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A dark time 「暗い時代」

チアリーダー。このただの単語を見るだけで、心にとても特定的なイメージが浮かんでくるんじゃない? 小さなカラダ。セクシーな衣装。長いブロンドの髪。愛らしい顔。この言葉を聞くと、みんな誰でも、元気はつらつでチーム・スピリット満々の素敵な男の子たちを想像する。でも、そう遠くない昔には、男性のチアリーダーなんてほとんど考えられないことだったと言ったら、ましてや、この子のように、肌を露出した衣装を着る男性チアリーダなんて考えられない存在だったと言ったら、皆さん、何て言うかしら? バカバカしいことのように聞こえるかもしれないわね。でも、それは本当のことだったの。

みんな知ってる通り、かつては、フットボールのフィールドは、今でもそうだけど、ケダモノたちの場所と言えた、強靭な筋肉ムキムキの体の大きな男たちの場所。そんな体が大きすぎる男子たちのことを、高校のクラスの誰もがバカにして、からかってるんじゃない? でも、そういう男子が、まさにその体の大きさや運動能力のおかげで、みんなに崇め奉られていた時代があったの。それに、その時代は、小さな体のくせに過剰に胸が大きい女子も、当時の、女性らしさと美しさについての間違った考えのおかげで、ひたすら崇め奉られていた時代でもあった。あたしたちの基準からすれば、後進的な時代だったわけだけど、だからと言って、そんな時代はなかったというわけではないわ。

それで、何が起きたか? どんなふうに、当時の考え方が変わったのか? 21世紀の初頭は、自動化はまだ生まれたばかりだったけれど、すぐに、それは急速に拡大して、あたしたちが現在知ってるような機械的な労働力へと成長していった。肉体労働の仕事は消滅し、何百万人も職場から追い払われた。このため、多くの所帯において、その追い払われた男たちの妻たちが、所得を稼ぐ主要な存在になったわけ。その時点ですでに、女性の方が何年も前から高等教育の世界では男性より優れた成績を収めるようになっていたから。そして、これも、誰でも知ってるように、誰であれおカネを稼ぐ人間がルールを決めるもの。すぐに、ほとんどすべての権力を持つ地位に就く女性の方が、男性より多くなった。そして、そのような支配関係を女性たちも好んだ。

21世紀も中期に差し掛かると、投票権は、支払った税金に基づいて付与されるため、男性の投票権はほぼ完全にはく奪されていた。ごくわずかの例外を除いて、男性たちは、妻やガールフレンドに完全に依存するようになり、社会全体も、それに応じて変化した。大きく強靭な肉体に対しての価値はますます減少していき、それに置き換わるようにして、家族やパートナーをいたわり、世話をする能力をはぐくむ要請が強調されるようになっていった。さらに、どんな人間関係でもそうであるように、従属的な立場にいるものの常として、彼らは、できるだけ魅力的な外見を持つことを期待されるようになっていた。

と言うわけで、その後、一連の出来事が続いて、あたしたちの今の世界に至ったと考えるのは、そんなに難しいことじゃないわよね。ほぼ100年の時間の流れの中で、男性たちは今の役割に落ち着いたと。これ以上、幸福感に満ちた世界はありえないほど、幸せな世界になったと。

だけど、あたしたちの社会にも、今の記録的な犯罪率の低さや、前例のない世界平和や、豊かな経済活動を捨て、代わりに、かつての古臭い時代に後退しようと思う人たちもいるの。彼らは、「男性は下に押さえつけ続けよ」と命ずる法律を撤廃したがっている。彼らは「平等」を求めている。だから、いざという時が来たら……多分来ると思うけど……その時には、こんなに良い時代ばかりじゃなかったということを思い出すこと。男性が支配していた時代は、世界が破滅に瀕していたということを思い出すこと。それを何とか直したのは、あたしたちなのだ、と。あんな暗い時代に戻るわけがないじゃないの! なんて思い込むのは、バカげたことよ。




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