「バースデイ・プレゼント」 第9章 original 第8章の続き

ドーナッツを食べた後、ドナは、シャワーを浴び、ショッピングに行く準備を始めるわ、と言った。僕にも、化粧をし直し、新しくちょっと香水もつけ直したほうが良いと言う。彼女は、寝室内のバスルームにシャワーを浴びに行き、僕は寝室の外にあるバスルームに行った。

鏡の前、ティッシュを使って、乱れた口紅をぬぐい取り、新しくつけ直した。唇の輪郭を描くようにして、口紅をつけ、唇全体にのばしていく。

ふと、自分は何をしているんだろうと思った。いつから僕は自分の唇のことを綺麗だと思うようになったのだろう。ドナが僕の唇にグロスを塗る前は、そもそも自分の唇のことを表現するのに、「綺麗」という言葉を使うことすら考えなかった。それが今は、突然に、自分の唇を「綺麗」だと思っている。

口を半開きにして、ピンク色の舌を出し、唇にゆっくり這わせた。頭を振って、ブロンド髪の毛を自然な感じでふわりとさせる。ブラウスのボタンを2つほど外し、ドナの香水を黒いレースブラの谷間にスプレーした。それが蒸発し、胸の谷間から香りが立ち上ってくるのを嗅ぎながら、うつむき、自分の胸元をのぞきこむ。鼻から深呼吸し、豊かな香りを楽しんだ。

顔をあげ、鏡の中の自分を見ながら、ブラウスの中に片手を差し入れた。ブラジャーの中、自分の乳首をつねってみる。すると、全身に興奮が走り、ペニスが再び硬くなってくるのを感じた。ピクピクと跳ね、血液がそこに集まってくる。僕はもう一方の手で、その位置を整えた。鏡を見ながら、乳首をつねり、ペニスを撫でる。

ふと、自分がどんなことをしているのかに気づいた。僕は、鏡の中の女性に愛の行為をしているではないか。しかも、その女性は自分自身でもあるのだ。

僕は自分自身に対する愛撫をやめ、ブラウスのボタンを留めた。ブラウス、唇、胸、ブラジャー、パンティ、ガーター、ストッキング、そしてハイヒール。僕は何をしたんだろう? どこへ向かっていたんだろう? 鏡の中、誘惑する目で僕を見つめている、この女性は、いったい誰なのだろう?

僕はビクトリアとの恋に落ちている。だが本来のビクターはどこにいるのだろう? ビクトリアがリアルになっていくのにつれて、ビクターがますます存在感をなくしていくように思えた。そんなことがあってはならない。僕はビクターだ。僕にはドナという妻がいる。仕事がある。僕はハンドボールを楽しむスポーツマンだ。僕は女ではない。

僕は、今や柔らかく萎えたペニスに手をあてた。・・・女であるわけがない。

僕は熱から冷める気がした。興奮溢れるセックスは好きだが、今のセックス・プレーはやりすぎだと悟った。

かつらをはずし、ブラウスを脱ぎ、カウンターの上に置いた。前のめりになり、苦労しながらもハイヒールの留め具を外し、足から脱ぎ、それもカウンターに置いた。きついジーンズのチャックを下ろし、腰をよじらせながら、尻を出し、皮を剥くようにして足から外した。

体を起して鏡を見た。化粧顔、黒レースのブラジャー、黒いガーターベルトとストッキング、そして黒の絹パンティの姿がそこにあった。僕は決意を固めて、鏡の中の自分にバイバイと手を振った。

ブラを腹まで降し、半回転させてホックを外す。パンティを脱ぎ、ブラと一緒にカウンターに置いた。ガーターのホックを外し、それも脱ぐ。それからスツールに座り、ストッキングを注意深く丁寧に丸めながら脱ぎ去り、それもほかの衣類と同じ所に置いた。

もう一度、鏡を見る。素っ裸。体毛がない。だが胸元からは香水の香りがしてくるし、顔にも化粧がついたまま。

「ビッキーちゃん、さようなら。楽しかったけど、僕は自分に戻らなければならないんだ」

そう言って、シャワーに入った。お湯を調節し、コールド・クリームを取り顔を洗い始めた。お湯で顔を洗い流した後、体に石鹸をつけ、香水の香りを洗い落した。ホラー映画の有名なせりふが頭によぎった。

「戻ってきたぜ!」

『エルム街の悪夢』に出てくるフレディーの声を真似て、にやりと笑いながら、シャワールームを出た。寝室に入り、引出しからBVDと、僕のジーンズ、シャツ、そして白いソックスを出した。素早くそれに着替え、テニス・シューズを履いた。

再び、鏡の中を見る。この2日間ほど、いろんなものを着せられ、女のように泣かされたにもかかわらず、ひどい顔をしてるわけでもないなと思った。にやりと笑い、男が着替えるには、女ほどは時間がかからないものだなと思った。

彼女の側から

シャワーを浴び、お化粧をし、服を着てから、ビクトリアがテレビを見ている小部屋に行った。ビックが、男物のジーンズとTシャツ姿でソファに座っているのを見て、ちょっと立ち止まってしまった。こんなことを思いつくべきではなかったのかもしれないけれど、ヴィクトリアに服を買って、それを遊びにすることを楽しみにしている自分がいる。お店に行って、彼をからかったり、時々、彼に恥ずかしい思いをさせたりすることによって、彼を一日中、興奮したままにさせられるかもしれない。

私は、彼が男物の服に変わってしまったのを見て、がっかりした気持ちを口に出し始めた。けれど、すぐに、考え直した。彼は、男女の入れ替わりによる一種のパニックになっているのかもしれない。私も、彼が男であることを固守するような状態にだけはさせたくなかった。私は、どっちのペルソナになっていても彼のことを愛している。とは言え、彼を女性化した方が、ずっと刺激的だとも感じていた。

「あなた? 今日はあなたはビックでいることに決めたようね。まだ私とショッピングに行く気がある?」 ビックが断らないようにと期待しながら、にっこり笑って訊いてみた。

「ああ、もちろん。一緒に行くよ。女の格好をして出かけることに、かなり変な感じをしていたところだし。つまり、家にいて、君と女性の格好でセックスをするのは、それはそれで興奮したけど、女装愛好家みたいに女性の格好をして街を歩くのは、僕には賢いこととは思えなくなっていたから。街中に、僕の顧客や友達がいるわけだし、その人たちを失うわけにはいかないよ。僕たちのゲームは、僕たちの中だけにしておこうよ。それでいいよね?」 彼は、出かけようと、立ち上がった。

「いいわ、ビック。ちょっと、あなたが、女性の格好でショッピングをしたら興奮するかも知れないと思っただけ。でも、そうでなくても楽しめるのは変わりないから」

私は、ピンク色の爪のままの彼の手を取って、玄関へ向かった。思い返すと、このところ、私は、いつも頭の中で何か小さな計画を立てているのに気づいた。今も、今日のための計画が頭の中で出来上がりつつあった。さてさて、どうなるかお楽しみ・・・車の助手席に乗り込みながら、私は密かに心の中で思った。

町はずれにできた新しいモールの入り口を入ると、ビックはすぐにスポーツ用品の店に目をつけた。私を引きずるようにしてその店に入り、早速、新しいハンドボールのグラブを買った。

スポーツ用品店を出ると、今度は私がビクトリアズ・シークレット(参考)の店を見かけ、ビックをウインドウへ引っ張った。ウインドウには、可愛いピーチ色のブラ、パンティ、ガーター、そしてストッキングを身につけたマネキンが飾られていた。ビックが、笑って受け流した後に気がついて、ハッともう一度見返すのを見た。

「この下着のセット、ゴージャスよね?」

ビックは頷きながら、このアンサンブルに目を泳がせていた。レースの飾りや、繊細で女性的なデザインに特に視線を向けている。単に注意を惹かれている以上の魅力を彼に与えているのは確かだった。ビックは、これを見ながら何を考えているのだろうと思いをめぐらす。彼は、かすかに顔を赤らめながら立ち去ろうとした。私は彼を止めた。

「ねえ、ちょっといいでしょう? 中に入って、いくらするのか確かめましょうよ。あなたも気に入ると思うから」

私は夫の手を取り、ランジェリーショップに引っ張り込んだ。すぐに、可愛い顔の売り子さんが近づいてきた。

「何かお探し物でしょうか?」

「ええ。あのウィンドウにあるピーチ色のセットはどこにあるのかしら?」

彼女はにっこり微笑み、私も素敵なセットだと思っているんですよと言いながら、私たちを商品を展示してるところに連れて行った。ランジェリーセットのところに来ると、ビックは手を伸ばし、レースのブラを取り上げた。売り子の女の子が、ビックのピンクのマニキュアを塗った爪を見て驚くのが見えた。彼女は何を思っただろう?

「これ、素敵ね。ねえ、ビック? これを着けたところ見てみたいと思わない?」

そう言うと、愛らしい顔の店員さんが済まなそうに口を挟んだ。

「申し訳ございません。店の方針で、下着類に関しては試着できないのです」

「ああ、でも、私たち、絶対これを買うつもりだから。このタグを全部外して、レジに持って行ってもいいのよ」

「あ、承知しました。でしたら、お客様のサイズに合うものを探しますね。試着室は、あちらになります」 彼女は指差しながら答えた。

「サイズに合うものは自分でできるわ。ありがとう。・・・あちらのお客さんが何か困っている様子よ」 私はそう言って、向こうの方にいた女性客を指差した。

売り子の女の子がその女性客の方へ行った後、私は素早く、ビクトリアに合うと思われるサイズのアンサンブルを集めた。でも、彼には私がしていることについては知られないように。

「ビック、一緒に来て。似合うかどうか一緒に見ましょう」

「君に似合うのは分かっているよ。君一人で試着してもいいんじゃないかな。僕はモールをぶらついて待ってることにするよ」

「お願い、一緒に来て」 私は夫の手を取った。「あなたの意見が聞きたいから」

彼は、しぶしぶ私に同行して、狭い試着室に入った。ドアを閉め、掛け金式の鍵をかける。

私は振り返って彼と対面し、セクシーに体を摺り寄せた。

「ここ、居心地が良いと思わない?」 彼の股間に手を這わせる。

「ん、ああ・・・すごく」 そう言って、彼も股間を私の手に押し付けてきた。

私は手を上下に動かして、彼のペニスを擦りながら、セクシーにディープキスをした。彼が固くなってくるのを感じた。それから両手を彼の胸に這わせ、彼の乳首をきつくつねった。

「痛っ! そんなに強くしないでくれ」

彼は私を強く抱き寄せ、ねっとりとしたキスを返してきた。手を私の腰にあてがい、私の下腹部をぐっと引き付ける。

私は優しく彼の抱擁から逃れて言った。

「わあっ、すごい・・・興奮しすぎて自制が効かなくなってしまう前に、このランジェリーを試着してみましょう」

そう言って、私は彼のTシャツを掴み、裾から捲り上げ始めた。

「え、何をしてるんだい?」 私をやめさせようとしながら彼が言った。

「Tシャツを着たままじゃ、ブラジャーを試着できないわ。さあ、両腕を上げて」

彼は、私が意図してることを悟り、顔を赤らめた。いやいやながら、両腕を上げる。私は、Tシャツを引っ張って、彼の頭から脱がせ、ベンチの上に放り投げた。そして、可愛いピーチ色のレース・ブラを取り上げ、タグを外した。

「両腕を前に出したままにしててね」

私は彼の上に繊細な出来のブラジャーのストラップを掛け、するすると滑らせながら彼の胸に着けた。そして彼を後ろ向きにさせ、ホックを留めた。それから、もう一度、前向きにさせて、彼の胸肉を手繰り寄せてカップの中に押し込んだ。大きくはないが、ちゃんと乳房らしく見えるし、胸の谷間も出来上がった。私は、彼にも鏡に映る自分の姿が見えるように、すこし脇に避けた。彼が、可愛いブラジャーを着けた姿を目にし、目が少し輝くのが見えた。また、ビクトリアが戻ってきたと分かる。今日は最後までビクトリアでいてもらうつもり。このショッピング巡りも楽しいことになりそうに感じた。


つづく
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