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A different perspective 「別の観点」

「最後の日よね? 名残惜しくなりそう?」

「なんだって? そんなわけないよ。このセメスターは悪夢だったんだ! ようやく終わって、普通に戻れるので、すごく喜んでるよ」

「悪夢? そうは見えなかったけど? ていうか、あなた、ある意味、楽しんでいたように見えたけどなあ?」

「マジで? だったらボクは、思っていたより演技が上手いらしい」

「そうかも」

「それ、どういう意味? まるで、ボクが女物の服を着たり、お化粧をしたり、髪の毛を延ばしたりするのを喜んでいたと本気で思ってるような口ぶりじゃないか? この2か月間、ボクがこのヒドイ状況をできるだけ良くしようと頑張ったからと言って、ボクがこの状況を喜んでいたということにはならないよ、カレン」

「この授業に登録したのは、あなた自身よね? あなた自身が選んだことじゃない?」

「だって、卒業のための必須科目だもん。この授業を取るか、サンチェス博士の研究室のマウスにされるかのどっちかだったんだ。君もヘンリーがどうなったか見ただろう? ヘンリーは、いまだに、テディ・ベアを見ると痙攣を起こしてる。アレはごめんだよ。女性学の方がはるかに良い選択だったんだ」

「モノは言いようね」

「本気で言ってるよ。誰か男が、ボクのことを本物の女だと思って言い寄ってきて、そいつの相手をしなければいけないとかさ、パンティの替えがなくて裸でいなくちゃいけないとかさ、そんなんだったら、ボクは喜んで死ぬよ。でも、あのフリードリンクはありがたかったとは思ってるよ。それに、服も、いくつか気に入ってるのもあるんだ。分かるよね? 男物よりずっとカラフルだから」

「それに、あたしとふたりでするベッドでのお楽しみもあるから、でしょ?」

「うっ……まあ……それも多分」

「ああ、もうやめて。あなたは、あたしの彼氏だった時より、あたしの彼女でいるときの方が、ずっと楽しそうだわ。そうじゃない? 自分でも分かってるんでしょ。その点はごまかせないわよ」

「ああ、楽しんでるよ。これでいいんだろ? 嘘はつかないよ」

「その点よ。ちゃんと認めて、ライリー。あなたは、今後、女の子になっている今の時の方が良かったなあと思うようになるわ。多分、いつも懐かしむというわけじゃないだろうけど、そう思う時が絶対にあるはず……」

「分かったよ。そうだよ。その通りだよ。別の観点から人生を見ることができて楽しかった。言ったよ。これでいいんだろ? 幸せ?」

「いつも幸せよ。でも、ちょっといい? 授業が終わるからと言って、これをやめなくちゃいけない? そんなことないんじゃない? これ、あたしとあなたの間で、これからもお楽しみとして続けることもできるんじゃないかなあ? 週末だけとか、ふたりで旅行に出た時だけとか……」

「どうかなあ……」

「今すぐ決めてと言ってるわけじゃないわ。ただ、ひとつの選択肢として言ってだけ。可能性を言っただけ。でも、もし、あなたもする気があるなら、あたし嬉しいわ。気が向かないと言うなら、それも構わない。あたしは、あなたがどうしようとも、それに付き合うつもりでいるから」

「ありがとう。本当に」

「あたしって最高じゃない?」

「ああ、本当に君は最高だよ、カレン。本当に、本当に」




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