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Closure 「決着」

「私の可愛いエロ娘は、今夜はどんな調子かな?」 

ご主人様が部屋に入ってきた。あたしは四つん這いになって脚を広げ、欲しくて疼いていると言わんばかりにお尻を突き上げる。わずかな布地のランジェリー姿で、女体化した裸体を隠そうともしていない。もちろん、そこが重要な点。彼はあたしがそんなふうになってるのを見るのが好きなのだ。そして、正直に言えば、あたしもこういう格好をするのが好き。

「ご主人様が帰ってきてくださったので、すぐに元気になりました」とあたしは猫なで声で言う。「今夜、あたしのアナルを犯していただけますか? それともまずは、あたしのお口をお使いになりますか?」

「まずは口の方がいいかな」と彼はあたしの前に立ちはだかった。「だが、その前に、今日はちょっとしたサプライズがあるのだよ」

「どんなサプライズ?」と訊こうとしたとき、聞き覚えがある声が聞こえた。つぶやき声で。「ああ、何てこと。ボブ? 本当にボブなの?」

ボブ。その名前を聞いた瞬間、心が凍り、背筋に寒気が走った。もう1年以上聞いていない名前。こんなに早く、その名前を再び耳にするとは……。

ボブという言葉を聞いて、昔を思い出した。そんなに遠い昔ではない昔。あたしがランジェリー姿でご主人様の気を惹こうと猫なで声をあげるようになる前のこと。あたしが捨てた生活と妻のことを思い出す。そして、何より、自分がこんなふうになるとは全然思っていなかった当時のことを思い出す。

声に驚き振り返った。あたしが捨てた妻のフィオナがいた。彼女はどうみても美人ではないし、失踪した夫のことを1年以上にもわたり心配し続けたせいか、その影響が容姿にも現れていた。記憶にあるよりも少し太ったようだし、かなりやつれているようにも見えた。彼女を見た瞬間、今の自分の方がずっと綺麗だろうなと思った。そう気づくと、誇らしい気持ちが出て、胸の内が熱くなった。

もちろん、フィオナが最後にあたしを見てから、あたしはずいぶん変わった。ただの女体化小説と動画の愛好者だった自分。それが、次第に抑えが効かなくなっていき、生活と妻を捨て、ホルモンに走り、自分もああなりたいとあれほど切に願いあこがれた性奴隷として扱ってくれるご主人様を見つけ、その人に飼われるまでになっている。当然の報いなのか、かつては自分が淫らな欲望を抱く対象だったはずのトランスジェンダー女性に、自分自身がなっている。もうかつての自分の面影はほとんどない。それは自覚しているし、そう思うと、どこか落ち着いた気持ちになる。

「そうだよ、ボブだよ」とご主人様があたしの代わりに返事した。「あなたも、夫だった男がどんな姿になっているか、見てみたいのじゃないかと思ってね」

「ど、どうして?」

「あなたに見せることで、彼女が屈辱を感じるからだよ。表面的な屈辱だけではない。多分、今夜、檻の中、横になりながら、彼女は自分が何を捨ててきたか考えるんじゃないのかな? かつての男だったころの自分を思い出す。そして、大変なものを捨ててしまったのだと、心の奥から、煮えたぎるような後悔と恥を感じるんじゃないのかな?」

「じゃ、じゃあ、あなたは私を性的な遊びの小道具として利用したの!?」 とフィオナは言った。「私は……あ、あなたは、夫を見つけるのを手伝ってくれると言ったのに。夫に会わせて、ちゃんとケジメをつけられるようにすると言ったのに!」

「だから、そうしたでしょう? あなたのご主人を見つけてあげたし、けじめもつけられるのでは? 見れば分かる通り、もう、あなたの夫はどこにもいませんよ。そうでしょう? もう元には戻れない。だから、あなたは過去を忘れて前に進むことができるんです、ようやくね」

「私、ど、どう……どう考えていいか分からない」

「悲しいことだけど、それはあなたご自身で考えてください」 そう言ってご主人様はズボンのチャックを下ろし始めた。「元のご主人が性奴隷のように体を使われるところを見たいと言うのなら、話は別ですが。まあ、私にはどちらでも構わないですが」

フィオナは、これほど素早く出ていくことはできないだろうと思えるほど、素早くその場から立ち去った。玄関ドアが乱暴に閉められる音がした。その音はあたしの昔の生活に対する、真の終結を告げる音だった。そして、あたしは、ご主人様の元へ這い寄りながら……彼のペニスを見て口に涎れがたまってくるのを感じながら……今ほど幸せな時はないと思うのだった。




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