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Undercover 「潜行捜査」

「じゃあ、これは何だ?」 エリックはそう言って私の方を向いた。彼が手にもつ物を見た途端、心臓が飛び出しそうになった。自分の昔の生活を示す証拠はひとつ残らずこのアパートから片づけたのに。なのに、いったいどうして、こんなにあからさまな物を見逃してしまったのだろう? あれを忘れるなんて、ひょっとすると、銃とバッチもキッチンカウンタに置きっぱなしにしていたかもしれない。

頭の中、恐怖感やら、不安感やら、すべてが悪い状態になったときの計画やらが渦巻いていたけれど、あたしは笑顔になってエリックの手から昔の自分の警官帽を取り上げた。そして、その場の閃きで、こう答えた。「あたしはストリッパーよ。というか、あなたがあたしをあの生活から脱出させてくれた前までは、ストリッパーだったの。これはストリッパー時代のコスチュームのひとつ」

彼は、あたしが帽子をかぶるのを見ながら目を細めた。「ずいぶん本物っぽい帽子だけどな」

「だって、それ、クラブの常連の警官から盗んだんだもの」 その場で話しをでっち上げた。「本物を使うとちょっとはショーがリアルなものになるんじゃないかと思って」

エリックは長い間あたしを睨み付けていたが、突然、彼も笑い出した。そしてあたしの方に両手を伸ばし、豊満な乳房をギュッと握った。「本物らしさが欲しいのは、こいつだけだぜ」

安堵の溜息が出そうになるのを何とかこらえた。エリックがあたしの作り話に乗ってくれたから良いものの、下手すれば破滅していたところだったのだ。小さなミスでも、たったひとつだけで、このほぼ2年にわたる潜行捜査が無に帰してしまう。自分をトランスジェンダーのストリッパーであり娼婦であるトリクシーという名の女と偽ってきた2年間。薄汚れたストリップ・クラブに勤めていたあの時期も、一緒に寝た男たちも、手術も、女になるためにつぎ込んだ努力も何もかも失われてしまうのだ。加えて、エリックにばれた場合、つまり、彼が、あたしは彼の変態的な性的嗜好を満たす愛人などではないと知ったら、どんなことをするか。それも考慮しなければならない。あたしが実際は警官であることを知ったら、エリックは何らためらうことなくあたしを殺すだろう。

エリックはあたしを抱き寄せ、ねっとりとキスをした。彼が何を求めているか分かる。時には断ることもできるけれど、この時ばかりは、彼の気を逸らす必要があった。床にひざまずき、スラックスのボタンを外し、中からペニスを出して咥えた。

「お前は実に可愛い淫乱だ……」と、エリックはあたしの後頭部に手を添えた。「……たとえ、警官だとしても」

その言葉がズシンと響き、あたしは顔を引こうとした。だがエリックは頭を押さえ、さらに奥深くペニスを突き入れてきた。喉がふさがる。「ダメだ、続けろ。俺は知ってるとお前に教えたいだけだ。お前を殺すつもりはない。そんなことしたらもったいないからな。お前を俺のそばに置いておく。お前を俺の可愛い淫乱おもちゃにしてやろう。それに、みんなにお前が以前なにをしていたか教えてやろう。分かったか?」

ペニスに喉奥を突かれ、目に涙を浮かべながら頷いた。

「よろしい。逃げようとしたら、お前を殺す。俺が命じることを断っても殺す。お前の家族もだ。地元で待ってるあの、可愛い奥さんはどうなる? 死ぬ。ミネソタにいるお前の弟は? 死ぬ。お前のママやパパは? 全員死ぬ。もし俺を満足させそこなったら、そういうことがお前を待ってることになる。だから、つまらん仕事はやめることだな。抵抗もナシだ。ただ、今まで通りの役を演じ続けていればいいのだよ」




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