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It had to happen 「あの時はどうしても」

「ケネス、あたしに……ここであたしに会うとは思ってなかったでしょうけど」とライラは腕組みして言った。「でも、これはやっておかなくちゃいけないの。このことについて、ふたりで真剣に、正直に話し合わないといけないと思うから」

ケネスは顔をしかめた。自分のことを男性の名前で考えるのは、もう何か月も前にやめていた。だけど、彼女は自分の裸体を隠すことはしなかった。隠れることに飽きあきしていたから。何年も、いや、何十年も、彼女はクローゼットに隠れていた。もう、嘘をつき、隠れる人生を生きることにうんざりしていたのである。とは言え、ライラが望んでいる話し合いを彼女も望んでいるかというと、そうではない。

「ケンナよ。あたしの名前はケンナ」

「そう聞いてる」とライラが答えた。ライラはケンナの横を通り過ぎ、かつてふたりが共有していた寝室へと入った。ベッドに腰を下ろし、うつむいたまま、彼女は続けた。「ここに来たのは、世の中の理屈をお話しして、あなたに正気に戻ってほしいと思ったから。そういう理屈、知っていた? あなたに分からせることができると思ってた。ちゃんと理解させることができると思ってたの」

ケンナは、裸のまま、そして、裸でいることを恥ずかしがっていないように自分に無理強いしつつ、元妻の隣に腰を下ろした。「それで?」

ライラは床を見つめたままだった。「ホルモンはいつから?」

「キミが出ていく1ヶ月前から」

ライラは頷いた。「なら、合点がいく」 彼女は顔をあげた。目には涙が溜まっていた。「あたしに話してくれたらよかったのに。あなたのそばで力になってあげられたかもしれないのに。あなたの気持ちは分かってるわ……あたしたち、一緒ではないのもわかってる。でも、あたしはあなたの友人にはなれたかもしれないのよ。あなたの変身を手助けできたかもしれないの。もちろん、あなたにはあたしの力が必要と言いたいわけじゃない。あなた、驚くほど素敵だわ」

「ありがとう」とケンナは言ったが、その感謝の言葉にはほとんど感情がこもっていなかった。実際、彼女は元妻に関する心的戦いの真っ最中だった。確かにライラの表情には後悔や自責の念が浮かんでいた。だけど、だからと言って、彼女がケンナの「異常性」に気づいた時にどんな反応を示したか、決して忘れることはできなかった。皮肉でも上品な反応とは言えない反応だった。叫び、怒鳴り、物を投げる。その間、ケンナは、似合わないドレス姿と不器用な化粧の顔で、ライラがいま座ってる場所から遠くない場所に突っ立ったまま、ただそれを受け止め耐えるだけだった。

当時、ケンナは異性装者としてバレることを恐れていた。侮辱されることに恐怖を感じていた。そしてライラが離婚届を出し、ケンナは破滅的に落ち込んだ。とは言え、そのことは、ケンナが自分自身に目覚め、変身し、最終的には幸福になるための刺激になった。彼女を押し留めてきた結婚というしがらみが消えた以上、女性に変わらない理由はほとんどなくなったのである。であるから、ある意味、人生で最も屈辱的な一日が、最良の日にもなったのだった。

「自分でも何故ここに来たか分からないの」とライラはすすり泣きながら続けた。「思うに……多分……謝りたかっただけかも。ひどい反応をしてしまったと」

「いいのよ」とケンナは元妻の太ももを軽く叩きながら言った。「本当に、もういいの」




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