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No choice 「別の選択」

やめられない。やめられたらと思うけど、昔の自分に戻ることに比べたら、息を止めるほうが楽だろう。手術のことを忘れること? お洋服やお化粧や髪の毛のことを気にしなくなること? 失った友達のことを考えないこと? 自分は女性だと宣言したことで不可逆的に変わってしまった人間関係を考えないこと? いや、それらは本当は問題じゃない。そんなのいくらでも変えられる。でも、自分の心は変えられる? 心を変える戦いは? その戦いには戦わずして負けている。

別の選択をできたかもしれなかった。それができたかもしれないいろいろな局面、その時のことをすべて思い返す。全部、一度に起きて、今の自分になったわけではない。スイッチをカチッと入れ直して、ハイ、女になりましたといったものでは決してない。いくつもの一連の選択が続いた結果が今の自分。そして、ひとつ一つの選択を決断するとき、一つ漏らさず、あたしはできる限り最大限に女性的になる道を選んできた。

でも、なぜ? これが始まる前は、自分はただのごく普通の男だった。確かに、性癖はあった。女性化についてのストーリーを読むのが好きだったし。でも、他の点では、あたしは普通だった。それにストレートだったし、否定できないほどマッチョに振る舞っていた。じゃあ、何が起きたのか? あの状態から今の状態になぜ進んできたのか? その理由は?

ちんぽ。

それが答え。何が原因かは分からないけれど、2年ほど前のある日、あたしは急にアレが気になり始めた。通りを歩いてると、知らない男性の股間に目が吸い寄せられてしまう。ポルノも見ていた。トランス女優のポルノを見ることが多かったけれど。ポルノを見る時は、出ている女優やトランス女優とセックスするのはどんな感じなんだろうと想像することはなかった。いや、その逆。自分はセックスされる側になりたいと夢見るようになっていった。そして、そういったことが、簡単に無視できる単なる夢ではなくなっていった。現実的な切望になっていた。しかも、とても強く手ごわい切望に。他のことがほとんど何も考えられなくなっていった。だから、この切望の実現のために自分が何か行動するのは時間の問題だと思った。

初めての体験は、Grindr(ゲイ・バイ・トランスなどに特化した出会いサイト)を使っての出会いだった。安モーテルで、手っ取り早く遊べる相手を求めるだけの胡散臭い男性との体験だった。あの時、頭の中で、「こんなこと止めたほうがいい!」と叫ぶ小さな声が聞こえていた。けれど、あたしは、まさに、あたしがしてあげたいと思ったことをその男にしてあげた。そして、そのお返しとして、彼はあたしがしてほしいことをあたしにしてくれた。この体験がきっかけで、堤防が決壊し、その日を境に、あたしは男性とセックスしない日は一日もない生活を始めたのだった。

しばらくたち、それだけでは満足できなくなった。ゲイになりたいわけではなかった。そうじゃなく、あたしは女性になりたかったのだ。そして、まさしく、その望み通りに自分自身を変えていった。一歩ずつ、自分を女性化していった。最初はホルモン摂取。次に、服装、お化粧、そして整形手術。あたしは、知り合い全員に変身した自分の姿を見せた。そして、女性的になればなるほど、あたしがあれほど切望しているペニスを手に入れることが簡単になっていった。

そして、今のあたしがここにいる。かつてのあたしの面影はほとんどなくなっている。ヤリまん女と呼ばれた回数は数えきれない。そう呼ばれて最初は傷ついたけれど、それを気にする時期は通り過ぎた。ヤリまん女と呼ばれることで、欲しいものがもっと得られるのなら、それはそれで構わない。あたしは、まさにそういう人間なのだから。




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