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Secret relationship 「秘密の関係」

「どうしたの、ケニー?」

「別に。なんで、どうしたのって訊くの?」

「だって、ひとつには、あなた、あたしにエッチしようとしてないじゃない? 普通だったら、あたしがパンティを脱いだら、待ってましたと言わんばかりに、すぐに突っ込んでくるでしょ? でも、もう一つは、あなた、最近、どこかよそよそしくなってるわ。何か話したいことがあるんじゃない? あたしはあなたの彼女なのよ?」

「秘密の彼女だよ」

「それって、あなたがそうしたがってるからでしょ? あたしの問題じゃないわ。実生活でもあなたと一緒でいられたら、あたし、そんなに嬉しいことはないんだけど」

「僕とキミは実際に一緒だよ。ただ、キミのお父さんにこれがバレたらと思って……」

「あたし、父とは2年も口をきいていないの、ケニー。父はあたしの生活からは消えているの」

「でも、キミのお父さんは僕の生活には関わっているんだ。キミのお父さんは、その気になれば、いつでも僕のキャリアをめちゃくちゃにできるんだよ。もっと悪いこともできるんだ。キミのお父さんがキミのことをどう思ってるのかを考えると、僕のキャリアを台無しにするよりも、もっと悪いことをすると思うよ」

「パパはただのフットボール・コーチじゃないの。全能の神じゃないのよ。それに、体だって、あなたの半分くらいしかないし」

「体の大きさが問題じゃないよ。僕は、キミのお父さんに殴られるのを心配してるんじゃない。僕をチームから外して、他のチームにも入れないように、リーグから追放するんじゃないかって心配してるんだ。それを恐れているんだよ」

「それに、メディアに、あなたがトランスジェンダーの男と付き合ってるって報道されることも、でしょ? 新聞の見出しがそんな甘いレベルで済むと思ってる? 新聞はともかく、ツイッターはそんなレベルで済むわけないわよね。それは確か。少なくとも、あたしがカミングアウトしたら、簡単にはすまないわ」

「分かってるよ、シルビア。本当に。ただ、心配してるだけだよ。それは分かってくれるだろ? キミの存在が恥ずかしいとか、キミと付き合うのを止めたいとかじゃないからね。ボクはキミを愛してる。一生、キミと一緒に暮らしていきたいと思ってるんだ。でも、どうしても……どうしても、公表した場合の結果が気になってしまって……」

「じゃあ、それまでの間、あたしは何をしてればいいの? あなたに時間の余裕をあげるのは構わないのよ。ただ、トンネルを抜けた後には明るい世界があることを確信したいだけなの。今のところ、あなたは、あたしのパパがあなたに何百万ドルの損害を与えないように進めばいいと思ってる。でも、そうなったとして、その後はどうなるの? あたしは、一生、こういう状態で過ごしたいとは思っていないわ」

「そうはさせないよ。約束する」

「その言葉、信じていいのね?」




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