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Knight in shining armor 「光り輝く鎧をまとう騎士」

もっと賢かったら。もっと分別があったら。そうしたら、脱出できる時に脱出していたのに。何度も悔やんだが、いまだにここから逃れることができない。逃れたいとすら思っていない。彼に命じられたことをするだけ。問い返すことすらしない。そして、最悪な部分は、自分がこうなって当然な人間であること。その通りだと思う。自分からここに来て、自分からここに留まっている。私は他に生きる道がなかった敗北者。本能が逃げろ、遠くに逃げろと言ってるのにも関わらず、私は彼に従って、求められることをしてきた。彼が私をこうしたのもあるけど、それと同じくらい自分から進んでこうなってきた。

振り返ると、これは避けられないことだったと思う。細かい点は違うかもしれないけど、私が彼に隷属することになるという全体的な流れは、ほぼ確実だったのだ。私は背が低く、小柄で、愛らしく、女子と思われることが多かった。子供時代の大半を、この不幸な遺伝的特質の結果を受け入れてすごしてきた。絶え間ないイジメ。男性としての私をバカにする女の子たち。細っていく自尊心。望む男性に育たない私にあからさまに落胆する父親。わずかであれ誇りをもって高校を卒業できただけでも奇跡といえた。でも、私は、大学に進んだら、事態が変わるだろうと自分を納得させていた。誰も私をバカにする人はいなくなるだろうと。女の子たちも私を尊重してくれるだろうと。どうやってかは分からないけど、父も私を誇りに思ってくれるようになるだろうと。

そのような素朴すぎる期待が持続したのは1週間だけだった。ルームメイトに、私と彼のどっちが仕切ってるのかをはっきりと、実にはっきりと教え込まれた時までだった。正直、あの口論が何についてだったのか覚えていない。ベッドの件? スペースの件? 彼が私のパソコンを使った件? 分からない。でも、結局は、彼は私に威張り散らすようになり、私はそのセメスターの最後まで、彼の横暴を耐え続けなければならなかった。

私は落ち込んだ。いつも暗く沈んだ状態になっていた。その苦痛を永遠に終わらせる方法はないかと考えていた。毎夜、ベッドに横たわり、ルームメイトに復讐する方法を夢見ていた。自分が、世の中から最低のヤツをひとりずつ駆逐するダークヒーローになった姿を想像した。だけど、それは妄想にすぎない。妄想とは知りつつ、いつか銃を手に入れ、ルームメイトが眠っているところを撃ち殺すのを夢見ていた。

そんな時、第2セメスターが始まる直前、ある機会が現れた。貸し部屋の話。しかも部屋代が無料という。ひとつだけ条件があって、部屋を借りる者はいくらか家事をしなければならないということ。私は直ちに応募したが、その家が文字通りの大邸宅だと知って驚いた。しかも家主は、30代半ばの、背が高くハンサムな男性だった。さらに驚いたことに、その家主は私と気が合ったらしい。私は1週間もしないうちに引っ越した。

しばらくの間、素晴らしい日々が続いた。家事は、そんなに大変ではなかったし、家は宮殿と言ってもよかった。さらにもっと驚いたのは、家主のデビンが、まさに男性の理想像のような人だったということ。親切で、思慮深く、同時に人懐っこい。まさに大家として望む人物像そのもののような人だった。私は、この邸宅での生活が終わってしまうことを恐れるあまり、家事にかかる時間が徐々に増え始めていたことも、彼が少しずつ私の容姿を管理し、私を変え始めていたことに気づかなかった。

彼はその企みを隠していた。私に優しく接したり、贈り物をしてくれたりして、私が気づかないようにしていた。そして私も何の疑念も抱かず受け入れていた。確かに、彼が買ってくれた服はちょっと女の子っぽかったし、美容院へしょっちゅう優待してくれたのも、何か変だなとは思っていた。特に、美容院のセットの中に全身脱毛とかプロのメーキャップも含まれるようになった時には、確かに変な感じがした。だけど、学生寮に戻って、あんなルームメイトと一緒になるのを思えば、あえて断ろうという気にはならなかったのだった。ついには、彼にフルタイムのメイドになってくれないかと頼まれた時も、私はほとんど考えずに、大学に退学届けを提出したのだった。

その後、事態は少し曖昧模糊になっていった。いつの間にか、あからさまに女性用の服を着始めているのに気づき、変だと思ったのは知っている。ドレス、ランジェリー、ハイヒールが私の衣装入れの大半を占めるようになっていた。それには気づいていたけど、あえて気にしないようにしていた。というか、元の苦痛と屈辱の日々に戻ることを避けていただけと言ってもいい。デビンは優しくしてくれているよね? 私は彼を救い主と思い始めていた。そして彼も私のことを自分のプリンセスと見るようになっていた。プリンセスたるもの、助けてくれた光り輝く鎧をまとう騎士に対して、どんなことをすべきなのか? そう、彼が望むことをどんなことでも。

そして私はその通りにした。ホルモン摂取と整形手術により、男性だった頃の生活の記憶は心の奥底へと隠れていった。私の男性性は、心の中から完全に消えたわけではないけど、ほとんど顔を出さなくなったし、私に逃げろと叫んでも、ほとんどその声は私に届かなくなっていた。特に、私が雇われたメイドから彼のガールフレンドへと立場が変わるのにつれて、そんな心の奥の存在は、簡単に無視できるように変わっていった。彼は私を素敵なドレスやジュエリーで飾り、私はそのお返しに彼に身も心も捧げたのだった。

でも、真実は知っている。私は女ではない。ゲイでもない。こんなプリンセスの生活をするように生まれてきたわけでもない。でも、それは知ってても、自分は男性でいたらこの生活はできなかったのは確かというのは揺るがない。こうなるしかなかった。そして、私はデビンが与えてくれる生活を続けるために必要なことを何でもするつもりでいる。




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