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Deporation 「国外追放」

「あ、ありがたい」 裸を隠せたらいいのにと思いながら返事した。でも、それ以上に、英語を話せたらいいのにと思っている。でも、条件付けはあまりに強力で、私の口からはスペイン語しか出てこなかった。たった1年前まではまったく習ったこともない言語であるのに、今はネイティブのメキシコ人のように話している。「見つけてもらえるとは思ってなかった」

私と同じ移民関税執行局検査官のひとりが、私の体をじろじろ見て言った。「ロブ、この女、何て言ったんだ? 俺のスペイン語はちょっと錆びついてるんで」

私を救出してくれた、もうひとりの検査官がにやりと笑って答えた。「それは、お前がスペイン語をめったに使わないからだよ。お前はただ見回るだけで、書類仕事は全部俺に押し付けるだけだもんな。彼女は、見つけてくれたことにありがとうって言ったんだ。どういう意味でありがたいのか分からんが」

「そいつは新しいな。普通だと、最大の憎悪を向けてくるか、恐怖におののくか、あるいは、『La Migra(移民局官)』と叫んでゴキブリのように一目散に逃げるかだからな」

「私はアメリカ国籍をもっている。当然、正規な扱いを……」

「だが、こういうシーメールは、ますます巧妙化してきてるよ」と、スペイン語が分からない方の、太った検査官が言った。「アレがなかったら、俺には女としか思わなかったぜ」

彼は笑いながら私の脚の間を指さした。私は自分が彼らと同じ検査官であり、誘拐され、意思に反して体を変えられてしまったのだと伝えようとしたが、彼は聞こうともしなかった。もうひとりの、スペイン語が分かる検査官は、ニヤニヤして話を聞いていた。

「バカな話しはもうやめるんだ」と、痩せた方の検査官は私の上腕をつかんだ。「俺たちは、お前の泣き言を一応全部聞いたからな。だが、そんな話、俺たちにはどうでもいいんだ。お前はメキシコに戻る。それだけだ」

「でも、私はアメリカ人だ!」と叫んだ。

「関係ない。お前は今夜国境行きのバスに乗る」

私はようやく、彼を説得するチャンスがないことを悟った。彼ばかりか他の誰をも説得できないだろう。身分証はない。カネもない。自分が誰であるかを示す証拠はどこにもないのだ。その証拠がなければ、どうしようもないのだ。






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