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A New World 「新しい世界」

「ちょっと待ってくれる? あたしたち一緒に過ごす時間が全然ないんだけど。いつもただセックスだけ」

「ごめんよ、リー。君といたいのはやまやまなんだけど、ジーナがどうなるか分かっているだろ? あまり長く家を空けてると、ジーナは僕を追跡し始めちゃうよ。そうなったらどんなことになるか、君も分かってるはず」

「でも、彼女はこれまで一度も追跡チップを使ったことがないわ。どうして、今になって使い始めるというの?」

「ああ、頼むよ。そんな子供っぽいこと言わないでくれ。リー、追跡チップができたのは、そういうことのためなんだよ。女性は、夫が監視なしで外をうろつくのを望まないから。正直言って、ジーナが、僕が一日の大半なにをしてたか僕に説明を求めないばかりか、車まで使わせてくれて、運がいいと思ってるんだから」

「そんなことどうでもいいわ。あなたが家をきれいにしてて、彼女が仕事から帰ったときに食卓に夕食を用意している限り、彼女はあなたが何をしてようが気にしないんだから。あなたは、彼女にとって、ただの住み込みのメイドみたいなものだもん。時々、セックスもできる住み込みメイド」

「だから、君も、毎日毎日、感謝すべきなんだよ。ジーナがそういう態度を取ってくれなかったら、僕たち一緒になれないんだから」

「やろうと思えば、ジーナと別れられるのに。あたしにはおカネがあるし……」

「国から出るだけのおカネ? 政府が国から逃げ出す男に何をするか知ってるだろう? あの『粛清』事件が起きてから10年になろうとしてる。君はそれよりも前のことを覚えていられるだけの記憶力があると思うけど?」

「あの事件では何千人もの男たちが逃げようとしたでしょ? でも、あたしが話してるのは、あたしとあなただけのことだもの。それに、あたしと一緒ならあなたも安全だと思うわよ」

「そんなの嘘だって分かって言ってるよね? こんなふうにふたりで会っているだけでも、すごいリスクなんだよ。もし、変な人たちに、僕たちがしてることが見つかってしまったら……」

「ただのセックスじゃないの! 自然なことだわ!」

「政府はそうは見てくれないよ。もし、ジーナが、僕はコックケージ(参考)を外せるのかもしれないと、ちょっとでも疑念を抱いたら……ジーナのことだ、即刻、僕のアレをちょん切ってしまうよ。僕には分かる。ジーナなら、そうする。それに、君のお姉さんは、僕がアレを使ってると分かったら、何をすると思う? ましてや、君を相手にしていたと知ったら、どんなことをすると? 僕を矯正施設に送り込むかも。でも、それは最良のケースのシナリオだよ。最悪のシナリオだと、僕はあの繁華街の安アパートに送り込まれて、夫を持つ経済的余裕がない女性たちに1時間2ドルくらいで体を使われる運命だろうな」

「そんなことは決して……」

「いや、彼女ならそうするよ。君も本当はそう思っている。いや……こんな世の中、最悪なのは分かってるんだ。この20年の間に世界がどんだけ変わってしまったか、本当に気が狂ってる。でも、僕も君も、世界を昔のように戻すことなんかできないんだ。逆には戻せない。だったら、現実の世の中で何とかして生きていかなければならないわけだし、そういう世の中でも何か楽しみを得られるなら、それを享受していくべきなんだよ。だから、お願いだ。僕のコックケージを返してくれないか?」

「こんな世の中、大嫌い」

「うん、分かる。でも他に選択肢はないんだよ。これが僕たちが生きている世界なんだよ」




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