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「隔離への順応」(9)
彼といちゃつきながらも、これは良くないと思っていた。あたしが女ではないのは事実だし、ゲイでないのも事実。でも、彼と一緒にいるのはとても気持ちよかった。その理由のひとつは、人との接触が欠けていたという単純なことだったと確信している。この半年間で、あたしが人に触れられたのは1度だけ。しかも、あたしが決まりを守らなかったとヘザーにお仕置きをされた時だけだった。キスはしていない。もちろん、セックスもしていない。もはや、あたしが男として機能できなくなっていたから。端的に言って、あたしは人に関心を持って体に触れられることに飢えていたのだと思う。そんな時、突然、ポールはあたしが求めていたすべてを与えてきたのだ。いや、それ以上のものを。
本能が支配した。彼の硬直した部分があたしの開いた脚に押し付けられるのを感じた瞬間、何をしたらよいか分かった。というか、あたしのカラダが分かったと言うべきか。あの時、あたしは彼という乗り物に乗った乗客のようなものだった。その乗り物の上、いくつも小さなキスをしながら、ゆっくりと彼の胴体を下っていった。とてもいい匂いがした。男らしい匂い。あたし自身は、もうずいぶんそういう匂いを発していなかったと思う。
キスの小道は、やがて彼のスラックスの腰バンドの下へと到着した。震える手で、そのボタンを外した。彼のズボンを引き降ろし、逞しい太ももの下へと手繰っていく。でも、そうする前から、あの盛り上がりは見えていた。昔だったら、それを見て嫌悪感を感じたかもしれない。けれど、今は、それを見て興奮しか感じない。
そして、ほとんどためらうことなく、両手の指を彼の下着の腰バンドに引っ掛け、引き降ろした。すでに床に落ちているズボンの上に、新しく彼の下着が加わり、重なる。その間も、あたしは欲望の対象を見つめていた。一切の抑制を忘れ、純粋な欲情だけの目でそれを見つめる。
それは、何かを求めるようにヒクヒク跳ねていた。あたしのカラダがそれを求める気持ちと同じくらい、それはあたしを求めていた。いや、それ以上かもしれない。そして、それを見て、あたしは緊張に体がいっそうこわばっていくのを感じた。
手を出し、軽く触れた。とても熱い。芯は固いのに皮膚は柔らかくベルベットのよう。自分でも何をしてるのか気づかぬままに、自然に顔を寄せていた。舌を伸ばし、アイスクリームのように舐めた。ぺろぺろと。その味が舌の上で踊ってる。塩辛さ。男っぽさ。汗と何か他の、何かピリピリする味。一度、鼻から大きく息を吸った。ムッとした彼のエッセンスの匂いを楽しむ。
それまでペニスをしゃぶりたいと思ったことは一度もなかった。確かに、想像したことはあった。誰でも想像したことがあるはず。でも、あたしは、それを想像しても興奮することはなかった。でも今、ポールのペニスの頭部を舌でゆっくりとねぶりながら思うことは、早く唇でそれを包み込みたい、そうやって彼を喜ばせたいと、それだけになっていた。
興奮でお腹の筋肉がワナワナと震えてたけれど、思い切って口に含んだ。そうしながら目をポールに向け、彼の瞳を見つめた。彼もあたしを見つめ返してくれた。まぎれのない至福の表情をしている。そして、生まれて初めてのフェラをするあたし自身の表情も、彼を鏡に映したように、同じ至福の表情になっていた。
つづく
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