「バースデイ・プレゼント」 第4章 (1/2) original 第3章の続き

妻のドナが運転する車に乗せられるのは、変な感じがした。遠出の時、運転に疲れて替ってもらう時を別にすれば、普通は、いつも僕が運転をするからだ。

僕たちは、とあるサンドイッチ店の駐車場に車を入れた。彼女がエンジンを切ったのを受けて、僕は車から降りるためドアを開けようとした。

「まだ、出ないで」

そう言って妻は僕を止め、車から出て、助手席側に回り、僕のためにドアを開けた。

隣の駐車スペースに止まった車に乗っていた人たちが、不思議そうな顔で僕たちのことを見ていた。彼らは、僕が妻の助けを借りずに車から降りるの見るまで、僕がハンディキャップを持った人だと思っていたのだと思う。

店内に入ると、ドナは何を食べたいか訊き、僕は食べたいものを告げた。彼女は、カウンターで注文してくる間にテーブル席を確保するようとに言った。

席を見つけ、腰を降ろす。すると、近くのテーブルに、先程、僕たちの車の隣に止まった車に乗っていた女性がいて、僕のことを見ているのに気がついた。

僕は、両手をテーブルの上に乗せて座っていた。だが、明るい店内では、僕のマニキュアを塗った爪が、誰の目にも明らかに見えているのに気づく。僕は顔が赤らむのを感じ、素早く両手を膝の上に降ろした。あの女性は僕の慌てた様子に気づいたようで、失礼にならないようにと思ったのか、僕から目を背けた。

ドナは、テーブルへ来る途中、あの女性が再び僕たちのことを見てるのに気づいたらしい。軽く微笑んで彼女に声をかけた。

「このお店のサンド、美味しいわよね?」

その女性も笑みを返し、自分もこの店の食べ物を気に入っていると返事した。

妻は僕を見て言った。

「あなたも、ここのサンドイッチ好きでしょ? ハニー?」

ハニーと呼ばれ、僕はまた、顔を赤くしてしまった。恥ずかし過ぎて返事ができない。妻はその女性に返事した。

「夫はいつも私が食べたいものに付き合ってくれるの。そうよね、ハニー?」

僕は頭を縦に振って、同意するだけだった。

「まあ、本当に優しいご主人なのね。私なんか、主人が食べたいものにむりやり付き合わされることがしょっちゅうよ」

「まあ、私たちも前はそういう風にしてたんだけど、最近、ビッキーは・・・あ、夫のビックのことだけど・・・ビッキーは私の側から物事を見て、理解しようとしてくれているの」

「それって、すごく魅力的なことだと思うわ。女性の視点を思いやれる男の人が多くなるべきよ。そうすればもっとうまくいくようになると思うわ」

「ええ、そうなの。ビックと私は、信じられないくらいうまくいってるのよ。昨日、彼、とても特別な誕生日を迎えたの。その時の余韻がまだ今夜も続いていると思うわ。ねえ、そうでしょう、ビッキー?」

妻は僕に顔を向け、ウインクして見せた。妻が彼女の前でちょっとした遊びを演じているのを僕に知らせるためだろう。僕は、動揺した心を鎮めながら、妻の遊びに付き合うことに決めた。両手をテーブルの上に出して見せた。

「ええ、私も妻の言う通りだと思うんです。それに、私の仲間はとても経験豊富な人たちで・・・ちょっとビックリするような経験かもしれないけど・・・」

僕はそう言いながら、マニキュアを塗った指で、細く毛抜きした眉を撫でた。繊細な手つきでするのを忘れない。それから、グロスを塗った唇を軽く舐めた。

僕は、その女性の視線が、僕の眉と爪から下方へ降りて唇へと移り、さらに僕の胸・・・いや、胸板へと降りるのを見た。彼女は僕のシャツの中、ブラジャーの線が透けているのを見たはずだ。

僕は両手をテーブルの上に降ろした。彼女は、自分の夫がテーブルに近づいてくるのに気づいたのか、僕に笑みを見せて言った。 「それに、そのお手て、とても可愛いわ。うふふ」

ドナが席に座り、ウエイトレスの女の子が料理を持ってくると、彼女との会話は終わりになった。ウエイトレスの娘は、バイトと思われるキュートな女子高生だったが、僕に視線を向け、僕が置かれたプレートの位置を調整するときの指先を見て、にんまりと笑った。僕は素早く両手をテーブルの下に戻し、膝の上に置いた。妻と先の女性との言葉での遊びに付き合うことは構わないが、10代の若々しく美しい娘に僕の女性的な装飾を気づかれるのは、困る。

ウエイトレスの女の子はカウンターに戻り、一緒に働いている女の子に何か囁いた。それを見て僕は再び顔が赤くなるのを感じた。小さな声でドナに言った。

「誰にも分からないって? ふーん。僕を見たどの人も気がついていると思うよ。僕を知っている人がここに来ていなくてよかったよ。こういうことをするなんて賢いことじゃないよ。僕が街中の笑いの種になる前に、早く食べてここから出よう」

妻は手を伸ばし、マニキュアを塗った僕の両手を自分の両手で包んだ。僕の瞳を覗き込みながら言う。

「でも、あなた? あの女の子たちがあなたに気づいたとして、あの子たちあなたに何かネガティブなことを言った?」

確かに、彼女たちはそんなことは言っていない。

「女って集まっておしゃべりをするものなの。それに、自分たちの夫が1日でいいから、自分たちが履いてる靴を履いて歩き、女性がどういう風に生活を経験しているか分かってくれたらと思ってる人が、少なくとも2人以上はいるのよ。私とあのご婦人。あなたは、男らしくないからとあなたを馬鹿にする女性より、女性を理解しようとしていることで、あなたを尊敬する女性の方が、ずっと多いことに気づくことになると思うわ。・・・だから、リラックスして。美味しいサンドイッチを味わって。誰もあなたの邪魔をしないから。少なくとも私が一緒にいるときは、誰にもそんなことさせない。今夜は、私があなたを守ってあげる。誰でもいいから、あなたの気分を害するようなことをして御覧なさい、そうしたら!」

妻は、そこまで言って、サンドイッチをがぶりと噛み付いた。

僕もサンドイッチを取り、最初の一口を食べた。その時、僕たちに話し掛けていた女性を見ると、僕の指のピンク色の爪を見てウインクして見せた。僕は頭を小さく振って、恥ずかしげに微笑んだ。サンドイッチを皿に戻し、ナプキンを取って上品にリップ・グロスをつけた唇を軽く叩き拭いた。

食べ終わり店を出ようと立ち上がると、先の婦人が僕たちに微笑み掛けた。

「あなたたちに会えてとっても良かったわ。お誕生日おめでとうございます。あなたたちのおかげで、この次の夫の誕生日に何をしたらよいか、とても良いことを思いついたの。夫はビックリ・プレゼントが大好きなのよ」

その人たちのテーブルの横を歩きすぎるとき、彼女の夫が言うのが聞こえた。

「どんなビックリ・プレゼントなんだ?」

「あら、今ここで言っちゃったらビックリ・プレゼントにならないじゃない。そうでしょ?」

振り返って彼らのテーブルを見ると、例の女性は僕にウインクして見せた。彼女の夫も僕を見ていたが、不思議そうな表情を浮かべて、歩き去る僕たちを見ていた。

店から出ようとトイレの前を通りかかったとき、妻は、僕に手を差し伸べ、何か手渡した。

「ちょっとトイレに行って口紅を直してくるわ。2、3分でここに戻ってくるから」

そう言って女子トイレに入って行く。顔を下げ、自分の手を見ると、そこにはピンクのリップ・グロスのビンがあった。僕は素早く手を握り、見られていなかったか、周囲を見回した。気づいた人は誰もいないようだ。そして、どうして彼女がこれを僕に手渡したのか悟った。少し考えたものの、結局、嫌々ながらも僕は男子トイレに入った。

中には誰もいなかった。僕はビンを振り、ふたを開け、口紅にグロスをつけ始めた。ヌルリと滑らかなピンクのグロスを唇に塗りながら、何かゾクゾクする感覚が生じるのを感じた。最初に上唇に、次に下唇につけ、その後、唇を少し尖らせるようにして、上下の唇を擦り合せた。そして、ハケを元の小瓶の中に収める。

ちょうどその時、いきなりドアが開いて、僕たちの隣のテーブルに座っていた夫婦の夫の方がトイレに入ってきた。僕は顔を赤らめながら、鏡から彼へ顔を向けた。男は、僕がリップグロスをつけていたのを目撃したらしい。

「いや、私が来たからって止めなくてもいいんだよ」 彼はニヤニヤ笑っていた。「その色は君に合ってると思うから」

僕は顔から血の気が失せるのを感じた。胸がキュウッと締め付けられる感じがした。自分が気絶しそうになってるのではと思った。

彼の顔に、何か警戒するような表情が浮かんだ。

「おい、大丈夫か?」

彼は、僕の腕を取り、僕の体を優しく支えてくれた。

「いや、怖がらせるつもりはなかったんだよ。私も、さっき、食べている時から、ちょっと気づいていたんだ。いや、私は君にとやかく言うつもりはまったくないんだ。多分、君たち夫婦は、何か、勇気を試すゲームか何かをして遊んでるんだろうなと思ってね。それにしても、奥さんは君にそういう格好で外に出させたのだろうけど、君はそれを容認したわけだろう? いやあ、君はすごく肝っ玉が据わっている男に違いない。バスケットボールくらいのタマじゃないのか。あっぱれだよ。君の努力に奥さんが報いてくれるよう、私も願っているよ」

「ああ、いやすでに妻にはかなり報いてもらってるのは確かなんですよ。でも、その報いがあっても、こういう格好で公衆の面前に出るのは恐ろしいことです。本当に」

気持ちが、少しだけ普通に戻ってくるのを感じた。

「でも、多分、気づいた人が何人かいるかもしれませんな・・・ところで、それ、ナイスなブラですなあ」 

彼はニヤリと笑って、僕の胸元に視線を落とした。見ると、シャツのボタンが1つ外れて、黒いレースのブラが少しだけ見えていた。僕は、再び顔を赤らめながら、素早くシャツのボタンを締め直した。

「それに、ハニー! 君の爪も、口紅の色とうまくマッチしている! ハハハ!」

彼は笑いながらウインクをして見せた。彼の妻が先に僕にして見せたウインクの真似をしてるのだろう。

「これは夫婦の間のアレのためかな? だとしたら、今夜の夫婦の営み、素晴らしいものになるといいですな! うらやましいですぞ! アハハ!」

僕もにやりと笑った。気分を取り直し、かなり長く伸びてしまった髪の毛を額から掻き揚げ、軽く舌で唇をなぞり濡らした。

「あなたも、夢にも思っていらっしゃらないとは思いますが・・・」 そう言いながら、トイレのドアを開けた。「・・・今年のあなたのビックリ誕生日パーティ、十分お楽しみください。それに、奥様のためにちゃんとビックリして差し上げることも忘れずに!」

ニヤニヤしながら僕はトイレから出た。妻は外で待っていたが、僕の笑顔を見たようだった。

「何をニヤニヤしているの?」

「あ、いや、たいしたことじゃない。ちょっとした女の子同士の冗談を言い合ってきたのさ! アハハ!」

ちょうど出口に差し掛かったとき、出口のドアが開いて、外から僕の秘書のゲイルが入ってきた。驚いた顔で立ち止まり、僕の姿を見つめる。彼女の目が、僕の顔をざっと確かめた後、胸へ下り、それからジーンズへ降りたのを見た。ドナも彼女の表情を見たようだった。微笑みながら彼女に声をかけた。

「まあ、ゲイル! ここで会えるなんてすごい偶然。ちょっと前に、あなたのことを話題にしていたところなのよ。私、あなたともう一度、ランチを一緒にしなきゃいけないって言ったの。ねえ、明日、私と一緒にお昼を食べない? 私たち女だけで? ビックは構わないでしょう? ね、ハニー?」

そう言って、ニヤニヤしながら片手で僕の腕をつかみ、もう一方の手でゲイルの手を握った。

「話したいことがいっぱいあったのに、あなたにずっと会っていなかったんだもの」

ドナは、愛らしい笑顔をゲイルに向けた。

ゲイルは僕を見ながら微笑んだ。

「ええ、女の子同士のお昼のお話、素敵だわ。そのときとばかり、男性が決して興味を示さない、可愛い女の子っぽいことを、たくさんおしゃべりできるんですもの?」

そう言って、視線をドナに向け、もう一方の手をドナの手に重ね、軽く揉み、微笑んだ。手には長く、赤い爪が目立っていた。ゲイルは、ドナの瞳をじっと覗き込み、猫なで声で言った。

「それに、私、あなたがたご夫婦のうちの、素敵な片方のお方をもっとよく知りたいと、ずっと前から思っていたのよ」

ゲイルはにやりと笑みを浮かべ、僕の方を向いた。

「ボス? ただのお遊びですから。それに、ボスはとても素敵な感じに調子を合わせていらっしゃると思いますよ」

「そうでしょう? 前と違って」 ドナはふざけ混じりで言い、僕の方を向いた。「私たち、夫の身だしなみや服装について、いろいろ試しているところなの。そうでしょ? あなた?」

「オフィスでは、ご主人のスケジュールなどについて、私がちゃんと調節いたします。それに、新しいビジネスを得る際には、見栄えや第一印象は重要だと思っていますので、何か私が手伝えることがありましたら、教えてくださいね」

「それはとても助かるわ。親切なのね、ゲイル。あまりあなたのお仕事の邪魔はしたくないけれど、あなたの助けに頼らなければならなくなるかもしれないわ」 

ドナは、ゲイルの手を握り返した。

「アルアさんは、思いやりがあるし、思慮深く、これまでも私にとって素晴らしいボスでした。私、こんな快適な職場につけて、とても感謝しているんですよ。それに、あなた方お2人ともとてもビューティフルな人たちなので、私、できる限りの協力を喜んでしたいと思っているんです。私にできるなら、ビューティフルな人たちを、もっともっとビューティフルにしてあげたいと、そう感じているんです」

ドナは、ゲイルのお世辞を嬉しそうに受けながら、彼女の目を覗き込んだ。

「ほんと、今から思うと、もっと前からあなたと知り合いになっていたらと思うわ。あなたとはもっと親密になりたい気持ち。お願いすることがあると思うわ。もっとも、職場に持ち込めないこともあるだろうけど」

「私も同感です。もっと前から知り合いになっていたらよかったのに。今夜、こんな風に偶然、あなた方とばったり出会って、本当に嬉しく感じているんですよ。明日、ドナさんと一緒にランチを食べるのが本当に待ち遠しい。すごく楽しそう。ビクター・アルアさんをもっとアルア(alllure:魅力的)にする方法を話し合ってもいいかもしれませんね。うふふ。駄洒落、ごめんなさい。でも、ドナ? 私が言いたいこと分かっていただけるでしょう?」

ゲイルは、そう言うと上半身をドナに近づけ、彼女の頬にキスをした。だが、頬とは言えかなり唇に近い場所だった。

「それでは」

ゲイルは僕の方を向いて、目立たないように両手で僕のブラのところに軽く触れ、ドナにしたのと同じように、僕にも軽くキスをした。

「私、あなた方お2人が大好きです。じゃあ、ボス、また明日」

彼女はそう言ってレストランの中に入っていった。

ゲイルが見せた親しみあふれた振る舞いに僕は頬が赤らんだ。彼女の香水の香りも漂っている。それを感じながら、僕は、ドナが、男性が女性に対して行うように、僕に先んじてドアを開け、腕を取って外に導くのを許した。僕の腕を取った妻の手が、僕のブラを軽くこすっているのを感じた。車に乗るときも、妻は再び僕のために助手席のドアを開け、乗り込むときも、腕を優しく支えてくれた。彼女は、助手席のドアを閉めた後、車の周りを回って、運転席に乗り込む。

ドナは、微笑みながらまっすぐ僕の顔を見て言った。

「すっごく楽しくない? ビクトリア?」

そう言うなり、彼女は運転席から僕の方に体を傾け、甘美でねっとりとしたキスをしてきた。彼女の舌が僕の口の中に滑り込んでくる。同時に、彼女の手が僕のパンティに包まれたペニスを優しくさすった。僕は、そこが再び活気付くのを感じた。

「これからものすごく楽しくなるわ。私のガールフレンドちゃん」

そう言って車のエンジンをかける。

「さあ、私たちの愛の巣に帰りましょう。もうすぐベッドに入る時間!」


つづく
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