亀頭を舌で舐めまわした。ふたりともテレンスを見上げた。マークは大きな茶色の目で、ジェニーは青い目で。ふたりは何分かそうやってテレンスを焦らし続けた後、ジェニーが彼の亀頭を口の中に入れた。そして、頭を上下に振って、本格的に吸茎を始めた。マークは睾丸のお世話を続けた。

しばらくして、ふたりは交替した。マークはゆっくりとテレンスのペニスを口の中に入れていき、その味を堪能した。できる限り口の中に入れた後、ゆっくりと吸いながら、出していく。出し入れを続けながら、できる限り舌を使い続けた。

そうしていると、ジェニーがマークの後ろに回ってアナルを舌で探るのを感じた。マークはテレンスのペニスを咥えたまま、よがり声をあげた。だが、その声はくぐもって、「んんんん……」という声にしかならなかった。

するとマークは背後からジェニーが言うのを聞いた。最近のふたりの行為ではいつもそうであるように、この時もジェニーは男言葉を使った。

「お前は、そのおちんちんが好きなんだ。そうだろ、淫乱?」 

「んんんっ!」 マークの返事はそれだけだったが、その意味は、ジェニーにもテレンスにも明瞭だった。

その後、再びマークとジェニーは位置を変え、ジェニーが吸茎をした。そして2分ほど続けた後、ジェニーは立ち上がり、テレンスの手を引いて、ベッドに仰向けになるよう導いた。マークはそのテレンスのからだの上にまたがった。

「優しくしてね。彼、バージンだから」 とジェニーが言った。

マークはゆっくりと腰を沈め、自分からテレンスのペニスを中に入れ始めた。ゴムのディルドよりはるかに気持ち良いものだった。いったん、根元までアナルに入れた後、マークはじっと腰かけたままでいる状態になった。そして、その後、おもむろに少しずつからだをくねらせ始めた。テレンスを焦らすような腰の動き。テレンスは低いバリトンの声でうめき声をあげた。

その後、ジェニーもベッドに上がり、マークと向き合う姿勢でテレンスにまたがり、股間を彼の顔へと降ろした。マークとジェニーは見つめあい、やがてマークは腰を上下に振り始めた。

「お前は、そのおちんちんが好きなんだ。そうだろ、淫乱?」 とジェニーは同じ質問を繰り返した。

「あ、そこ……うぅぅぅ。そこよっ!」

「お、お前は、黒ちんぽが好きなんだろ?」

「ああッ、いい……!」

「可愛い淫乱女のように、淫らに動いて、そのおちんちんを喰らうんだ!」

ジェニーはテレンスには女の声で、マークにはわざと乱暴そうな男言葉で話し続けた。

マークはと言うと、激しく動き続け、叫ぶだけ。

「いいッ! 感じるわ! ああ、いい! もっとちょうだい!」

それから間もなく、テレンスは射精をした。マークはアナルの奥に噴射されるのを感じた。とても気持ちいいと思った。

射精が終わり、マークはテレンスのからだから這い降りた。そして、テレンスが回復するのを待ちながら、彼のペニスと睾丸を愛しそうに舐めた。

すぐにテレンスは勃起を取り戻し、今度はジェニーが彼の勃起の上にまたがった。マークはジェニーに背を向けた形でテレンスにまたがり、その小さなペニスと睾丸をテレンスの口に入れた。

ジェニーはからだを上下させながら、目の前のマークの尻頬を何度か平手打ちし、「その調子だぜ、淫乱!」と叫んだ。

テレンスに口唇愛撫されるのは気持ち良かったけれど、マークはまたあそこに入れてほしくてたまらなかった。

テレンスが再び射精した。マークとジェニーは彼が回復するまで、ふたりで楽しみあった。ジェニーが仰向けになり、その上にマークが逆向きに覆いかぶさって、69の形になり、互いに口と唇で愛撫しあった。

やがてテレンスが再び準備完了になった。彼はジェニーに覆いかぶさっているマークの後ろにまたがり、その物欲しそうなアナルに突き入れた。

マークはジェニーの股間を舐め続けたが、太い男根でアナルを犯され、何度も淫らな叫び声をあげた。彼はできる限りの努力を続けてジェニーに口唇愛撫を続けたが、その仕事ぶりはあまり良いとは言えなかった。それでも、ジェニーはマークの小さなペニスを吸い続け、やがて、マークの甘い体液が彼女の喉を下った(男性の塩味のするザーメンに比べ、ボイの精液は甘い味がするのである)。

その夜、3人は、そんな調子で夜遅くまで性行為を続けた。マークとジェニーは変わり番こにテレンスのからだを使って絶頂を味わった。行為が終わり、マークはテレンスの隣に横たわり、彼の逞しい胸板に頭を乗せて眠りについた。その反対側にはジェニーが横たわり、同じような姿で眠っていた。

*

その日から、事態が変わった。3人が一緒に寝ることが多くなった。普通のボイと女性の関係と同じく、ジェニーとマークがセックスすることはなくなった。ジェニーもマークもテレンスをまじえて行為する。どちらも単独でテレンスとセックスすることはなかった。この家では、セックスと言えば、3人で行う行為となっていた。

時が過ぎ、マークはますますモデルとして人気を博すようになっていた。(まだ)スーパーモデルとはなっていなかったが、それに近い存在となっており、スーパーモデルと言えるかどうかなど、ほとんど気にならない状態になっていた。

初めての3Pをしてから1年後、マークとジェニーの婚姻関係は無効であると宣言された。これは政府による措置である。驚愕すべき数の離婚訴訟が裁判所に持ち込まれたことから、緊急的に(しかし必要なこととして)政府が宣言したのである。アメリカ政府は、ボイと女性からなるカップルは婚姻関係にあってはならないが、法の下では婚姻関係にあるカップルと同じ権利を有するものとすると宣言した。

婚姻関係の拘束が解かれるとすぐに、ジェニーは家から離れがちになった。元々、彼女は相手を他と共有するのを好むタイプではなかったのである。ジェニーがすっかり家から離れるようになると、それに比例して、テレンスとマークの仲は親密になっていった。マークとテレンスは、彼女が家を出たことをひどく悲しんだ。彼女は、彼らの生活で大きな部分を占めていたのだから。だが、ふたりとも彼女を責めることはなかった。ジェニーも自分だけの男を必要としていたのだ。

2年後、テレンスはプロポーズし、マークは受諾した。その6か月後、マークは教会の入場口に立っていた。音楽と共に式場の扉が開いた。

*

妻。マークは自分が妻になるとは思ってもみなかった。どんな突飛な想像をしても、これだけは想像したことがなかった。彼は新婚旅行で空港に向かうリムジンの中、隣に座る夫の顔をちらりと見た。

式は問題なく終わった。ジェニーは花嫁の付き添いをしてくれて、ふたりを祝福してくれた。マークの両親は、おそろいのドレスを着ていた(とてもキュートな服!)。愛、尊敬、服従……マークはハンサムな夫を見つめながら、そんなことを思った。彼となら、そんなに難しいことではないと。

*

ファースト・クラスの座席、新婚夫婦は並んで座っていた。マークはボイの最新ファッションに身を包んでいた。とても薄地のトップで、彼の大きな乳首が強調されて見える。下はタイトなジーンズで、靴はハイヒールのブーツ。

彼の手がさまようようにして隣に座るテレンスの股間に触れた。そして優しく上下に擦り始める。

「今はダメだよ」 とテレンスが囁いた。

「ちょっといいこと思いついたの」とマークが小声で返事した。「1分くらいしたら私の後について来て」

そう言ってマークは座席を立ち、狭い通路を歩き、トイレに入った。テレンスはにんまりし、少しした後、マークの後を追った。

テレンスがトイレのドアをノックすると、ドアはすぐに開き、中からマークの細い腕が伸びてきて、テレンスを中に引きこんだ。マークはすでにジーンズとパンティを脱いでいた(脱いだものはカウンターの上に乗っていた)。

マークは手を降ろし、ズボンの上からテレンスのペニスを擦り始めた。それは、触る前からすでに勃起していた。

「あら、私の主人は、もう興奮していたみたいね?」とマークは冗談まじりに言った。

テレンスは笑いながら、「俺の妻も興奮してるみたいだが?」と言い、マークの乳首を2本指で挟んだ。そしてマークを後ろ向きにさせ、自分もズボンを降ろした。

いつもながらにマークのお尻は完璧で、誘うように揺れている。だが、テレンスはその誘惑に簡単に落ちるつもりはなかった。黒いペニスで自分の妻の丸いお尻を撫でつけ、その後、割れ目にあてがった。マークはお尻を突き出して、求めた。

「何が欲しいんだ?」 テレンスはマークの耳に囁きかけた。

「ああん、あなたの大きな黒いおちんちんが欲しいの」 

「誰の大きな黒いちんぽが欲しいって?」

「私の主人の! 主人の大きくて黒いおちんちんが欲しいの!」 マークは、なおもお尻を突き出し続け、そうおねだりした。

ようやくテレンスはマークに挿入した。テンポの短い素早い突きを繰り返し、抽迭する。マークは、ああん、ああんとよがり声は上げたが、叫び声は出さないよう、堪えた。ふたりは、ほぼ同時に絶頂に達した。

*

2分ほど後、テレンスはシャツを整えながらトイレを出た。その1分後、マークもトイレから出た。すがすがしそうに可愛い笑顔になっていた。その飛行機に乗っていた乗客の半分は、彼のよがり声を聞いていた。マークは、どうも、いくら注意されても、声を出さずにいることができないのだ。

飛行機は着陸し、ふたりはバミューダ諸島で、喜びに満ちたハネムーンを楽しんだ。マークは毎日、新しいビキニを着た。大半はボイ・スタイルのビキニであり、乳首がやっと隠れる程度のビキニだった。とは言え、ふたりが屋外で過ごした時間はほとんどなかったと言ってよい。ハネムーンの間、ふたりはほとんどホテルの部屋に閉じこもり、誰に気を使うでもなく、激しいセックスをして、愛を確かめ続けたのだった。

楽しいハネムーンもあっという間に終わってしまい、夫婦は地元に戻り、普通の生活に戻った。テレンスは社内でメキメキ業績を上げ、会社のスーパースター的な存在になっていったし、マークもモデルとして相当の評価を獲得し続けた。

ふたりが結婚して間もなく、ボイに対する「治療法」が発見された。その治療を受けたボイは多い。だが、そのようなボイとほぼ同数のボイたちは、ボイとしての生活を簡単に捨てきれず、ボイであることを続ける選択肢を選んだ。その結果、社会には、ボイたちが別個のグループとして残り続けることになった。

しかし、治療を受け男性に戻った者たちには、ボイであったときの生活習慣を抑制することに苦労した者たちが多い。一方、非常に女性的であることを誇りにもち、街を闊歩するボイたちも多かった。ボイから男性に戻った者たちのうち、10パーセントに達するほどの人たちが、男性に戻る決心をしたことを後悔していると言われている。だが、いったん治療を受け、男性に戻ると、ボイに戻ることはできないのであった(実際に、それを試みた者が多数に登る)。

テレンスとマークに関して言えば、ありきたりなフレーズではあるが、その後ふたりは幸せに暮らしましたとさ。


おわり
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