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A sweet deal 「甘美な取引」

「これは大きな誤解にすぎないよ。キミがどうして理解してくれないか分からない……」

「誤解? コーリー、本気で言ってるのか? これが何で誤解になるって?」

「前にも言ったよ。あの写真は別に……」

「それは分かってる。俺が聞きたいのは、こうなった流れだよ。お前がさっき言ったこと、そのものだよ? だからお願いだ、説明くれ。だって、俺が見てるのは、俺の親友が……自分はゲイでもトランジェンダーでもないと誓っている俺の親友が、どっかの男と裸でキスしている写真だけなんだ。お前が髪を長くしたりとかいろいろしたりするだけでも、うんざりなのに、これだぜ? いったい、俺がどこを誤解してるって言うんだ? 説明してくれ」

「ああ。単純なことだよ。始まりはヘザーだった……」

「ヘザー? お前を捨てたヘザー?」

「別にヘザーはボクを捨てたりしてないよ! それはこれまで100回は言ってきたよね? 彼女はシアトルに引っ越さなくちゃいけなかったし、ボクに彼女をここに留めておくだけの経済力がなかったということだけ。でも、ボクたち大丈夫なんだよ。ちゃんと長距離恋愛を続けているし」

「彼女の最近のSNSによると、そうじゃなさそうだけどね。彼女と最後に話し合ったのは、いつなんだ?」

「半年前だよ。でも、そんなの全然問題じゃないよ。ボクたちいまもつながっているんだ。キミがなんて言おうと、ボクの信念は変わらないからね。とにかく、そんなこと、あの写真に写ってることとは何の関係もないよ。だから、説明させてくれるといいんだけど……」

「分かった。黙って聞こう」

「やっとね。まず、これは、ヘザーがとても良い話を見つけてきたのが始まり。彼女の知り合いの男性から、ひと部屋を貸してもらうという話。その家賃はボクたちの予算に収まるし、住む家が必要だったしで、ボクたち、この話に飛びついたんだ。で、これは素晴らしい話だったよ。その家はとても大きくて、同居することになった男の人もすごくいい人だった。だけど、ちょうどその時、ボクは失業してしまって、家賃を払えなくなってしまったんだ。で……まあ、何というか……ヘザーは彼と取引をしたんだ。つまり……分かると思うけど……家賃として、彼女が彼とナニをするって取引。ボクは気に入らなかったけど、でも、何ていうか、ボクたち他に選択肢がなかったんだ。ボクが新しい就職先を見つけるまでだから、仕方ないかって」

「お前、どっかの金持ち野郎に自分のガールフレンドをヤラせたのか? おい、コーリー、お前たちが住む所くらい、俺が何とかできたのに」

「いや、そういう感じのことじゃないよ。セックスはしてない。ヘザーから何万回となく聞いているんだ。彼はただ寂しかっただけで、ふたりはセックスなしで抱き合ってるだけ。ヘザーは彼の寝室で添い寝してるだけ」

「お前なあ……」

「まあ、しばらくはそれでオーケーだったよ。まあ、ヘザーは以前ほどはボクに愛情を注がなくなってしまったけど、別に愛情が消えたわけじゃなかったし。愛情たっぷりって程じゃなくなったってだけだし。まあ、女の人って、無職になった負け犬の男なんか好きじゃなくなるものだろ? でも、ボクはすごく頑張ったんだ。ヘザーもボクの履歴書を書くのを手伝ってくれたよ。だから、いずれ何もかもうまくいくと思っていたんだよ。ただ、その時、ヘザーは昇進して、よその都市に行かなくちゃいけなくなってしまったんだ。ヘザーに、ボクと一緒に行くことはできないって言われた時は、ボクもすごく落ち込んだよ。何度も何度も連れてってって懇願したけど、彼女はビクともしなかった。だから、ボクだけが残って、彼女はシアトルに行ってしまった。でも、家主の男の人、デビッドって言うんだけど、ボクより彼の方が動転していたんじゃないのかな。だって、その頃までにはヘザーとデビッドは本当に大親友になっていたから」

「まあ、そうだろうさ」

「とにかく、家賃を払わなくちゃいけなくなった時、ボクはどうしてよいか分からなかった。でも、ありがたいことに、デビッドがボクに提案してくれたんだよ。ヘザーの替わりになったら、家賃を無料にしてくれるって話。そればかりじゃないんだ、デビッドがヘザーに与えていたものを全部、同じくボクにもくれるって。お小遣いも、車も、服も。何もかも。ボクはアレはしたくなかったけど、分かるよね?……でも、選択の余地がなかったし。住む場所が必要だったし、ボクにはその話に乗る他なかったしし。それに、添い寝するとかその程度だったし。その程度ならボクにもできかもって」

「それって、添い寝以上のことじゃないのか?」

「どうして分かったの? っていうか、確かにボクもちょっと引いてしまったよ。最初に、彼にさせられたとき……セックス関係のことをね。でも……でも、しばらくしたら、そんなに嫌なことでもなくなってきたんだよ。それに、さっきも言ったけど、彼、ボクにたくさん素敵なモノを買ってくれたし。ちなみに、ボク、いつかヘザーと暮らしていくために、お小遣いを少しづつ貯めてるんだ。ヘザーはボクのメールに返信をしてくれないけど、彼女のことだからきっとボクと一緒になるときを待ち望んでるんだよ。ボクには分かる」

「おいおい……お前に何て言っていいか分からない」

「ボクは分かるよ。すごく甘美な取引だねって言えばいいんじゃない?」




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