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「隔離への順応」(8)

「君はどうすべきだと思う?」と彼が訊いた。

急に、彼がシャツを着てないことがとても重要なことに思えた。それに、あたしがオレンジのタンクトップとボーイショーツ(参考)だけの格好でいることも。あたしは唇をかんだ。緊張でお腹がキリキリしている。自分が何をしたいか知っている。彼が何をしたいかも知っている。だけど、それをすることはできない。そういう形でヘザーを裏切ることはできない。

頭を振った。そういう思いはどこから出てきのだろう? ヘザーはあたしの忠誠心に値しない妻だった。彼女はあたしを強引に女性化した。そして、あたしが大変な苦労をして女としての新しい生活に適応したのに、彼女はそんな苦労があるとは思ってもいないのは明らかだ。ヘザーはあたしの人格を破壊したし、それも、ためらうことなく行った。さらに、彼女は不倫を働いた。多分、あたしたちふたりが一緒になったときから進行していたことだろうと思う。あたしがメイドになった後は、一度ならず、あたしが男性として彼女を満足させたことがまったくないとほのめかした。

だったら、どうしてあたしはためらっているのだろう? 彼と肉体的に結ばれたら心が落ち着くはずなのに。それをしても正当だって感じられるはずなのに。勧善懲悪、因果応報であるのに。

がっくりと両肩を下げた。根本的に、あたしはヘザーのような人間ではないということだ。彼女にさんざんひどいことをされてきたにも関わらず、あたしはいまだに彼女を気にしている。いまだに、彼女を傷つけたくないと思っている。だから、これをこれ以上進めることなどありえない。

だったら、どうして、あたしは急に彼の上に乗ったのだろう? どうして、彼と唇を重ねているのだろう? どうして、両手の指を彼の胴体に這わせ、波打つ腹筋の感触を楽しむように上下にさすっているのだろう? どうして、この行為を止めることができないんだろう?

もちろん、答えは知っていた。欲望と興奮に心を支配されていても、いや、だからこそ、その答えを知っていた。

それは、あたしは女だということ。彼は男だということ。そしてあたしたちは求めあっているということ。

そして、その瞬間、意味があることは、それだけになっていた。

つづく




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