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A housewife's job 「主婦の仕事」

「ああ、すごくキツイな」とロイは言った。「高校時代に、お前がこうだと知っていたら、俺たち、この5年間ずっとこれをやってこれたのにな」

リーナは、ロイにアヌスを突かれながら、小さな喘ぎ声の他は何も言わなかった。ただ、自分がこの状況にいることになってしまったいきさつばかりが何度も頭に浮かんできて、仕方なかった。もちろん、事実は知っている。いろんな出来事の流れは簡単に追える。でも、それ以上の深いことは、ぼんやりとしか思い出せない。かつてはリオという名で、地元の大将格だった自分が、どうして、こんなに容易く女性化に屈してしまったのか? こんなにも自分から進んで? こんなにも完全に?

そもそもの始まりは、卒業してすぐに、学校時代の恋人と結婚した時だった。マンディは完璧な彼女だった。ブロンドの髪、青い瞳、そして、そのためになら死んでもいいと思えるようなプロポーション。しかも頭も良い。リオと違って彼女は大学合格が確実だった。一方、リオは、高校のフットボール部のスター選手であり地元の誇りだった。しかし、どう頑張っても、将来は父親の自動車修理工場でレンチを回すことにしかならないことも知っていた。稼ぎは悪くない。けれど、自分の新妻が大学で学ぶ心理学やら何やら彼の理解を超えたことについて将来の希望を語るのを聞いているうち、リオは少し嫉妬を感じずにはいられなかった。その後、彼女が大学で新しい人々と出会い、特に男子学生の友人ができるようになると、リオの嫉妬心は最高潮に達した。マンディの新しい友人の中に、彼が高校時代に頻繁にイジメていたロイが含まれていると知ったとき、リオの我慢は限界に達した。

もちろんマンディは、ロイとは何でもないと言って彼を安心させようとした。実際、マンディはリオしか愛していなかったのである。だが、リオはそうは思わなかった。そして、ロイがかつての引っ込み思案でガリガリのキモイ男から、堂々とした体格の、ハンサムで、しかも大学生としての知性を持った立派な青年に変身するにつれて、リオの疑念は確信に近づいていく。4年間という短い学生時代であれ、少しばかりの自信を獲得しながら、せっせとジム通いに励むことで、ひとりの男にこれだけの変化をもたらせるとは、驚きだった。そして、リオの方は、自分でも情けないと思いつつも、ロイとは逆方向に変化していたのである。

高校時代のスポーツ活動で育てあげた筋肉は、ビール片手にテレビの前に座る時間が増えるのに合わせて、見事に溶け去っていった。そして筋肉がなくなるのに伴い、彼の自信も消え、さらには性的能力までも衰えていった。もちろん、マンディはそれに気づいていた。どうして気づかないわけがあろうか? 彼女の夫は今や勃起することすらまれになっていたのである。当然、彼の寝室での能力低下はふたりの夫婦関係にも悪影響を及ぼした。

ケンカ。口論。双方とも別れる、別れないと言い出し、離婚の危機が訪れる。しかし、ふたりは別れず、結婚生活にしがみついた。やがてマンディは大学を卒業し、地元の調査会社に就職する。だが、ロイの就職先も同じ会社だった。その事実を知ったとき、リオの男性としてのプライドが粉々に砕け散った。マンディの給与はリオの稼ぎをはるかにしのぎ、彼女の方が世帯の主たる生計主に変わった。マンディとの夫婦関係の維持に貢献する部分が事実上ゼロになったと知ったリオは、この鬱屈した状態から這い上がる機会が消え去ったと悟ったのである。

リオは自分の殻に引き籠った。何にも関心を示さなくなった。ただ、仕事に行き、帰宅し、テレビを見て、眠る。それを来る日も来る日も繰り返す生活。一方のマンディは、ますますロイと親密になっていった。そのうち、マンディにとって夫と過ごす時間より、ロイと一緒に過ごす時間の方がはるかに多くなっていった。一緒にランチを食べ、一緒に仕事をする。仕事帰りに、一緒に飲みに出ることも多かった。さらには、出張の時に一緒になることもかなりの回数に登る。

そんな妻の変化をリオは嫌悪した。だが、それ以上にリオが嫌悪したのは自分自身だった。ロイのような男に嫉妬心を抱くなど、自分にはふさわしくないことだ、と。彼には、高校時代のロイのイメージから抜け出せずにいたのである。しかしながら、マンディが究極の選択を突きつけてきた時、リオもようやく自分よりロイが優れていることを理解した。彼女は、オープンな夫婦関係になるか、さもなければ、家を出て行くと言ったのである。リオは、どちらも拒否したかった。だが、自分は上手に妻を喜ばすことができない。彼はかすれ声でオープンな関係になることに同意したが、心の中、自分なら、いくらでもその気になってる女を見つけられると思っていた。その後、リオとマンディは、それぞれ別々に行動するようになった。

リオにとっては意外だったが、マンディはロイの元に直行することはしなかった。その代わり、彼女は、試験的に女性を相手にし始めたのである。彼女は、女性だと自分の求めることに完璧に答えてくれると何度も話した。そして、そう語るのと同じくらい頻繁に、リオが女性たちから「大事なことをひとつも学ばない」と愚痴を言った。一方のリオは、目論見に反して、セックスパートナーとなる相手を見つける試みにことごとく失敗していた。彼は、かつてのような魅力的な男性ではなくなっていたのである。少し基準を下げれば、運よく相手を見つけられたかもしれないが、リオは一応のプライドを持っていたのだ。彼は相手を見つけようと、しょっちゅう街に出るようになっていた。

だが、突然、その生活が終わる。マンディが、何もかもうんざりしたと言ったのである。それと同時に、彼女は、もしふたりの夫婦生活を持続させるのなら、いくつか変えたいことがあると言った。リオは、その頃までずっと性的なことに飢え続けていたこともあり、マンディが求めることに何でも従うと同意した。

最初は、特に大変なことは何もなかった。熱心な前戯を求められることくらい。もともとリオはセックスが上手くないこともあり、それは予想外ではなかった。それに加えて、外見に多少、注文をつけられるようになった。ダイエットをすることや、エクササイズをすること。極端な要望はなかった。これによって夫婦関係が見違えるように改善したこともあり、リオにとっては妻の要望に沿うことは小さな代償にすぎないと思われた。

時が経ち、それからあまり時間がすぎないうちに、ふたりの間の関係が変わり始めた。いや、むしろ、リオが変わり始めたと言った方が良いかもしれない。最初は、ほとんど気づかなかった。ちょっと肌が柔らかくなったとか、上半身にすこしたるみが出てきたとか、腰やお尻が少し膨らんできたとか、それくらいだった。リオはほとんど気にしなかった。むしろその変化をマンディがとても喜んでいる様子で、なおさら気にしなかった。特に、リオの乳首がどんどん敏感になってきてるのがマンディには嬉しいらしい。リオ自身も、敏感な乳首を喜んでいた。

しかしながら、その後、本格的な変化が始まる。マンディは、リオに修理工場の仕事を辞めるべきだと言ったのである。その仕事には将来性がないと、その仕事を続けるより、もっといいことがあると言う。彼女は、素早く付け加えて、彼の稼ぎはほとんど問題にならないとも指摘した。妻を喜ばせたい一心のリオは、それにも同意した。同意した理由として、マンディが求めることに従う必要があったということもあるが、もっと大きな理由として、彼は元々、少し怠惰なところがあり、家で一日中ごろごろしてるのが魅力的に感じたからでもあった。

しばらくの間、その生活は素晴らしかった。本当に素晴らしかった。リオは、人生でこの時ほどリラックスした時間を過ごしたことはないと思った。だが、その後、事態は変化を迎える。

マンディに完全に依存することは、何らかの期待なしには、提案されないことである。彼女はリオに家の掃除、夕食の準備、そしてリオ自身をこぎれいに保つことを要求した。最初のふたつはそんなに難しいことではない。料理について言えば、楽しいと思うほどだった。だが、最後の要求は、彼に大変な課題を押しつけるべく考えられた要求のように思われた。

マンディは楽しそうに彼に衣類を買ってくるが、そのすべてがリオの持ってる服と比べて、かなり女性的な服ばかりなのである。とは言え、それを着ないと拒絶することはできない。一度、拒絶しようとしたが、マンディは彼を家から追い出すと脅かしたのである。彼は仕方なく、そういう服を着た。そして、いつの間にか、彼は常時、マンディが「中性的」衣服と呼んでいる服を着るようになっていた。彼にとっては女性服にしか見えない服ばかりだった。

リオがマンディの「専業主婦」になって半年が過ぎたころ、マンディは新たな要求を突きつけてきた。整形手術である。もちろん、彼女は「要求を突きつける」という形は取らなかった。家事をしてくれるリオへのクリスマスプレゼントという形を取っての要求であった。リオは断ることはできないのを知っていた。

リオは、手術が終わり、自分の姿を見て、どうして自分はここまで落ちるのを許してしまったのだろうと思わざるを得なかった。自分の乳房……そう、乳房そのものが……マンディのよりも大きい乳房。まさに、「専業主婦」の名前にふさわしい姿になってしまった。顔も女性的にされ、体つきも変えられ、大きな乳房もつけられた。いずれも見事な仕事だった。

しばらくの間、彼は落ち込んだ。裏切られた気分だった。怒り。自己嫌悪。友人でも警察でも、誰でもいい、家を飛び出し、話しを聞いてくれる人に自分の状態を叫びたかった。でも、どこに行けばいいのだろう? すでに友だちは誰もいない。手術についても、自分で同意の署名をした以上、警察が何かしてくれるはずがない。無理。自分は罠に嵌められたのか? ちなみに、マンディは、新しい彼を愛してくれていた。彼というより、彼女と言うべきか。マンディは自分のことをリオの夫と呼んでいるのだから。マンディは彼をリーナという名前で呼んでいる。それもリオは受け入れる他なかった。

それから1年ほど、ふたりの生活は一定のパターンに落ち着いていた。リーナは、深く悩まない限りは、現状にほぼ満足していた。マンディはいっそう明るくなっていて、中流の上クラスの生活を満喫している。良い生活と言えた。少なくともマンディはそう言っている。だが、そんなある日、マンディはふたりの生活にロイも加えるつもりだと言い出した。

リーナは反対した。できる限りの強さで反対した。理解できなかった。自分はマンディとふたりで幸せに暮らしたいと思ってるだけなのに、どうして彼女は? リーナは泣きながら、マンディがいてくれれば、それだけで幸せなのにと訴えた。だが、マンディは同意せず、断固として条件を言い張った。ロイをふたりの生活に加えること。さもなければ離婚すると。それだけのことだと。リーナは選択肢がないことを悟り、同意した。嫌々ながら同意した。

ロイが移り住んできたが、彼が完璧なほど思慮深い人間であるのを知り、リーナは驚いた。彼はマンディとリーナの関係に割り込んでくることはなかった。確かに、彼はマンディと肉体交渉をしてきている。何年も前からそうしてきている。リーナはそれを知っていた。だが、この家に越してきた彼は、一線を越えてリーナの気分を害するような振る舞いをすることは一度もなかった。さらには、マンディと一緒の寝室にリーナを誘うことすらあった。それについては、リーナはいつも断っていたが。

それから8ヶ月が経った。マンディは家から離れてすごす時間が増えていた。彼女はいつも出張だと言っていたけれど、それ以上、詳しいことは何も言わない。その結果、家にはリーナとロイのふたりだけになることが多くなった。リーナもロイも、それぞれ慰安を得る相手がいない状態が続いた。

そんな状態でいたある日、リーナは酔った勢いでまちがいを冒してしまった。酔った勢いで、彼の高校時代のイジメ対象であるロイにフェラチオをしてしまったのである。そう言われたからでもなく、自分から心に決めてしたわけでもなかった。ただ、自然にそうしてしまったのであった。

だがリーナ自身、意外に感じたことだったが、リーナもロイも、それを楽しんだのだった。それから間もなく、その行為はマンディが家を離れている時には普通に行われる行為になった。

そしてある日、マンディがロイとリーナに宣言した。彼女はフランスに引っ越すと、もうロイとリーナとは離れると。リーナはマンディに思いとどまるよう懇願した。ロイも同じことを言ったが、リーナほど心は籠っていなかった。彼はこうなることを知っていたかのようだった。実際、彼は知っていたのだろう。

マンディがフランスに発ってから1週間が過ぎた。リーナはその時になってようやく、ロイとふたりっきりになったことを受け入れた。もはや、行為をフェラチオで終わらせる理由はなくなっていた。

リーナはロイに自分を与えることに決めた。それ以外にすることがあるだろうか? 自分には仕事をするスキルがない。友人もいない。自分に何か期待する家族もいない。自分はロイに依存することしかできないのだ。そして、ご主人様を気持ちよくさせること以外に、専業主婦のすべき大切な仕事はないなのだから。




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