「ポルノ・クイーンの誕生」 第8章 Making of a Porn Queen Ch. 08 by Scribler 第1章第2章、第3章第4章第5章第6章第7章
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3月の間、マークはかなり頻繁に家を空けた。普通は、月に2、3日ほどしか出張に出ないのだけど、3月は、むしろ家にいた日が2、3日ほどしかなかった。多分、マークは新人タレントを探しに、国じゅう回っているのだろうと思った。シカゴ、ニューヨークばかりか、マイアミやタンパにも行っていたし、サンフランシスコには何度も往復していた。

彼が私たちに何が起きてるのか話してくれたのは、3月末になってからだった。

マークは、ヘレンとマリアと私を椅子に座らせ、話し始めた。

「実は、今、大きな企画を考えていて、君たち全員にその手伝いを頼みたいと思っているんだ。多分、気づいているとは思うが、この1ヶ月、何度も出張をしてきた。これから撮ろうと思っている何本かの映画のために、女の子を揃えに行っていたんだよ。そこで、頼みだが、君たち3人に、2週間ほどアリゾナで過ごして欲しいと思っている。君たちをあてにしても良いかな?」

私は、どこであろうと、あてにしてくれて構わないと言った。マークなら絶対に信頼できるし、私にできることならどんなことでも彼のためにするつもりでいたから。マリアもほとんど私と同じようなことを言った。多分、それに参加することで、かなりの額の小切手も手に入りそうだというのも理由としてあったかもしれない。ヘレンは、マリアと私が行くなら、自分も行くと言った。自分だけここに独りでいるのはイヤだと。

私たちの返事に、マークはたいそう満足したようだった。

「3人ともありがとう。じゃあ、どういうことを考えているか、話すことにするよ。今度は、春休みを話題にシリーズ物で4本か5本、映画を撮ろうと思っているんだ。これと似た企画はすでにやったことがあるんだが、今回は、Tガールしか登場しないのを撮ろうと思っているんだ。名づけて『スプリング・ブレイク:Tガール流』シリーズだ」

私たち3人とも、これは良い企画だと思った。マークは企画についてすべて話してくれた。集まったTガールの中でマリアが一番年上なので、彼女がホテル支配人の役になるという。実際、これは大役で、マリアはかなり多くのセックス・シーンを演ずることになりそうだった。マリアは、この役を気に入ったようだった。

もちろん、ヘレンと私は、必要なときにフラッファーとして手助けをすることになった。マークは、集団が出るシーンではエキストラとしても私たちに参加して欲しいと言った。単なる代役なので、性的な演技は必要ないだろうということだった。何回か、トップレスになるシーンがあるかもしれないとのこと。ヘレンも私も、それでOKだった。

マークは映画についての説明を話した後、「マリアとヘレン、ちょっと席を外してくれないか。ステフィに話しがあるんだ」と言った。

これには、とてもナーバスになってしまった。これまで、こういうふうに一人だけ別にされたことがなかったから。

マリアたちが出て行くと、マークは私のところに近寄ってきて、ソファの上、私の隣に座り、私の手を握った。

「ステフィ、ちょっと訊いておきたいことがあるんだ。この前の夜、君はヘレンやビルと出かけただろう? あの夜、ビルは君に何かしたのかな? 何か君を傷つけるようなことを…?」

ビルは、身体的にではないが、確かに私を傷つけた。だから、ビルは私を傷つけなかったと言うことはできなかった。そう言ったら嘘になるし、マークには嘘はつかないことにしていたから。だから私は、こう言うことしかできなかった。

「彼は、私を身体的には傷つけなかったわ」

「…ということは、精神的には傷つけたということだね。そうだとしたら、残念だ。実のところ、この件を君たち二人ですでに解決してくれていたら良いと思っていたんだが、まだだったようだね。今回の企画に、君が必要なのは変わりないんだが、ビルの方がもっと重要なんだ。だから、君とビルが一緒に働くことができないとなると、ステフィ、君には家にいてもらうことになると思う」

私はマークから視線を外した。

「ビルとは何も関係がないと思うわ。あの夜から、もう8本も映画関係で働いてきたけど、何も問題が起きていないわ」

「ああ、確かにそうだが、ステフィがセットにいる間、ビルはずっとオフィスにいたからね。でも今度の企画では、全員がホテルに一緒にいることになるんだ。だから、ビルとは何度か顔を合わせることになるのは確実だ。君たち二人は、大人として礼儀正しく振舞えるものと信頼しても大丈夫だろうか?」

「ええ、私はビルに対してちゃんと礼儀正しく振舞います。保障します」 そう言いながら、なぜか涙が溢れてきてしまった。「彼も、同じように私に接してくれるといいんだけど…」

これまでは、ビルの示した拒絶に対して自己防衛を働かせてきていたのだけど、この時ばかりは、前の気持ちが戻ってきて、私は泣き出してしまった。

マークは私を抱き寄せた。

「ビルもほとんど同じことを言っていたよ。君とビルの間に何が起きたかは分からない。だが、これだけは覚えておくように。つまり、男というのは、時々、言うべきではないと思ってることを言ってしまうことがあるものなんだ。それに、自分でも怖くなってしまうようなことをしてしまい、他の人がどう思うだろうって悩んでしまうこともあるんだ。君たちの場合、事情が何であれ、君はビルにもう一度チャンスをあげるべきじゃないかと思う。ビルは、あの夜から、ほとんど毎日のように君に連絡を取ろうとしてきた。彼が気にしているのは確かだよ」

マークが言っていることは正しいのは分かっていた。でも、私には、ビルに拒絶されたという感情を拭い去ることができなかった。マークは、そのまま一分ほど私を抱き続けてくれた。ありがたかった。私はマークが仕事をたくさん抱えているのを知っていたので、身体を離して、こう伝えた。

「何か私にお手伝いできることがあったら、何でも言ってください」

「演技ができるTガールがもっと欲しいのが実情なんだ。それ以外はすべて整ったんだが…」

マークは、再び、新企画のことを考えていた。

マークの書斎を出ながら、私は、どうしてマークは私に役者として映画に出て欲しいと誘ってくれないのだろうと思った。自惚れかも知れないけれど、私はルックスは良いほうだと思う。それに、私はもう何回もカメラの前でセックスをしてきた。マリアばかりでなく、マークもトレーシーも、カメラの前で演じることにかけては、私は天性のものがあると言ってくれていた。

そのことを考えて没頭していたせいか、気がついたらマリアの真ん前に来て、ぶつかりそうになっていた。マリアは私の表情を見て、尋ねた。

「あらあら、どうしたの? 何かあったの? マークとの話しで?」

「いえ、大丈夫。マークは、撮影のときにビルが一緒で私が困るかもと心配してくれただけ。マークには、ビルが礼儀正しく振舞う限り、私も礼儀正しくするつもりと答えたわ」

マリアにはそう答えたけど、まだ心の中ではさっきの問題がくすぶっていた。

マリアは優しく私を抱いて、言った。「それじゃ、どうして、そんな悩んだ顔をしているの?」

私はマリアの腰に両腕を回した。「悩んでいるというわけじゃないの。ちょっと考え事をしていて…ちょっと訊いてもいい?」

「もちろん、訊きたいこと、何でも訊いていいのよ。答えられるかどうかは別だけど…」

マリアはそう言って私から離れて、キッチンテーブルの椅子に腰を降ろした。

私もマリアの隣に腰掛けた。

「ポルノ映画に出るって、どんな感じなのかしら?」

「ポルノ女優になるのがどういう感じかということよね? …まあ、実際のところ、他の人とそんなに違うってわけではないわ。仕事に行って、演技をして、そして帰ってくる。これについては、あなたもすべて知ってるはずよ。本当に訊きたいことは?」

話し出す前に、顔が火照ってくるのを感じた。

「街で、顔がばれたりすることがあった? それに、カメラの前でセックスするのは、カメラがないところでするのと同じ感じなのかしら?」

「顔バレについては、記憶にあるのは2回だけだったかな。でも、回数が少ないのは、私が出ているような映画を見る男たちは、たいてい、そんな映画を見ることを隠そうとするのが普通だからというのが大きな理由ね。トレーシーとマークの場合は、もっと頻繁に顔バレしてるわ。セックスの件については、カメラの前の方はあんまり満足できないわね。気持ちよくなるためじゃなくって、映画を撮るためにしてることというのを忘れてはいけないの。確かに、相手の人が一緒にいて楽しい人で、気持ちよくなるときもあるわよ。でも、大半は、ただの仕事。…でも、どうしてそういうこと訊くの? マークに、ただのエキストラじゃなくって、演技者として映画に出てくれって誘われた?」

「いいえ。マークは誘ってくれなかったの」

私が気落ちしているのが声に出ていたと思う。マリアはそれに気がついたようだった。

マリアは私の手を握って、気遣ってくれた。

「私は驚かないわ。マークは、役者じゃない人には演技を頼んだりはしないもの。ポン引きみたいに思われたくないから。マークはそういう人。あなたは、役者の世界に入ることを考えているの?」

私は、顔がますます赤く火照るのを感じながら、言った。

「それは考えてきたの。でも、マークは私を求めないだろうと思うの。私、そんなにカワイイわけじゃないし」

マリアは私の両手を握った。

「あなた、十分、可愛いわよ。それは確か。それに、あなたはカメラ映りも良いと思うの。でも、あなたのことを大事に思ってる人たちとホーム・ビデオを撮るのと、生活のためにポルノ映画を撮るのとは、大きく違うのよ …だから、慎重に考えてみてね。とっても楽しいこともあるかもしれないけど、大半は、ただの仕事だから」

マリアはもっと助言するつもりだったかは分からないけれど、彼女は、演じる役の打ち合わせのため、マークの書斎に呼ばれていた。

ポルノ映画に出るかどうかについて、私は、真剣に考えた。続く10日間ほど、そのことばかり考え、他のことは考えなかった。目の前にカメラが来ている状態でセックスをするといのはどんな感じなのか、それについては分かっていた。その頃までには、そいうことにすっかり慣れていた。

それと映画出演の違いはというと、別に愛情を持っていない人たちとそういう行為をするということだし、まったく知らない人たちが、たくさん、私の行為を見ることになるだろうということ。

私の中には、ぜひ、やってみるべきと言う部分があった。どういう感じなのかを知るためにも、少なくとも1度はやってみるべき。自分にできることなのかどうか、確かめたいと思っていたのは確かだった。今から思うと、何より、好奇心が勝っていたと思う。

自分の中では、映画に出てみたいという気持ちが固まっていたけれど、それをマークに言うチャンスはなかなかなかった。いつも今は適切な時期ではないように思えたし、マークも、いつも本当に忙しそうにしていた。

マークは、アリゾナ州ユマに行くためスポーツ汎用の4輪駆動車をレンタカーで借りた。ユマではホテルを建物ごと借りて、撮影を行うことになっていた。借りた車はマーク自身の車やトレーシーの車より遥かに大きく、荷物を含めて私たち5人で乗り込んでも、十分に余裕があった。

マークは、実際の撮影に必要となる機材をすべて運び込むため、トラックも借りていた。衣装類や小道具もこれで運んだ。ビルの編集用の機材もトラックに積んだ。

カメラマン2人、音声係2人、それに電気関係の人3人は、別のバンに乗って、私たちの車に続いた。そのバンには、衣裳係のパティに加えて、サミー・ウェイトとローレル・アダムズも乗った。もちろん、ビルもそのバンに乗った。

マークが採用した他のTガールズたちは、出番になる1日か2日前に現地に来ることになっていた。マークの計画では、該当する女優の大半のシーンをすぐに撮影してしまうことになっていた。そうすれば、彼女たちも出番を待っていつまでも拘束されることもないだろうと。

マークが借りたホテルは、大規模な改修工事をされるところだった。その工事のため2カ月ほどホテルを閉鎖することになっていたのだが、マークが働きかけて、安くその場所を使用する契約を取ったのだった。ホテルは、最初見た時は、ちょっとみすぼらしい感じだったけれど、確かに、魅力的なところもあった。マークが言うには、ビデオを見る人はセックスに注目しているので、このホテルのみすぼらしいところには誰も気がつかないだろうとのことだった。

マークとトレーシーはこのホテルの中で一番良い部屋に入り、マリアとヘレン、そして私は、マークたちの隣の部屋に入った。マークたちと同じ部屋にならなくても良かったし、私たちも、別の部屋を望んだのだった。それに、多分、結局は、みんなが同じ部屋に集まることになるだろうとも思っていたから。

ローレルはボーイフレンドを連れてきていた。週末だけ、ここに来るらしい。彼女たちはサミーと同じフロアの部屋に入った。サミーは、その時はボーイフレンドがいなかったけれど、そもそも、欲しくなることもないだろうと彼女は思っていた。クルーの大半も、同じフロアの部屋に入った。ビルもその中に含まれている。

その夜の夕食では、私たち5人が一緒にテーブルについた。テーブルを見ると、私の右隣の椅子が空いているので、6人分の用意ができているようだった。私たち5人だけだと思っていたのに。

そして、一番、恐れていたことが起きた。ビルが現れ、ご一緒できますかと訊いたのだった。

食事は楽しく、会話もユーモア混じりで楽しかった。マークは、これまで作ってきた映画のことについて、その失敗談を楽しく語った。マークの話しがとても面白くて、私たちは笑い転げてしまい、ビルが偶然に私の手に触れても私は気にしなかった。

ディナーの後、ヘレンとマリアと私の3人で散歩に出かけた。外はとても美しかった。想像していたほど暑くなかった。アリゾナと聞くと、普通は砂漠を思い浮かべ、すごく暑いところを想像すると思う。実際はそれほどでもない。散歩のあと、私たちは部屋に戻った。

部屋では、私たち3人は、深夜まで愛し合った。もっと言えば、互いに抱き合いながら眠りに付いた時には、すでに午前4時を過ぎていたと思う。その日、どんなことが起きるか知っていたら、私たちはもっと早く寝ていただろうと思う。

朝の7時ちょうどに、マークが私たちの部屋のドアをどんどんと叩いた。私が出た。

「マリアに、1時間以内にロビーに降りてくるように言ってくれ。マリアは、撮影開始の前に多少、朝食を取っておきたいと思うだろうから」

マリアはあまり楽しそうな様子ではなかったけれど、出演料をもらう以上、指示に従わないわけにはいかなかった。

ようやくロビーに行った時には、もう、マリアには朝食を取る時間はなくなっていた。マリアはフルーツを二個ほど取って、そのまま、マークに会いに行った。その後、コスチュームを着るため、衣装室に連れて行かれた。

1時間後、マリアはホテルのフロントに立っていた。今朝の撮影は、大半がマリアのクローズアップ撮影だった。ヘレンと二人で撮影の様子を離れたところから見ていた。マリアは、架空の宿泊客を相手に話しかけ、チェックインの作業を演技していた。

正午近く、ランチの時間であることが告げられた。マリアは部屋に戻ってきてベッドに横になった。頭痛がするといっている。ヘレンはマリアに連れ添うことにし、ランチの間は、マークとトレーシーと私の3人だけだった。幸いビルはいなかった。すでに撮影が済んだシーンについて作業があるらしい。

私は、この機会が、この映画に出ること、あるいは少なくとも他の映画でも良いけど、映画に出ることについて、マークに話しをする良いチャンスだと思った。サラダをフォークでいじりながら、マークに話しかけた。

「映画に必要な女優はみんな確保したんですか?」

マークはくすくす笑った。

「この種の映画では、いくら集めても足りないものなんだよ。でも、何とか間に合わせるだろう。明日あたりには35人、女の子がやってくるけど、正直、もっと欲しいところだな」

マークが食べ物に噛りつこうとした時、私は言った。

「もし、良かったら、私を使ってくれていいんですよ。というか、私、この映画に出たいと思ってるんです」

マークは食べ物を口に入れ、噛み下した後、返事した。

「いや、ステフィはこの映画に出ることが決まっているよ。すでに、あるシーンでは君とヘレンをプールサイドにいる人の役に指名してある。別のシーンではバーにいる人としても君を予定してある。加えて、君には他の仕事もあるのを忘れないでくれよ。君なしでは、この撮影はうまく行かないと思っているんだから」

私は、この時すでに両手が震えていたし、球のような汗が額に浮かんでいる気がした。声に出したけれど、少しどもっていた。

「わ、私をローレルやサミーと同じように使ってくれても良いと…」

マークはショックを受けたような顔になった。このような表情になったマークを見るのは初めてだった。マークは、その後トレーシーの方を見た。彼女はマークよりもショックを受けた顔になっていた。

マークは手に持っていたフォークを置き、私の手を握った。

「君は、ローレルやサミーが何をしているか、ちゃんと理解してるはずだが…。僕たちは、彼女たちのセックス・シーンを撮影するんだよ。しかも何回も。それを分かってると思うけど?」

「分かっています。まさに、それをしたいんです。でも、あなたが、私のルックスは充分でないとか、未経験すぎるとお思いなら、仕方ないけど」

「おーい。もっと前にそういうことを言ってくれてたらと思うよ。ルックスの良さについて言ったら、君は大丈夫。もっと言えば、君のような女の子を50人集められたら願っているほどだ。ステフィは、ちょうど大学に入れる年齢だね?」

マークの頭の中が高速で回転しているのが見て取れた。

「なぜ、やってみたいと思うんだい? お金かな?」

「ただ、試してみたいだけなんです。やってみたと言えるようになりたいだけ…それに、お金は関係ありません。この種のことがどれだけのお金になるか分からないし。ただ、試したいだけなんです」

「本当に、これをしてみたいと確信しているなら、是非、君にも加わってもらうようにするよ。でも、試してみて、気に入り、続けたいと思った場合は、今の作品がリリースされる前に君のデビュー映画を一本撮りたいと思う。この『スプリング・ブレイク 1』をリリースする前に、君の名前を公けにしておきたいんだ」

その後は食事の間、何も話しはなかった。マークは私を連れてロビーに戻ると、トレーシーの耳元に何か囁いた。私はマークの後について行くべきだと思ったけれど、トレーシーは私の腕を掴んで、引き止めた。

トレーシーはマークが立ち去ったのを見届けて、私に話しかけた。

「マークは、私に確かめて欲しいって思ってるの。あなたが本当に自分が飛び込もうとしている世界がどんなところか分かっているのかって。私たち3人だけでするのとは違うのよ。10人以上の人が同じ部屋にいて、あなたのことを見ることになるの。そういう中で、あなたと相手の人だけでしているように振る舞わなければいけないのよ」

「分かってます」 ちょっと皮肉っぽく返事した。

トレーシーは少しイライラしているようだった。

「それに、いろんなことを自分一人でしなければいけないわ。カメラが動き出したら、誰も助けてくれないから。特にデビュー映画はそういう感じになるはず。普通は、登場人物はあなた一人だけ。セクシーな下着で着飾った姿で登場し、その後、おもちゃや手を使ってオナニーして、イクという形」

確かに、私はそれは知らなかった。それまでオナニー・シーンの撮影を見たことがなかった。それに、トレーシーと一緒に住むようになるまでは何度も自慰をしていたけれど、一緒に暮らすようになってからは、まったくしていない。そういうシーンをみんなの前でするのは、確かに、恥ずかしいだろうなとは思った。

その気持は口に出さなかったけれど、トレーシーは私の顔の表情から私の気持を読み取ったようだった。彼女は、私の高慢な鼻をへし折ったかのように、微笑んで、言った。

「それで、そういうことを本当にやってみたいの?」

「…ええ」 そうは答えたものの、前ほど自信に溢れた声ではなかったと思う。

トレーシーはテーブルから立ちながら、言った。

「そう… 分かったわ。じゃあ、花びらデザインの紫のビキニを着て、ホールに来て。パティがメイクをしているから。私はそこで待ってるわ」

自分がどいう世界に飛び込もうとしているのか、本当には分かっていなかったけれど、ともかく、やってみることになった。


つづく
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