692 | 694
Willing slavery 「進んで奴隷になる」
「ああん、そこ、そこ!」 ローラが悩ましい声を上げた。「どんどん上手になってくるわね」
ボクは返事をしなかった。この行為を中断することになるから。そんなことは、許されないことだろう。それはずいぶん前に学んでいて、繰り返し教え込まれる必要はなかった。とは言え、彼女のお尻に舌を這わせながら、ボクの心は迷い始める。
ボクと彼女が付き合い始めた頃だったら、ローラはボクの奉仕に応えてくれただろうと思う。彼女の口唇愛撫は、今のボクのそれと同じく、とても巧みだった。でも、今は、その頃の快感はほとんど覚えていない。彼女は、もう何ヶ月も、肉体的な快感をひとかけらすらボクに与えてくれていない。そんなことは重要じゃないの、とローラは言う。彼女に奉仕することで充分な快感を得るはずだと言う。その行為で満足するはずだと。
そして、確かに、たいてい、ボクはそれで満足してしまうのだった。その事実が悔しいし、今のような姿になってしまった自分にも腹立たしい。でも、他にどんな選択肢があっただろう? もしローラが求めることをしなかったら、彼女はボクを捨てていた。ボクにはそれに耐えられる力がない。この前、彼女がボクの元から去ったとき、ボクはほとんど死にそうな気分になった。もちろん、ローラはそれを知っている。知ってて、そのことを使って、ボクを操っている。
でも、ローラは決してそのことをあからさまに口に出したりはしない。それほどの悪女ではないのだ。でも、もしボクがしなかったら、彼女が望むことをしてあげなかったら、彼女はボクを捨てて出て行くだろう。彼女に捨てられたら、ボクの世界は崩壊してしまう。食事もできなくなるし、眠ることもできなくなる。目が覚めている時は、ずっとめそめそ泣き続けるだろうし、眠っている時は彼女の夢ばかり見ることになるだろう。ほとんど、彼女がまだそばにいると勘違いするほど、毎晩、夢を見ることになるだろう。そして、挙句の果てには、発狂しそうになるのだ。ボクは彼女なしには生きていけない。端的に言って、そういうことなのだ。
だから、ボクは彼女が求めることをしてあげる。男らしさといえることも、誇りも、すべてあきらめた。動物のように四つん這いになって、彼女や彼女の友だちに奉仕し続ける。その間ずっと、彼女たちは、ボクが存在していないかのように、ボクのことについておしゃべりを続ける。それに、彼女たちが話すことと言ったら……かつて、彼女たちは、ボクのことをシシーの奴隷と言ったら傷つくかもしれないわねと言ってたけど、今は、まさにその通りになっている。
でも、毎朝、目が覚め、ローラの顔を見ると、彼女がボクを見下ろして、優しく微笑むのを見るたび、彼女がちょっとだけボクのことを誉めてくれたりするたび、こういう生活をしてきてよかったと感じてしまう。失ったものなんか気にならなくなる。彼女を喜ばすことしか、頭になくなってしまう。ボクは、彼女を喜ばすことだけに喜びを見出す奴隷なのだ。これしかボクの生きていく道はないと思うのだ。
List