「ジャッキー」 第3章 Jackie Ch.3 by Scribler 出所 第1章第2章
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これまでのあらすじ
ジャックは結婚して半年になる妻のアンジーが浮気をしている現場を見てショックを受ける。そして、彼はアンジーと知り合った頃を回想するのだった。彼はある法律事務所でバイトをしていたが、あることをきっかけにすご腕の上司アンジーの元で働くことになる。仕事を通じ二人は親密になっていった。アンジーはケルト祭りにジャックを誘った。その祭りでは、男はキルトのスカートを履く。

僕にとって、その日の朝はあっという間に来たような感じだった。土曜日だったが、アンジーと僕が仕事について予定がない土曜日は、この日が始めてだった。すでに8時には、僕は外出の支度ができていた。アンジーの家までは車で20分もあれば行ける。

以前にも何度かアンジーの家には行っていたが、これまではいつも仕事関係でだった。社交的な意味で彼女の家に行くのは始めてだった。僕は興奮していたが、興奮していたという言い方では、足りないだろう。昨日の夜、彼女がキスをしてくれた、その仕方、それに、僕に身体を擦りよせていたやり方… その振舞いからも、アンジーが、僕が彼女に寄せている気持ちと同じくらい、僕に興味を持っていることが分かった。それを思うと、いっそう僕の興奮は燃え上がった。

ここ2週間ほど、寒い時期が続いていた。その日の朝も、気温は摂氏7度前後を行き来していた。幸い、天気予報によると、午後には18度くらいになると言う。

気温が低かったので、ドッカーズ(参考)の黒いズボン、ウールのタートルネック・セーターを着て、上にジャケットを羽織った。

アンジーの家は裕福な者が住む地域にあった。2階建ての一軒家で、寝室4つに、浴室も3つある。アンジー自身、その家は無駄に広すぎると認めていたが、借家するのは嫌っていたし、その家だと、売却するとき、購入した時よりも高く売れると考えていた。賢い投資と考えているのだった。

9時きっかりにアンジーの家の前に車をつけると、中から彼女が出てきた。靴は、普通の平底の茶色のスリップ・オン(参考)。膝丈までの白いハイソックスと、エメラルド・グリーンのプレード・スカート(参考)を履いて、上は、白のケーブル・ニット(参考)のセーターで、皮のジャケットを着ていた。頭には、スカートと同じ生地でできたベレー帽をかぶっていた。

実際、腰の回りにスポーラン(参考)を付けているのを見るまで、彼女がキルトを履いていることに気がつかなかった。どちらかと言えば、女子高生のような格好に見えていたのである。しかも非常にセクシーな女子高生に。

近づいていくと、アンジーは両腕を広げて出迎え、僕の腰に両腕を巻き付けて抱き、唇にキスをした。何秒かキスした後、彼女は顔を離し、言った。

「うわあ、寒いわね。さあ早く、車に入って風から逃れましょう」

実際、少しだけ風が吹いていた。風にあおられ、アンジーのスカートがめくれるのを見た。

二人で前に朝食を食べたことがあるチェーンのレストランに入った。レストランに入る時、アンジーは僕の手を握った。ウェイトレスに何名かと訊かれた時も、彼女は僕に答えさせ、手を握ったままでいた。席に着いた後も手を離さない。

注文した食事が届いたとき、アンジーに訊いてみた。

「ちょっと変な質問なので、答えてもらえなくてもいいのだけど、ちょっと知りたいことがあるんです。昨日の夜、どうして僕にキスをしたのか… それに、どうして僕にこんなに好感を持ってくれているのか… 何というか、あの資料室の出来事の後、夜にキスしてくれたけど、その後、3か月も何もなかったわけなので…」

アンジーは僕の手をにぎにぎと揉み、笑顔になった。

「したくなかったから何もしなかったわけじゃないの。あなたに対する私の気持ちが邪魔になるのを避けたかったの。もし、私たちが、あなたが固定的にこの仕事を担当することが決まる前に、親密な関係になっていたら、あなたは、そういう関係になったから仕事が決まったんだって思うかもしれないと心配だったのよ。私は、あなた自身の力で、私の担当の地位を勝ち取ってほしかった。あなたも、自分の力で勝ち取ったと知りたかったんじゃない?」

アンジーの言うとおりだった。僕は自分でこの地位を勝ち取ったのを確認したかった。その通りですと答えると、アンジーは、あの眩しそうな笑顔を見せてくれた。

レストランを出た後、僕たちはまっすぐ祭りの会場に向かった。会場は広いグラウンドで、訪れる人の車が長い行列を作って、駐車場に入るのを待っていた。ようやく駐車スペースを見つけ、車から降りたが、アンジーはすぐに僕の腕にすがりつき、一緒に入口に歩き始めた。

僕たちの回りには、キルトを履いた男たちばかり。男たち全員がキルトを履いているわけではないが、多いのは事実だ。

アンジーは、身長180センチ以上で肩幅の広い男を見かけては、指をさして、「キルトを履いてるからといって、あの人、男らしくないと思う?」と僕に訊いた。

ゲートをくぐった後、まずは、丸太投げの会場に行った。キルトを履いた男たちが長い丸太を投げる競技だ。なんでそんなことをするのかわけが分からなかったが、確かに男らしい男がするスポーツであるのは間違いない。アンジーは、男がキルトを履くことについての主張をいっそう支持するために、僕にこれを見せたのだろう。

丸太投げの後は、10代の娘たちのアイリッシュ・ダンスを見た。その次はドッグ・ショー。彼女はずいぶん熱心に見ていた。僕に、犬や猫についてどう思うかも訊いていた。僕は犬が好きだが、猫はあまり好きじゃなかった。

ドッグ・ショーの後、アイルランドやスコットランドゆかりのいろいろな物を売るテントを見物してまわった。あるテントでは剣を売っていた。僕はすぐに夢中になり、気がついたら、全長150センチの幅広の剣を買っていた。鋼鉄は最高の品質というわけではなかったが、かまわない。実際に使うものではなく、飾るためのものだから。

テントを見て回りながら、プレードの色とパターンには意味があることを知った。それぞれの氏族には独自の色とパターンがあって、それでもって自分がどの氏族に属するかを他の者に伝えるのである。それにアンジーが来ていたプレード・スカートも彼女の氏族の色柄になってるのに気づいた。

その時、僕は、こういうところを見てまわっていることがどういう意味を持つのか、気づくべきだったと思う。アンジーは、彼女らしい甘美なやり方で、嗅覚を効かせ、まさに彼女が思う通りに行動するまで人を誘導するのである。

キルト・スカートを売っているテントに入った時になって初めて、アンジーが僕を誘導してきたことに気がついた。

アンジーはスカートが飾ってある棚を見ながら言った。

「ジャック? もし着てみたいのなら、私の家系の色のを着てもいいわよ。あなたのウェストのサイズは正確にどのくらい?」

その時、僕は先へ進めるアンジーをとどめるべきだったと思う。だけど、この時の僕は、彼女にすっかりのぼせ上っていたのだった。それでも、一言だけ言ってみた。

「正直言って、僕はキルトスカートを履きたいとは思っていないんです。そもそも、僕はアイリッシュ系でも、スコットランド系でもないし」

アンジーは手にして見ていたキルトを落とした。「キルトを履くのに、なにもアイリッシュやスコットランド系でなくちゃいけないことはないのよ。でも、本当に履きたくないなら、別に強制はしないわ。ただ、何を身につけるかなんて、あなたが男性らしいかどうかとは何も関係ないと言うことだけは理解してほしいと思ってるわ」

「それは分かってるつもりです。ただ、そういうのは着る気にならないというだけです。キルトスカートを履いて居心地がよくいられるという自信がないというか…」

「でも、一度履いてみるまで、本当に居心地悪いかどうかは分からないんじゃない?」

振り返ると、こういう言い方も、アンジーが、僕に彼女が望むとおりにさせるときの決まった言い方だったと思う。

「ええ、その通りだとは思うけど…」

アンジーは見ていたキルトを取りあげた。「さあ、だったら、一度、試しに着てみたらどう? そしてどんな感じになるか確かめてみたら? もし、本当に居心地が悪かったら、いつでも脱いで構わないんだから」

僕が返事をする前に、アンジーは店員の方を向いて話しかけていた。

「ねえ、私の彼がこれを試着してみたいと思ってるの。どこか着替えができるところがある?」

僕はアンジーが僕のことを「私の彼」と言ったのを聞いてびっくりしてしまった。僕たちはそんなに親密な間柄になっているとは思えなかったから。でも、驚いた状態から覚める余裕もなく、僕は仮の着替え部屋へと連れられていた。

着替え部屋に入った僕は、とりあえず一度はキルトスカートを履いてみても良いかなと思った。そうして、アンジーに試着してみたと言えばいいのだから。

ズボンを脱ぎ始めたが、その時まで、あたりがずいぶん寒いことに気づかなかった。ズボンを脱いだとたん、寒気のため鳥肌が立つのを感じた。

キルトを履き、スナップを留めた時、外からアンジーが話しかけるのが聞こえた。

「ジャック? あなたに似合いそうなソックスを見つけたわ。中に入ってもいいかしら?」

入ってきてもいいと答えると、アンジーがカーテンドアの下からくぐるようにして中に入ってきた。僕の姿を見て言う。「とてもいいわよ。少なくとも、他の男と違って、ごつごつした膝をしてないのがいいわね」

それから彼女は一歩前に近づいてきて言った。「キルトで一番良いことは何か、知ってる?」 

僕が頭を横に振ると、アンジーはキルトの裾をめくりあげ、中に手を入れ、トランクスの上から僕の分身を握った。そして邪悪そうな笑みを浮かべた。「…答えは、これがずっと簡単にできること」

彼女は僕の分身を優しく撫で続けた。それと同時に唇を僕の唇に重ね、舌を口の中に入れてきた。僕が完全に勃起するまでほとんど時間はかからなかったが、勃起した後も、彼女は2分ほどキスを続けた。「あなたのズボンとソックスをちょうだい。店員に紙袋へ入れてもらうから」

この時点で、僕はキルトを履くことになるのだろうなと諦めていた。だが、ともかく、面目を保とうと思い、反論してみた。「でも、僕は、これを着て居心地良いとはまだ言っていないんだけど…」

「もちろん、そうでしょう。だって、初めてのことだもの。本当にキルトを履いて馴染めるかどうかを知るには、しばらくの間、着続ける必要があるんじゃない? さあ、準備ができたら、外に出てきてね」 

そう言ってアンジーは僕のズボンを拾い上げ、身をかがめて着替え部屋から出て行ってしまった。僕はキルトを履いて他人の前に出るほか道がなくなってしまった。前にも言った通りで、アンジーが何かさせようと決心したら、結局は、それに合わせなければいけないことになるのである。

勃起を鎮めるのに5分ちかくかかってしまった。その後、勇気を出して、着替え部屋から外に出た。エメラルド・グリーンのキルトスカートと膝までの黒いソックスを履いた姿だ。僕は、人々がその僕の姿を見て大笑いするだろうと予想していた。だが、実際は、笑う者など誰もいなかった。なんだかんだ言っても、その祭りに来ている多くの男たちと、あまり変わらない服装をしていたわけだから。

アンジーは、僕が着替え室から出てくるのを見たとたん、明るい笑顔になった。彼女の瞳がキラリと輝くのが見えた。彼女は僕に近寄ってきて腕をからませた。「それでこそ、私の彼氏よ! さあ、またお祭りの競技を観に行きましょう」

競技をいくつか、それに各部族の行進を見物した。その後、アンジーが僕に訊いた。「ねえ? どう? もうキルトを履いてても居心地悪くないんじゃない?」

「うん、まあ、大丈夫になってきてる。でも、まだ、ちょっと変な感じがしてる。ともかく、この、風が吹くのがおさまってくれればと、それを願うだけ」

アンジーは笑った。「うふふ… 今朝はキルトを履いていなかったのを喜ぶべきよ。ほんと寒くて、お尻が凍ったままになるんじゃと思ったくらいだから」

夕方5時になり、祭りは終わりにさしかかった。二人で駐車場へと歩き始めた。僕は彼女に訊いた。

「家に戻る途中、夕食を食べにどこかに立ち寄るつもり?」 

「いいえ。家に戻ったらすぐに夕食を作ってあげるわ」 彼女は僕の腕にしがみつきながら答えた。

「でも、大丈夫? 今から作り始めるにしても、ずいぶん遅い時間になってるけど…」

「もう作ってあるの。あとは、家に戻った後、オーブンに入れて温めるだけ」


つづく
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