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Secretary's day 「秘書の日」
「ああ、それで? ちょっと気が変になりそうだよ、カレン」
「何が?」
「全部だよ。この偽おっぱいや、全身脱毛や、化粧やら、何もかも。一種のジョークだよ、どう見ても。なんでこんなことを……」
「ジョークじゃないわよ。これは、士気を高めるためのこと。それに、これを言うのは最後にするけど、模範例を示すことがあなたの仕事でしょ? あの人たちはみんな、あなたの従業員。あなた自身がちょっとは努力してるところを示さなかったら、みんなに羽根を伸ばしてリラックスするように言えるわけないじゃない?」
「分かってるよ。でも……」
「でも、何? それに、その姿、最高よ。あなた、みんなを圧倒するわよ」
「ああ、だけど、丸1週間ずっとこんな格好でいなくちゃいけないのか、まだ理解できてないんだけど」
「それは、従業員のみんなに、あなたが自分のことを従業員より上にいる人間とは思っていないことを示すため。それに、訊かれる前に言うけど、その通り、あなたは丸1週間、秘書にならなくちゃいけないわ。そもそも『秘書の日』のお祝いのためのことでしょ? あなたは、上司として、命令ばっかりしてるわけじゃなくって、自分自身もちゃんと体を動かして仕事をするんだと。それを示すのに、ふさわしい格好としか言えないと思うけど?」
「ああ……分かったよ、カレン。やるよ」
「その後に『でも……』って言いたそうな顔をしてるわね」
「でも、何て言うか、この格好を見て、誰かがボクを本当の秘書と勘違いしたらどうする?」
「だから? そうなったらそうなったで、良いことじゃない?」
「こ、こんなの狂ってるよ、カレン。狂ってる」
「むしろ、だからこそ、完璧にうまくいくのよ。あなたが従業員を支援するために、こんなこともするんだって。そういうあなたの姿を見たら、みんな、絶対あなたのことを尊敬するから。約束する。あたしの言うことを信じて」
「分かったよ。すでに、途中まで女装してるわけだしね。最後まで女装しても問題にはならないだろう」
「素晴らしい! じゃあ、ドレスを着て。あの、胸元のラインがざっくり開いてる赤いドレス。みんなにあなたの女らしい胸元を見てほしいから」
「ああ、やっぱりうまくいくはずがないよ。悪い予感しかしない」
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