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You don't know my story 「あなたはあたしの事情を知らない」

会う人だれもが、あたしの身の上話を知っているつもりになっている。みんな、あたしのこの体、曲線豊かな体つきや巨大な乳房や女っぽい顔を見て、あたしのことについて何でも分かってると思い込む。よくいる、無茶苦茶セクシーなカラダをしたブラジル人のトランス女だろ? って。

間違い。とんでもない間違い。

そもそも、あたしはブラジル人じゃない。トランスジェンダーでもない。少なくとも、最初からトランスだったわけでもない。あたしはごく普通の男だったのだ。休暇で家族と旅行に出かけたときに誘拐され、女体化され、強制的にポルノや売春の仕事をさせれたのだ。

そういう話も知ってると? いや、やっぱりあなたは分かってない。はっきり言える。あなたは分かってない。

あなたがどんなことを想像しているか、あたしには分かる。鞭とかチェーンとか、薄暗くてムシムシした地下牢とか? そんな馬鹿っぽいものなど、全然なかった。当時あたしは16歳で、外国から帰れなくされてしまった。連中はあたしからパスポートを奪い、気を失うまで殴った後、最後に、選択を迫ってきたのだった。屈伏するか死ぬかのどっちを選ぶか、と。そんな脅かしをされたら、あたしは従順になる他なかった。そして、いつしか元に戻るのには手遅れになってしまった。

こんなカラダになって、どんな顔して家に帰れる? 仮に何とかして帰れたとしても、やっとの思いでため込んだわずかなおカネで何ができる? 親は、そもそもあたしだと分かってくれる? アメリカに戻るにしても、国境をどうやって越える? それに、たとえ、そういうのが全部なんとかできたとして、国に戻った後、どんな生活が期待できる? 変人と思われるか、チャリティーで恵んであげるべき哀れな人と見られるのが落ち。

アメリカに戻ることはできない。戻っても、そんな生活、耐えきれない。

だから、あたしはここにいる。ここで仕事をする。連中に命令されることをする。チンポをしゃぶれと言われれば、しゃぶる。この男とセックスしろと言われれば、セックスする。どうなるか分からないけど、いずれ、自活できるようになりたいと願ってる。

そう考えることでしか、正気を保てない。




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