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A start 「始まり」

「その調子! 練習すれば、いずれ完璧になるわ!」

「彼、あなたのことを憎んでるような顔をしてるわよ」

「あら、その通りね。でも、もちろん、あんな顔したって、何も変わらないけどね。それとも、なに? あなた、あたしが迷ってるシシーを手なずける能力がないとでも思ってるの?」

「いや、違う。違う。もちろん、そうじゃないわよ。ちょっとふざけて言っただけ」

「これは冗談にできることじゃないの。あたしたち、もうすぐ、このシシーを世界に放つのよ。とうとう、あたしたちの計画が実現するの。そうすれば、あたしたちは、正当な立場に立てるの。世界がちゃんと正されることになるの」

「本気で信じてるのね? たったひとりの男で……男というか……」

「男じゃないわ。シシー。彼が以前にスーツを着て威張って歩いてたかどうかなんて、関係ないの。男たちなんて、本当は、全員、シシーなの。まだそれを大半が自覚していないだけ」

「え、ええ……でも、たったひとりのシシーが? 彼が影響力のある人だというのは知ってるわ。影響力のある人だったというべきかも。でも、本当に彼にはそれだけのインパクトがあると思う?」

「疑問に思うのは当然だわね。でも、あたし、あなたのことを買いかぶっていたみたい。本当にそう思うわ。でも、そんなことはどうでもいいの。彼は、もうすぐ、世の中に発表される。そうなったら、彼は男らしさというものを地面にひざまずかせるでしょうね。彼は、男たち全員に、本当は自分たちがどんな存在なのかを、しっかり見せつけることになるんだから」

「でも、どうやって?」

「彼は、王冠こそ被っていなかったけれど、キングだった。偽りの男らしさの輝くシンボルだった。男たちは、みな、彼を尊敬していた。みんな、彼のようになりたいと思っていた。みんな彼に従っていた。そんな男たちが、今の彼の姿を見たら、直ちに彼の真似をする者が出てくるわ。しばらくは抵抗する者も出てくるだろうけど、でも、最後には、そういう男たちの仮面も剥がれ、みんな、正体を露わにするでしょう。それは避けられない道なのよ」

「あなたの自信、あやかりたいものね」

「まあね。でも、あなたが悪いわけじゃないわ。あなたは、心を、間違った男尊女卑の観念に汚されて育ったのだもの。感染していたんだもの。その治療が始まったところなの。まだ始まったばかり。これが始まりなの。そう、始まり」










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