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No resistance 「抵抗不可能」
「ちゃんとおねだりしてほしいわねぇ?」とエリンは、股間に装着した巨大な黒ディルドを握った。すでに潤滑剤でヌルヌルしていて、あたしは、いつでも、それでアナルを満たされても良いよう準備が整っていた。「さあ言いなさい。何が欲しいの?」
チアリーダーのスカートをめくりあげ、前につんのめり、ぷっくり膨らんだお尻を突き出した。ためらうことなく、後ろに手を伸ばし、マニキュアをつけた指を、そこの穴に滑り込ませた。「その大きなおちんちんが欲しいの、エリン。今すぐちょうだい、お願い」
「いいわよ、お姫様! せっかくのお姫様のお望みですもの、あたしめにはノーとは言えませんですもの」 エリンの声に笑みがこもっているのが分かる。
そして彼女はあたしの手をどけ、あっという間に、シリコン製の太い男根をあたしのアヌスへと突き入れた。あたしは、誰が聞いてもその声と分かるエクスタシーの悶え声をあげ、貫かれる快感を噛みしめ、恍惚となる。でも、そんな官能の裏には、口惜しさの感覚が隠れていて、こんな姿になってしまった自分、エリンのためにいろんなことをさせられてきた自分を罵っている。その罵りの声は、突き立てられるたびに大きくなっていくのだけど、それと同時に、その声が聞こえないふりをすることも簡単になっていく。自分自身を罵る声がどんなに大きくなっても、この行為のもたらす快楽は大きな奔流となって心の底に流れ、恥辱や悔しさの叫びを掻き消してしまう。
そして、結局、逝ってしまう。エリンがアナルに激しく打ち込んでくるのに合わせて、混じり気のないエクスタシーが襲い掛かり、大きな叫び声をあげてしまう。体が打ち震え、両足のつま先が内側に反る。すべての思考が動物的な快楽に上書きされていく。ずっと、一生、この尊い瞬間に留まったままで生きていきたい。圧倒的な快感が、否定的に思えそうなことすべてを少しずつ粉砕していき、最後にはエリンがあたしに求める姿しか残らない境地に達する。そんなふうに一生いられたらいいのに。
でも、実際はそうはならない。ほんの数秒もすると、オーガズムによる快感の波は消え始め、そしてすぐに、空しい余韻だけが残ることになる。そして、快感が引いていくのに合わせて、自分がどんな肉体になってしまったか、どんな服を着ているか、どんな人間になるよう求められているかの自覚が蘇ってくる。
エリンが着ていた高校時代のチアリーダーのユニフォームを着ている自分に気づく。髪を長く伸ばし、体毛をすべて剃ったつるつるの肌の自分。女性的に膨らんだお尻の自分。アヌスにはもう何度も突き立てられ、貫かれることにすっかり馴染んでいる自分。それら自分の姿のすべて、さらに、それ以外の多くのことが、男性としての自分の認識に襲い掛かってきて、こんな人間になってしまった自分とかつての男性だった自分とを鮮明に対比させてあたしに見せつけてくる。
エリンと知り合った高校3年生の時は、自分は女子生徒たちのあこがれの的だった。州地区の大会でタイトルを取るフットボールチームのクォーターバック。学校では、ほとんど神といってよい存在だったし、それにふさわしい行動をしていた。でも、エリンとの交際が進み、高校を卒業し、大学1年になるにつれて、ゆっくりとだけど確実に、彼女は男らしさを少しずつ奪い取っていったのだった。最初は、彼女のパンティを「1回だけ、それも遊びで」履いてみてという求め。でも、こちらがその求めに折れて従うと、すぐに、さらに多くの事柄を求められていく。花が開花するように次から次へと。それから程なくして、あたしは化粧をするようになっていたし、ウイッグをかぶり、様々なランジェリーを身に着けるようになっていた。そしてあたし自身、それを楽しんでいたのだった。あたしが「女性」になってするセックス。そういうセックスほど気持ちの良いセックスはないと感じたし、それしかできなくなっていた。
続く2年ほどの間、あたしは何度か抵抗しようとした。自分の脚でしっかり立って、意地を通そうとしたことは一度だけではない。だけど、毎回、結局、あたしが引き下がる結果になった。最後にはあたしの方が折れてしまう。それが続き、あげくには抵抗しようとすること自体をやめてしまった。エリンが何を提案してきても、あたしはそれに従った。そして気づいた時には、あたしはダイエットをしていたし、彼女と一緒にエクササイズに励んでいたし、よく知らない妙なビタミン剤をいろいろと飲むようになっていた。そして、それに応じてあたしの体も変化していった。お尻が丸くなってきたり、胸が膨らみ始めたり。そのとき、危機感を抱くべきだったと思う。肌が柔らかくなり、ペニスが機能不全になってきた。そのとき、やめるべきだったと思う。でも、あたしはやめなかった。ひたすらエリンの求めに従い続けた。そして、とうとう、今のようなエリンのオモチャになってしまった。ほとんど完全に女の姿のオモチャに。
あたしには分かる。近いうちに彼女は、このふたりの楽しみを寝室だけに閉じ込めておくことに飽きてしまうだろうと。世間にカミングアウトするように求めてくるだろうと。公の場所を一緒に歩く本当のガールフレンドになるよう求めてきて、全世界にあたしの本当の姿を見せなくてはならなくなるだろうと。その心の準備ができているかというと自信がない。でも、これも分かっている。もし、そういう時が来たら、あたしは抵抗できないだろうということ。今はもう、エリンとはそういう関係になっているのだし、それがあたしの本当の自分だから。それは変えようがないのだから。
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