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An Affair 「情事」

「こんなこと、もう続けられないわ」と、後ろにいる愛人を振り返りながら言った。ああ、彼のことを愛人だなんて思うこと自体、良くないことと感じる。でも、本当のことだったし、ほぼ1年間、そういう関係が続いていた。「もう止めなくちゃいけないわ、ジェームズ」

「そうかな?」とベルトを外しながら彼は言った。「君は、このささやかな密会のために生きているんだよ。僕には分かる」

「そうじゃないと知ってるくせに」とあたしは顔を背け、前を向いた。「他のいろんなことよ」

何秒も経たぬうちに彼があたしの後ろに来た。わざわざ見なくても、彼が素裸になっているのが分かる。それに、すっかり固くなっていることも。彼はあたしの腰に手を添え、つぶやいた。「他のいろんなこと……」 長くため息をついた後、彼はあたしから離れ、言った。「僕にしてみれば、他のいろんなことなんて、どうとでもなれと思うけど」

あたしは手を頭に掲げ、リアルっぽいウィッグの黒髪を掻いた。「あなたには、そう言うのは簡単でしょうね。妻もいなければ、家族もない。あなたを頼りにしている何千人もの人々もいない……」

「君は市議会議員だろう?」と彼は遮った。「大統領じゃないんだ。それに君の妻も子供たちも君のことを嫌っている。ブリタニーはもう何年も前から浮気を続けている。彼女は君を愛していないし、これまでも一度も君を愛したことなどなかったのだよ。少しでも君に関心があったら、とっくの昔に君の変化に気づいていたはず。だけど、彼女は自己中心的な女なので、全然、気づかなかった」

「それが彼女なの」 怒った声で言ったつもりだった。そういう声を出そうとした。けれど、実際には、泣き声に近い声になっていた。ジェームズが言ったことは正しい。そこまで言われることを認めたくはなくても、自分でも事実だと思っていた。「それに、愛情とかそういうことよりも、複雑なの。あたしにはもう……」

「君がオフィスですっかりドレス姿になっているのを見た瞬間、僕は何が欲しいか分かったんだ。君も覚えているだろ? 僕も君も、ふたりとも、それぞれのオフィスで夜遅くまで働いていた。君はオフィスには誰もいないと思ったのか、ちょっと羽目を外してみようと思った。でも、僕も残っていたんだよね。そして、僕は君の本当の姿を見たんだ」

「あなたったら、その場であたしをデスクに押し倒して、あたしを犯したのよ?」と、あたしは懐かしむように思い出した。

最初は、ちょっとは抵抗した。男性だけの美人コンテストに参加するため、試しに女装したのだと嘘をついた。でも、彼にはすべてお見通しだった。彼は、ひと目あたしの姿を見ただけで、すべてを理解したのだった。そして、その後はと言うと、1年以上にわたる愛人関係。毎週、週末になると、他人目につかないところにふたりでしけこみ、一緒にすごす。ホルモン摂取も始めた。上半身はあまり成長しなかったけれど、どんな男性よりも体が柔らかな丸みを帯びているのは間違いない。その体を大きめのスーツを着て隠してきたが、今や、もはやこれ以上、変化を隠し続けることができないほどにまでなってきていた。

でも、身体的変化は氷山の一角にすぎない。長年、女装を続けてきた人間として明確に言えることだが、このジェームズほどあたしを肯定的に励ましてくれた人は、誰一人いなかったのだった。ましてや、男性でこれほどまでに言ってくれた人はいなかった。そんな彼の励ましを受けた結果、あたしは自信を持った女性へと変わっていた。現実の生活から離れた場合だけに限るけれども。

「そ、そうね、あなたが正しいわ、ジェームズ。みんなに言うべき。すぐにそうしなければいけない。でも今は……一緒にここにいましょう。この瞬間だけは一緒に。あれ、あたしにしてくれる?」

彼は微笑んだ。「君のためならどんなことでもできるよ。愛しているから」




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