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An arrangement 「協定」
サムは呆然とドア先に突っ立った。口をあんぐりと開けたまま、部屋の中にいる人物を見つめた。永遠と思えるような時間が経った気がしたが、実際は数秒間だったかもしれない。ようやく、彼はその人物から目をそらした。彼は恥ずかしさに頬を赤くしていた。
「ちょっと気まずかったみたいね」と女性の穏やかな声がした。「こんな形であなたにカミングアウトするとは思っていなかったわ」
「す、すまなかった。あなたがここにいるとは知らなかったもので。ケリーの部屋から声が聞こえて、てっきり僕は……」
「あたしをケリーだと思った、と」と彼女は答えた。「ところで、こっちを向いてもいいのよ。あたしは気にしないから」
嫌々ながらサムは前を向いた。いや、嫌々ではなくワクワクしながらだったろうか? 違う、決してそんなことはない。だが、彼が前を向いたことには変わりがない。そして、彼はその人物に目をくぎ付けになった。人物? いや目の前に立っているのは女性だ。長い髪と小ぶりの張りのある乳房をした美しい女性だった。その姿は彼の妹にも、ガールフレンドにも似ていた。
しかし、彼のガールフレンドとは違い、パンティひとつの彼女の股間には隆起があった。それに気づきサムの頭は困惑の泥沼に嵌った。性的な興奮に好奇心が混ざり、その好奇心に拒絶の気持ちが加わってくる。あるいは怒り? 多分、羞恥心かも? 感情を整理することすらできなかった。彼女にじっと見つめられているので、なおさら落ち着けない。いや、見つめているのは自分の方か? サムは何をどうしてよいかも分からなかった。
「ちょ、ちょっと……分からない」とサムは手で髪を掻いた。「本当に……何が何だか……」
ジャッキーは微笑んだ。「何が分からないの?……あたしはトランスジェンダーなの。ずっと前から、そう。ただ、みんなには隠し続けてきただけ」
「どうして?」 とサムは思わず口にした。
「本気で言ってるの? あたしの両親を知ってるわよね? それに完璧主義者のブリタニーが認めてくれるわけない。あなたの彼女にはたくさん良い面があるかもしれないけど、進歩的という点は欠けている。ブリタニーは自分の弟がキモイやつと知って、あたしを憎んでるの。ましてや、自分の弟が変態妹だと知ったら、もっと憎むでしょうね。でも、あなたは……あなたならあたしを受け入れてくれるのは分かっていた。ずっと前から、あなたがあたしのことを見ているのを知っていた。あなたがいつもあたしに優しくしてくれているのに気づいていた。そして、あなたとふたりなら、あたしの秘密を守ってくれると、ふたりで何かできると確信しているの」
「ふたりで何かする? 何を……いったい何の話をしているんだ?」
「しーっ!」とジャッキーは指を1本、唇の前に立てながら近づいた。「あたしなら、ブリタニーが絶対にしないようなことをするわ。で、あなたはそのセクシーな口を閉じて黙っているだけでいいの。そうしてくれる?」 彼女は手を下に伸ばし、ショートパンツの上からサムの股間を撫で始めた。「あっ、黙っててくれそうね。確実に黙っててくれそう」
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