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The right direction 「正しい方向」
「でも、これはどう見てもおっぱいだよ、バネッサ。本物のおっぱいだ。こんなボクを見て、どうして、何でもないなんて思えるのか分からないよ。病院に行くか何かしなくちゃいけない」
「ほんと? あたしには、あなたが素敵に見えるけど?」
「いつも、キミはそういう!」
「だって本当なんだもの。あなた、本当に素敵だわ」
「で、でも、ボクに髪を伸ばさせたときも、キミは同じことを言ったよね? それに、お化粧をするようにさせた時も。それに……」
「そんなにイヤなことなの? あたしはあなたのことを愛しているし、あなたはキレイだと思ってるわ。たいていの人なら、ガールフレンドがそう思ってくれてると知ったら、喜ぶはずなのに」
「ああ、でも、ボクの友だちは、しょっちゅう、ボクが女の子みたいだって言うんだよ。それに、あの服。あれも婦人服売り場で売ってる服だよ。ボクはちゃんとチェックしたんだからね!」
「だから? なに言ったって、いま、ファッションは両性具有的な方向に進んでるの。いろんな人がいるけど、なんだかんだ言ったって、あなたがファッション雑誌をどんだけ読んでるかを見たら、あなた自身がそれを一番よく知ってるんじゃない?」
「それも、キミがボクに読ませてるんだろ?」
「命令じゃないわ、提案よ。それに、あなた自身、楽しそうに読んでるみたいじゃない?」
「でも、このボクのおっぱいは? これ、日増しにどんどん大きくなってるんだけど」
「そうね。どうやら、それを支える下着を用意しなくちゃいけないみたい」
「た、例えば……ブラジャーみたいなのとか?」
「みたいな、とかじゃなくって、はっきり言ってブラよ。ブラジャーがあなたのそれには必要だわ。どう抗っても構わないけど、それ、垂れ下がってきたらイヤでしょ? それに、その胸の可愛い谷間、それホント、素敵だわ」
「ぼ、ボクはよく分からないけど……」
「ほんとは分かってるでしょ? いいからあたしを信じて。あたしには、どうするのが一番いいか分かってるの。これまで、あたし、あなたを酷い方向に導いてきた?」
「いや、多分、そうじゃないと……」
「でしょ? じゃあ、話しはこれでお終い!」
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