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In between 「ふたつのはざまで」
ちょっといい? ボクは、実際にうそをついたわけじゃないよ。それはいいよね? みんなが写真を見て、ボクが女の子だと思っただけのこと。別に、本当にそうだと言ったわけじゃないし。だから、みんなが勘違いしても、ボクのせいじゃないよ。いいね? 今の時代だと、女の子っぽく見える男はたくさんいる。ボクのことに関して言えば、男か女か分からなかったのは、勘違いしたみんなの責任だよ。自己責任。
つか、少なくとも、そう自分に言い聞かせて、こういう写真をアップしている。こういうのをアップするとちょっと気持ちいいんだ。
知ってるよ。こんなことするなって。ていうか、男だってバラすべきだって。てか、そんなことだろ? よく知らないけど。でも、ふたつのジェンダーの間で生きていくって健康的じゃないよね。ボクがどんな格好に見えようとも、ボクが本当のボクとは違うフリをするっていうのは正しくないよ。でも、もうこんなことやめようとか、これ全部捨て去るんだって思うといつも、何だかソワソワした不安な気持ちがお腹の底から湧き上がってくるんだ。こういうことを続けないと生きていけないって、本当は自分自身、そう思ってるみたいな、そんな感じ。
多分、この画像も、実際、そんなエロいやつじゃないと思うよ。そうだろう? ボクは、毎日、学校が終わった午後、家にダッシュして、姉さんよりも前に家に帰るんだ。そうして姉さんの服を掻き集めて、自分の部屋に入り、ドアにカギをかけ、そして着替える。そして、こういう写真を撮って、オンラインにアップする。もちろん、ボクの画像を見て涎れを垂らしてる男たちの誰もボクが女じゃないのを知らないし、ボクもそんなみんなに本当のことを言うつもりはない。
ボクが狂ったようにこれに夢中になっている理由は、まさに、ボクが女の子として通ると分かるこの感覚だと思う。みんながボクを男か女か判断できないと知るときのこのワクワクする感覚。
お気に入りの妄想があるんだ。それは、ある日、知らない男の人がボクの真相を知ってしまう妄想。その人はボクの正体を全然気にしない。ボクにものすごく惹かれていて、ボクの脚の間にぶら下がっている小さなアレを全然気にしないんだ。そして、彼は、チャンスを得ると、ボクを、まさにボクが偽ってきた女の子のように扱って、ボクの体を奪う。のオンラインのボクのファンたちがやりたいって夢見ているように、彼はボクの体を好き勝手に使う。そして、コトが済んで、ふたりともすっかり疲れ切って汗まみれになってて、ボクは彼が出したスペルマで全身ドロドロになってるんだけど、その男の人はベッドわきのスタンドに何枚かおカネを放り投げて、「ありがとよ、シシー」と言って出ていく。そんな夢。
でも、そんなことは絶対に起きないと思っている。現実がボクの夢の通りにならなかったらと思うと怖すぎて、絶対に実行に移せない。というか、ボク自身、自分が女みたいだと自覚するのを怖がっているだけなのかも。分からないけど。ともかく、ボクは今やってることをやめることはない。やめられないと思う。やらないと気が済まない。ボクはそんな人間なんだろうな。
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