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Ends and means 「目的と手段」

昔は、どうしても罪悪感を感じていた。普通の道徳観からすれば、私がしたことは間違ったことだし、許されないほど間違ったことである。私がそのような道徳観を持っていなかったら、どうだっただろう? 平気だっただろうか? 確かに言えるのは、世の中に対しては平気だっただろうということ。それは分かっていた。でも、私自身の気持ちとしては……。とは言え、その罪悪感は長くは続かなかった。自分のしていることは正しいのだと思うようになっていった。

私は否定的な人たちから離れた。あの子にとって何が最善なのかを知っているのは、私だけだと思った。どうすればあの子を幸せにできるか、私だけが知っていると。そうじゃないと言う人や、私は間違っていると言う人は、何も分かっていないのだと。誰が何と言おうと、あの子は私の息子なのだ。私が、あの子は息子ではなく娘となった方がふさわしいと思ったとしても、そう思うのは母親としての私が持っている特権なのだと。

当時は、その論理はとてもシンプルに思えた。私は精神的にも身体的にも、虐待を受けて育ってきた。虐待の犠牲者だった。本来なら信頼できたはずの男性たちの手で虐待を受けてきたのだった。当時の夫が私に同じようなことを始めるのは、時間の問題だった。彼の目を見れば、彼の行動ひとつひとつを見れば、そうなることがすぐに分かった。嫌なことを考えているのが、彼の顔を見ればすぐに分かった。口論をするたび、夫が私を虐待し始めるだろうという思いが私に重くのしかかるように感じた。いつか、私はその重さに押しつぶされてしまうだろうと。でも、もうそれ以上、虐待の犠牲者になるのは嫌だった。だから、私はその状況を変えることをしたのだった。

警察を呼んで、夫が私を殴ったと思わせるのは、そう難しくはなかった。警察に夫をモンスターと思わせることができた。まだ奥に埋もれていて、表に噴出してはきていないが、いずれ怪物のようになると。私自身がつけたわずかな傷跡を見せ、すすり泣いて作り話をしただけで、夫を私から隔離するのに充分だった。私の言い分が認められた。安全になったと思いかけた。

でも完全ではなかった。もうひとつの問題があった。自明と言える問題。息子のことだった。子供の頃は、息子を見ても、最後には息子も他の男たちのようになるとは想像しがたかったけれども、息子の遺伝子にその種が入っている。しかも、息子の父親からのモンスター遺伝子に加えて,私の父親から引き継いだ遺伝子もある。息子がおもちゃのブロックを遊びで蹴散らすのを見るたび、私は震えあがった。おもちゃ屋に行き、息子が兵士のおもちゃを見て興奮するたび、私は泣きそうになった。どうしていいか分からなかった。少なくとも最初は、どうしていいか分からなかった。でも、その時、思いついたのだった。別に私は男の子を育てなくてもいいのじゃないかと。今は別にそうしなくてもいいのではいいのではないかと。いや、ずっと、そうしなくてもいいのではないかと。

そこで私は計画を立て実行し始めた。それほど複雑なことではない。心理学の基本程度を理解している人なら誰でも分かることだった。ブロックの代わりにお人形をあてがった。ズボンの代わりにドレスをあてがった。ブリーフパンツの代わりにパンティを。常時というわけではないけれど、種をまく程度には頻繁に、そういう置き換えを行った。そして、息子がそういう女性的なものに囲まれている時は、彼が幸せに感じるように気を使った。そういう時にはアイスクリームを与えるとか。そういう時には関心を向けてもらえるとか、愛されていると分かるとか。男の子に戻ったときには、それらをまったく行わない。息子は、すぐに、幸福感と女性性とを結び付けるようになっていた。

私の人生で最もうれしかった日は、息子がトランスジェンダーとカムアウトした日。息子は8歳だった。その日、私は息子に一番の可愛い服を着させなかった。息子は大泣きし、もう男の子に戻りたいなんて思わないからと訴えた。でも、私は、息子が本気でそう思うまでドレスを着させなかった。ジリジリ追い詰めた。わざと、どうするか迷っているような素振りをして見せた。内心では、その逆。新しく誕生した私の娘。彼女は私をがっかりさせたことは一度もない。

それから11年が経った。その間、私は、自分がしたことに後悔したことがほとんどない。確かに罪悪感はあったし、迷ったことも少なくはない。学校でいじめにあったと言って帰ってきた時、心臓がよじれるような気持ちになった。しくしく泣く娘を見て、私も声を立てず泣いてしまった。でも、もう、サイは投げられているのだ。娘の運命は定められているのだ。もはや、男の子に戻るなんて考えることすらできないようになっているのだ。それに、私自身、娘が男に戻るなんて耐えられそうもなかった。

そして、今、娘は大人になった。強く、自立心を持った大人の女性になっている。そのようになりたい女性たちの見本のような女性。男性を必要としないビジネス・ウーマン。私が彼女を作り上げた。私が鋳型に嵌めてあげた。そして、そういう目的が達成されたという点で、そこに至る手段は正当化されていると思う。そうであるべきだと思う。










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